マッサージ
「これはすごいな。特に運動をしたわけでもないが、汗が出てきた…。」
「そうなんですよ。私も最初に飲んだとき驚いて。こんなに効果があるんですねえ。」
お茶をのんでしばらくのんびりしていると、自然と汗をかき始める。
暖かいお茶というのもあるが、それにしても不自然なくらいに汗が出てくるのがこのお茶のすごいところだ。
「汗をかき始めたところで、ここに座っていただいてもいいですか?」
私は床にタオルを敷いてあるところを指さす。
「次は何を企んでいるんだ?」
お姉さまは意地悪っぽく呟きながら座る。
これをしようと考えたとき、お姉さまだと絶対何かやりかねないと思い悩んだ。
結果、こうすればいいと結論がでた。
「足、冷えないようにタオルで包みますね。」
「ああ。」
足を少し強めにバスタオルで包んでしまう。
これでバスタオルをはずさない限り身動き出来まい。
「では、今からリンパマッサージというのをやります。お体に触れても?」
「リシアならどこでもさわってくれていいぞ?」
「変なところは触りませんからね?」
そう。リンパマッサージだ。
やはり体にたまった毒物はリンパに乗って排出されるイメージがある。
気休めかもしれないが、お姉さまの健康への一端となればと思ったのだ。
とはいえ、そのままやるとまたお姉さまの妨害が入りかねないので、暖める名目で足を包んだわけだ。
「では鎖骨から…」
肌が白くて、とても綺麗だ。
鎖骨の部分は筋張っていて、体の線の細さを感じさせる。
なんというか、変な意味で精神衛生的に良くないな。
さっさと終わらせてしまおう。
鎖骨の手前の筋に指を乗せて、沿わせるように揉み動かしていく。
「んっ…」
「そういうのじゃないんで、変な声出さないでください。」
「そうは言うがリシアの手つきがいやら痛い痛い痛い!」
ムカついたので思いっきり鎖骨に肘で体重をかけておく。
「ここが悪いなってところあります?」
「腕は良く痺れが来るな。」
「では腕を曲げてもらえますか?」
曲げた肘の外側から内側へ、内側から二の腕の方へもみ上げて鎖骨へ流す。
力が強くゴリラ扱いされるがっしりしたイメージのお姉さまだが、腕は細い。
だがけして華奢というわけではない。触ってみると解るが、密度が高く引き締まっている印象だ。
私の腕とは全く違う感触に一種の魅力がある。
「鍛えてらっしゃるんですね。」
「最近はさほどだぞ?もう少しすればゆるめのトレーニングから再開しようとは思っているが。」
「触ってみると私の腕とは違うくてびっくりしました。」
「あまり、女らしくないだろう?」
「でも、素敵だと思います。」
「そう言ってもらえるなら鍛えた甲斐もあった。」
この腕も、今後はもっと逞しくなっていくのだろうか。
そんな姿を想像しながら丹念にリンパをマッサージしていく。
「服の上からではやりにくくないか?」
「大丈夫ですよ。」
「邪魔なら脱がせてくれてもいいんだぞ?私はバスタオルのせいで身動き出来ないからな。」
「いえ、結構です。」
腕からそのまま脇腹へのマッサージへと移行していく。
腕より下は鎖骨ではなく鼠径部に流れるように。
お姉さまの脇腹から腰回りに目を落とす。
くびれがすごい。以前お風呂でみた感じ、腹筋が鍛え上げられているので、その恩恵だと思われる。
「お姉さま、本当にスタイルがいいですよね。全体的に長くて、しっかりくびれがあって。」
「今日はえらく褒めてくれるな。照れるだろう。」
「ならこれ以上言いませんね?」
「もっと褒めてくれ。」
腕を上げてもらい、腋から下へと流していくイメージで揉んでいく。
「ん、んんっ…あっ」
「ごめんなさい。くすぐったいですか?」
「…いや、大丈夫だ…」
さすがに腋は場所が悪い。
こらえてくれているうちに下へおろしていこう。
「ありがとうございます。終わりました。」
「これは効くな…汗が出てきた…」
お姉さまが顔を上気させながらそう呟く。
いや、違うと思います。
「では、後は足ツボを押してから上に向かって流していきますね。」
「頼む。」
バスタオルの一部を捲って足を出す。
細くて長く、白い綺麗なおみ足だ。
前世に良くいた踏まれたい性癖の方々の気持ちが何となく分かってしまうような気がする。
「やはり足はすごく冷たいですね。」
「ああ、昔はそうでも無かったんだが…やはりこれも鉱毒の影響かもしれんな。」
「貧血を起こすのもあって、血の巡りが悪いんでしょうね。少し念入りにツボを押していきましょう。」
そう言ってツボを押してみる。本当に綺麗な足だな。
「痛っ…」
「痛いのは特に悪くなってる証左らしいですよ。少し強めに押しますね。」
「あだっ!痛い痛い!」
「ちょっと我慢してくださいね。」
「待て!ちょっと待ってくれ!!」
ダメだ、痛がるのを見てると楽しくなってきた。
「リシア!?何を笑って!?痛い!!待て!!痛い!」
少しの間そうしてお姉さまで遊んでいると、お姉さまは息も絶え絶えに横になっていた。
「リシア…」
「とっても足ツボが効いたようで良かったです。」
「反省しています…」
何を反省したのかはわからないが、これで行いが改善してくれると良いのだが。
「では後はこのまま上に上にあげていきますね。」
「痛くないように頼む…」
「ちゃんとしていれば痛くないと思いますよ。ちゃんとしていれば。」
「はい…」
そこからは静かになったお姉さまの足をゆっくりとマッサージした。
「リンパマッサージはこれでお終いです。」
「なんだか健康になった気がするな。」
「そんな早くはでませんよ。これからも定期的にやりましょう。」
「…足ツボもか?」
「当然では?」
「これからは慎ましくするのでどうか手心を…」
「それは行い次第ですかね?」
新しいおもちゃを見つけてしまった。
しばらく遊べそうだ。
「…本当は、私の癒しの力が目覚めればすぐなんですけどね。」
「リシアはいつも私を様々な面で癒してくれている。これ以上何も望まないさ。」
「これからも出来ることから私も支えていくので、健康になりましょうね。」
「…ああ。よろしく頼む。」
私はお姉さまの背にそっと手を沿わせた。
「…ところで、この足のバスタオルはもう解いてもかまわないか?」
「ダメです、外したらまた余計なことしかしないじゃないですか。」




