そばにいる
「お姉さま、お疲れ様です。お変わりはありませんか?」
「ただいま。実に有意義な昼食会だったよ。」
私はお姉さまの帽子などを受け取り、楽な格好になるよう手配する。
夕食は食べて帰られるそうなのでそちらの指示も出しながら、私も何か一品作ろうか。
疲れているだろうから甘いものとお茶も--
「ひやっ、お姉さま!?」
バタバタと支度をしている私を捕まえてお姉さまは私を抱き寄せ頬ずりをする。
「そうしていると、本当に私の伴侶になったみたいだな?」
「ご覧の通り、私お姉さまのお世話で本当に忙しいんですけど?」
まぁ、多分抗議しても離してくれないんだろうなと思いながらもとりあえず抗議してみる。
「私の世話と言うのであれば、一番大切な私を癒すという仕事があると思うのだが?」
「ありませんね。」
お姉さまは私の肩に顔を埋め、思いっきり息を吸い込む。
私を吸うな。やめろ。
「ツレないなあ、私の伴侶は。疲れて帰ってきた私にリシア成分を摂らせてはくれないのか?」
「お疲れかと思って甘いものを用意させておりますので、私を摂る必要は全くありませ…んあっ」
私の首筋を甘噛みした感覚で体の全身に電気が走る。
いい加減にしろこの馬鹿。私を食べようとするな。
「可愛いな…私のリシア…」
「次、それやったら問答無用で追い出しますからね?本気ですよ?」
「ふふ、それ以外は全部許してくれるのか?」
「拡大解釈って言うんですよ。そういうの。」
とりあえずもうお姉さまのことは諦めて、私に引っ付けたまま引きずって、色々な指示を出していく。
少し前は使用人たちも面食らっていたが、今や皆スルーだ。優しい?人等だと思う。
「リシアに毎日こうして帰りを出迎えてもらいたい…。」
「はぁ。私はそうなるつもりでいましたけど。」
「…そうか…」
あれ、珍しく照れているようだ。
もう甘い言葉でお姉さまを揺さぶることが出来なくなって寂しく思っていたが、まだこういう素っ気ないけど愛を感じるような言葉には弱いらしい。
「むしろ、そうならないんですか?レベッカお姉さま?」
「…絶対にそうする…」
「はい。なら私から特に言うことはありませんね。」
照れて肩に顔を埋めながらもそう言ってくれるお姉さまが可愛い。
最近は甘えられてばかりだから、たまには良いだろう。
「お風呂は入っていかれますか?」
「リシアと入れるなら。」
「ご自宅でですね。わかりました。」
私はため息を吐きながら用意を進めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、陛下との昼食はどうなったんですか?」
用意したスイーツにハチミツをかけているお姉さまを横目にお茶を飲みながら聞く。
「ああ、大体の要求は飲んでいただけた。何より、幸せになれとお声かけいただけたよ。」
「陛下もお姉さまのことを考えていらっしゃったのですね。」
「本当に身に余る光栄だよ。…私もリシアも、幸せ者だな。」
「最近、よく実感させられます。」
周囲の協力や善意に思いを馳せる。誰一人の手が無くとも私たちはこうならなかっただろう。
「ただし、条件はつけられた。学園卒業までに当主の座の権利を掴み取ること。それが出来なければエドワードと結婚しておけと。」
「なるほど。それもお姉さまへの配慮に聞こえますが。」
「だな。…残り一年半、私は当主となるために努力するつもりだ。」
「具体的にはどういった課題があるのでしょう?」
「実は、そこまでないのだよ。当主代理としてすでに執務を少しずつこなしている現状、内政面に関してはもう条件をクリアしている。ましてや、私はヒューバート皇子殿下までの繋ぎだからな。」
「では、やはり体調面の問題ですか?」
「だな。日々良くなっている実感はあるが、やはりまだ長時間剣を握っていられるほどではない。本調子に戻せば、異論を挟む奴らを軒並み叩き伏せてやる自信はあるんだがな。」
「私はお姉さまの体調についてサポートしていけば良い、ということですね?」
「そうだな。手始めに毎日私のベッドで寝ないか?」
「お断りします。そういうのはご当主となって私を迎えられてからで。」
「…そうだな…」
さっそく見つけた弱点を攻めていく。
はー可愛いなあ、そうなったときのことを考えて赤くなってるのかなあ。
「となると、基本は日々の食事や、お姉さまが無理しすぎないように管理する感じでしょうか。…あまり今までと変わりませんね。」
「まぁ、そうだな。これまで尽力してくれていることは、良く知っている。これからも私を支えてくれ。」
「ええ。」
この人と歩む未来が見えてくる。
このとき私は、まだ希望に満ちていた。
五章、これにて終了です。
五章のテーマは「そばにいて」
三章で結ばれた二人が、共に歩むということを意識して積み上げて行く日々をメインとして描いた章でした。
五章の始め、もう失いたくないとリシアに甘々のレベッカにたじたじのリシアでしたが、日を跨ぐにつれて慣れていき、最後の方には結構扱いがぞんざいです。
そういう二人の“慣れ“も見ていただければなと。
最初の構想からすると随分と話は大きくなったと実感するのですが、それでも物語として語りたい部分は2/3を過ぎたように思います。
これよりは物語の佳境、転の後半から結へと入っていきます。
これからも二人の物語を共に見守っていただければ幸いです。