朝
目覚めたとき、お姉さまの顔が目の前にある。
記憶を脳内で整理する。そういやお姉さまの家で寝るお誘いをされて来たんだった。
「お、おはようございます…?」
「ああ、おはよう。よく寝ていたな。」
そう言ってお姉さまは私に笑いかける。昨日見た笑顔より、ずっと不器用な笑顔だ。
「あの。」
「なんだ?」
「離してもらえますか?」
「まだ学園には時間はあるぞ?」
「そういう問題なんですかね?」
お姉さまは私をがっつりホールドして離さない。
いや本当にそういう問題ですか?
「もう少しリシアを感じていたいんだが…。」
「お姉さま、本当のバカですね?」
少し前まで、グイグイ行くと慌てて可愛らしかったのに、最近はむしろ来られて動揺している私がいる。
こんなはずでは。いじめて成長しすぎたか?
「バカとはなんだ。怒ったから離さない。」
「はぁ。離すつもりないだけでは。」
「そうだな。そうとも言う可能性はある。」
やはりバカだった。バカ。
ていうか、なんですけど。
「まさか誕生日にお姉さまと一緒に寝ることになるなんて…。」
「離れがたかったから、ダメ元で聞いてみたんだが…。聞いてみるものだな。」
「今しっかり判断出来るときに聞かれたらオッケーって言いませんよ…」
以前のお姉さまなら安心感があったが、今はもう油断ならない。
先日みたいに服を脱がされた挙げ句キスされながら抱き締められるだけでもアウトに近いのに。
そういうのが、イヤってわけじゃないんだけど、ね?
「しっかりと責任持ってリシアをローエンリンデに迎えられるまでは、我慢するさ。」
「今のお姉さまはイマイチ信用ならないんですよね…」
「心外だな。」
「そう言うなら離してもらえます?」
「それは難しい、わかるだろう?」
「そう言うとこだと思います。」
今も抱きしめながら私の髪を触っている人の言うことでは少なくともない。
「さて、離したくないのだが、学園に行く前にお風呂に入らないとな。…共に入るか?」
「ぜっっっったい嫌です!」
「つれないな。」
お姉さまは起き上がって湯の準備をさせる。
人に指示を出すときはただの立派な貴族当主なのにな。
「リシア、先に入るか?」
「いえ、そうしてお姉さまに『リシア、入るぞ』って入ってこられるのが目に見えてるので、お先にどうぞ。」
「夏はあんなに共に風呂に入ったというのに。」
公衆浴場と人の家の風呂場は大違いでしょ!!
わかってて言ってるだろ!!
「仕方ない。少し風呂に入って身支度をするから、上がったらリシアも入るよう呼ばせよう。」
「はい、お願いします。」
そう言ってお姉さまは私をベッドに残してお風呂へと向かった。
…ちょっと、やりたいことがあったんだよな。
お姉さまが居なくなったのを見計らって、ベッドシーツを顔に寄せてにおいを嗅ぐ。
「お姉さまの匂い…」
さっきまでそこに本物があったのだけど、これはこれで良いものだ。昔貸した上着の比ではない。
少し気恥ずかしいけど、見られていないなら問題は…
「ああ、リシア。着替えは………。」
「いや、これは、誤解で。」
「以前エヴァンス子爵からリシアが部屋に飾っている上着の匂いを嗅ぎながら転げ回っていたと聞いたが?」
「何言ってくれてんですか父上!!」
私今日からどんな顔でお姉さまを見れば…
「何、本物がここにあるんだ。存分に堪能したらいい。」
そう言うとお姉さまはベッドに横たわる私をお姫様だっこしてどこかへ運ぼうとする。
「ちょっと!!お姉さま!?本物を堪能とかしませんから!!というか絶対お風呂へ連れて行くつもりでしょ!!一緒には入りませんからね!!お姉さまぁーっ!?」
じたばた暴れる私を何も持っていないかのように軽々と持ち上げて運ぶ。
“いい加減あきらめたら~?”
“うるさい!こんなときだけ出てくるな!!”
ニヤニヤ笑いながら見ているであろう私の姿を脳裏に浮かべ、絶対いつか痛い目見せてやるからな、と心に決めた後、私は無駄な抵抗とわかりつつも暴れるのであった。




