勘違い
「んんー、困りましたね…。」
誕生日プレゼント、どうしようか。
膝枕していたときにお姉さまに欲しいものはないか聞いてみたが、良さそうな回答はえられなかった。
とりあえず、カツサンド含む食事と、甘めの誕生日ケーキは用意するとして…何を贈るか、それが問題だ。
出会った知り合いに手当たり次第に聞いてみる。
シンシア様は「レベッカ様の喜びそうなプレゼント…?リシア様が持って行けば木の葉でも喜ぶのでは?」と
お父様は「ローエンリンデ公爵令嬢の喜びそうなものか。それはやはりリシアじゃないか?」と
お姉さまの周囲の評価どうなってんですか。もう少し健康的に暮らしてくださいお姉さま。
そんな評価に頭を抱えていたらお母様が通りかかって、お父様との昔話を語ってくれた。
「ニドは結婚が決まってしばらくして、打ち解けたときに自分で入れた刺繍入りのハンカチをプレゼントしたらすごく喜んでくれたわねえ。」
「刺繍入りのハンカチ!良いですね!」
「あなたもこういう時の為にうちに来たとき刺繍も勉強させられたんでしょ?やってみたら?」
「ローエンリンデ公爵家の紋章を入れたいんですが、紋章図鑑ってありますか?」
「ええ、部屋に持って行かせるわ。頑張ってね?」
私は早速無地のハンカチを買いに行き、用意を始める。
期限は来週しかない。お姉さまの家の紋章と名前を入れて、プレゼントにしたい。
私は習いはしたものの、使ってこなかった刺繍の知識を引き出しつつ不慣れな手つきでハンカチへと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「あー、眠いー…。」
「大丈夫か?」
移動の時にふらつきかけた私をお姉さまが支えてくれる。
「ありがとうございます。いや、もうとにかく眠くて。昨日ちょっと夜更かししすぎましたね。」
「なるほど、夜更かしはお肌の大敵と私をいつも叱るのは誰だったかな?」
お姉さまが抗議するように私のほっぺをつつき回す。この程度で曲がるお肌してませーん。
「とりあえず、お昼はお膝貸してくださいお姉さま…」
「おい、リシア、歩きながら寝るな!」
今日の授業はさすがのお姉さまもそこまでキツく寝るなと怒らなかった。
ごめんなさい、今晩はちゃんと寝ます。
◆ ◇ ◆ ◇
「リシア、今日は帰りにあの店寄っていかないか?」
「ごめんなさい!どうしても帰ってやりたいことがあるんです!」
「あぁ、そうなら仕方ないな。」
お姉さまはしょんぼりしていたが、お誕生日にあわせたいんです!ごめんなさい!
◆ ◇ ◆ ◇
「お姉さまのお家の紋章って何であんなに複雑なんですか…!」
「ん?ああ。服についてるこれだろ。良く服飾屋からも言われるよ。刺繍が大変って。」
「本当にそうですよ…!もっとシンプルになりませんか??」
「ううん、こう言うのって格式とかで決まっているからなあ。私の一存ではどうにもならない。」
「どうして…」
「何故リシアが落ち込むんだ?」
今刺繍で頭を抱えているからです。
◆ ◇ ◆ ◇
「リシア!今週末空いているか?一緒にお出かけに行かないか?」
「ごめんなさい、今週末はどうしても空いてなくて。一緒に行きたいんですけど。」
「そうか…私以外と何かあるのか?」
「一人です。お姉さま、また妬いてますね?」
「まだ妬いていない!」
まだって言ってる時点でもう妬いてるようなもんですよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「やっ…と終わった!」
食材の手配や、料理の準備、飾り付けの用意を平行して行った結果、本当に当日の朝になって完成した。
全てはお姉さまの家の小難しい紋章のせいである。恨みますよ。
太陽はすでに東から出ており、仮眠などすれば起きれなさそうだ。
「これはこのまま学園にいくしかないなぁ…!」
数日続いた睡眠不足に加え、完徹したことで妙にテンションが高い。
今にもスキップしたくなりそう。
私はそのまま高いテンションで学園に向かった。
「お姉っさまー!おはようございまーす!」
「ああ、おはよう。…リシア、隈がでているぞ?」
「これですか。ふふ、今日ちょっと寝てなくて…!」
「リシア。ここ数日のお前はちょっとおかしいぞ?寝ていないみたいだし、その…私との時間もとってくれない…とにかく、何をしてるんだ?」
「その件について今日ほんとーに大事な話がお姉さまにあるんですよ!学園終わったらお家に来てもらえますか??」
「まさか、その、有り得ないと思っていたが…私との別れ話とか………ごめん、また後で…」
そう言うとお姉さまが顔を伏せてどこかへ走っていく。
え、どうしたんですか急に。
「おい、リシア嬢。今レベッカ嬢が涙を堪えながらどこかへ走っていったぞ。どうした?」
あれ、私謎に高いテンションのせいで声の掛け方間違えた?