宿題
時は少し遡り…リシアが王都に帰ってきた頃の話。
「お姉さまぁ~助けてください!!」
私は開口一番、エヴァンス家に遊びに来たお姉さまにそう泣きつく。
「どうした?まさかまたエドワードの奴が何かを!?」
「違います!!夏期休暇の宿題が終わりません!!」
「…ああ、なるほど?確かに、リシアはエドワードに囚われている期間、宿題が出来なかったものな?」
「そうなんですよ!!なので、どっさり残ってて…」
「では、今日は宿題の日だな。ちなみに、避暑地に居たころにどれくらいまで済ませていた?」
「…え?お姉さまって、避暑地に宿題持ち込んでたんですか?」
そう言うと、お姉さまは頭を抱え始める。
だから、宿題どっさり残ってるっていったのに。
◆ ◇ ◆ ◇
「これは…筆舌に尽くしがたいな…。」
すごい、お姉さまの眉間にしわが寄っているのを初めて見たかもしれない。
普段いつも無表情だから。
「とにかく、私がここで見ててやるから、頑張るんだぞ。わからないことがあればどんどん聞けば良いからな。」
「え!?お姉さま手伝ってくれないんですか!?」
「当たり前だ!!宿題は自分でこなしてこそ、自分の物となる。根性から叩き直してやる必要があるようだな…?」
「やります!!やりますから!!」
今のお姉さまなら拳骨で頭を2つに割るどころか私の体ごと2つにしかねない。
命の危険を感じた私は素直に従い宿題を始めるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ローエンリンデ公爵令嬢、ようこそお越しくださいました。先日はろくにご挨拶も出来ず…」
「礼儀作法などはお気になさらず。ローエンリンデ公爵家としてではなく、リシアさんの友人として来ておりますので…。むしろこちらこそお邪魔しております。」
「お母様!?」
部屋で宿題に取りかかるとすぐさまお母様が入ってきてお姉さまに挨拶を始める。今も昔も人を自分の部屋に入れてるときの親来襲ほど恥ずかしいものはない。
「お母様、大丈夫ですから!ほら!お戻りになって!!」
「そうは言うけど、ご挨拶しないわけにはいかないでしょ?娘がごめんなさいね。こうしていらしていただいて宿題まで見てもらって。」
「いえ、私がやりたくてやってることですから。いつもリシアさんにはお世話になってますし。」
「もう!!おーかーあーさーまー!!出て行ってください!!」
私は耐えきれなくなり、お母様を部屋から追い出そうとする。
「ちょっとリシア、押さないの。それでは失礼します。お茶とお菓子も用意させてますので、是非ごゆっくりしていってくださいね。」
「ありがとうございます。」
そうしてやっとお母様は部屋を出ていく。全く、本当に恥ずかしい。
「リシアのお母様は本当に良い人だな。」
「まぁ、それはそうなんですけどね…。というか、お姉さま!?」
私は非難するように大声を出す。
「なんだ、大きい声を出すんじゃない。」
「大事ですから!!お姉さま、私の友人としてって言いませんでした!?」
「あ、アレはリシアのお母様の前だから…。」
「何をここで臆病になってんですか!!私は悲しいですよ!!」
「そうは言うがな…。」
「嫁入り前の娘にあんなことまでして、しらばっくれるんですか!?」
私、納得がいきません!
恋人って言い切って欲しかったです!!
「あんなことって…一線は越えていないだろう…。」
あのときのことを思い出したのか、赤面してそっぽを向く。
そんなことでは許しませんよ。
「私からすれば上着を脱がされた時点でもう三線くらい越えてますから!!お風呂とは違うんですからね!!しかも体拭いてないから嫌って言ったじゃないですか!!」
「でも、また会えた嬉しさで離しがたくてな…」
「それはまぁ、許しましょう!」
そう言われるだけで許す私のチョロさよなぁ…。
「でも、そこまでしたんですから、はっきり恋人と明言してくださいよ。ほら、お姉さま今すぐ恋人ですって訂正しにいってきてください。」
「なっ、それはもっとハードルが高くないか!?」
「高い云々じゃありません。あー、私悲しいなあ。お姉さまに恋人と思っていただけてないんだ。私だけが好きで、お姉さまには遊びだったんだ。」
私は目に涙を溜めて、堪えているフリをする。
お姉さまへの効果はバツグンだ。
「わかった。わかったからリシア。私を許してくれ?」
「なら、今からお母様にリシアとは結婚を前提にお付き合いしています。愛しの恋人です。って言ってきてもらえますか?」
「ハードルがさらに上がって…!」
「返事は?」
「はい。言ってきます…。」
ちょっといじめすぎただろうか。でもこれでしばらく言えずに帰ってこなくて時間が稼げるだろう。
鬼の居ぬ間に洗濯ならぬゴリラの居ぬ間にさぼり!!
転がっちゃえ!!
「はー、宿題ばっかりやってらんないよ。疲れて段々眠く…」
ここ最近の疲れが急にドッときたのが眠気が押し寄せてくる。これは…やば…
サボるつもりが爆睡してしまい、「お前は私が必死に言おうとしていた間に何をしていたんだ…?」と頭を2つに割られてしまったのはその後のお話。