愛の逃避行
私は窓から身を乗り出し、ぶら下がる。
次の窓の屋根が遠い。自分の低身長を恨む。
「ええい!とぅ!」
覚悟を決めて手を離して飛ぶ。
何とか三階の窓の屋根に乗れたようだ。
「えっと、次どうしたらいいんだろう…?」
そこまで考えてなかった。先ほどは窓の下に手をかけてから降りれたが、今は窓の上。
まずは窓の下に手を掛けるところまで行き着かなければならない。
窓の上からぶら下がって、下の縁に足をかけてから、手を掛けられるところを探して少しずつ下に下がっていくしかないか。
そう考えて、窓の上に手を掛ける。
マズい、想像以上に手を掛けられるところがない。
つるりとした窓に恨み言を吐く。
次の動きを考えろ。頭を回せ。
窓の縁に足をかけながら考え込む。
ミシミシッ…
「ちょっと待って!?私そんなに重くないから!?」
バキッ
その叫びも虚しく、足場は壊れる。
手だけでぶら下がっている状態だ。
「これ、飛び降りるしかないか。」
あまり時間をかけても見つかってしまう。
下には花壇があるし、足から落ちなければ歩ける。
そう判断した私は、躊躇わず手を離した。
「づッッッッ!」
声にならない叫びが口から漏れる。
足から落ちないことには成功したが、左腕を花壇に強く打ち付けた。
熱い。痛い。熱い。
恐らく折れているだろう。
でも、それだけだ。動け、私。会いに行くんだろう。
そう自分に言い聞かせながら、立ち上がる。
私は王家の別荘から逃げ出したのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
ここは避暑地とそう距離がない。
王都から避暑地までが馬車で1日半ということを考えれば、歩きでも3日4日かければ着くだろう。
だが、街道は使えないか。
追っ手は必ず来るだろう。捕まったら終了だ。
ここは遅くなっても街道をはずれたところを行こう。
太陽を見上げ方角を把握した私は、王都に向かって走り始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
走ると腕に響いて痛む。それでも私は走りつづける。
裸足で来てしまったから、もう足もボロボロだ。
辛い。もうやめてしまいたい。
そう思いながらも、足を進める。
見たことのある風景に出会う。
この小川は確か。
そう思い、山を登ってゆく。あのときはたくさん休憩したな。
頂上にあったのは、お姉さまと来た展望台。
最近のはずなのに、もう懐かしい。
「冬は恋人の領地で2人熱く過ごす。最高じゃないですか!」
ここで、お姉さまとした約束を思い出す。
その約束に元気をもらった私は、また走り始めた。