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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第三章 あなたのためなら
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あなたのためなら

レベッカ視点です。

「なんだ、綺麗な砂浜じゃないか。」


私は一人、使用人もつけず件の砂浜にやってきた。

下見をしたという話を説得材料の一つとしたかったからだ。


「見ろ、リシア。蟹だ。」


砂浜を歩く小さな蟹を見て指さす。

リシアなら、興味深そうな顔で私の話を聞いてくれる。

そう思って振り向いた私の隣に彼女はいなかった。


「ああ、そうだったな。」


居るべき人が居ない違和感に、世界が色褪せる。

きっと同じ時間同じ場所としても、リシアが居るか居ないかで世界の彩度は大きく変わるんだろうな、と思う。


「本当に人も居ないし、特に問題もなさそうだ。」


その場に座り込み、砂浜で遊ぶリシアの姿を思い描く。

それは恐らく、最高の時間だろうな。思い描くだけで解る。


リシアを説得するときは、あまりはしゃがないというのも付け加えよう。

要はあまり泳がなければ問題はないのだ。

泳いでいるリシアを砂浜で眺めるとかでもいいんじゃないか。


「海に足を浸けてみようか。」


私は履き物を脱いで、波打ち際に向かう。

海は私も好きだ。これくらいなら問題ないだろう。


波打ち際、膝が浸かりそうなところを歩き始めたとき、声がかかる。


「お姉さま、危ないです!」

「なんだリシア、来ていたのか。」


声をかけた相手はリシアだった。私の世界がその瞬間パッと華やぐ。


「お姉さま、ゆっくりと砂浜に上がってきてください。」

「はは、リシアはオーバーだな。歩いているだけじゃないか。」

「いいですから。速く。」

「わかったわかった。今行くよ。」


リシアがそう言うので私は仕方なく砂浜へ戻ろうと足を踏み出す。

だが、足場が良くなく、足を取られ、


「あっ!」


ころんでしまった。服がびしょ濡れだ。


「お姉さま!!」


その瞬間、悲鳴のような声をあげて、リシアが私へ駆け寄る。

何故だろう、その時、私の背に冷たいものが走るのがわかった。

ダメだ、来ては行けない。何故かわからないが、そう思ったときには遅かった。


リシアが海に足を踏み入れた瞬間、足が何者かに引き寄せられるように滑る。

そこからはスローモーションのように覚えている。

そのまま足をとられたリシアは、どんどん沖の方へと引き込まれていく。

泳ぐ余裕もなく、流されていくリシア。

私が起き上がった時にはもう、遠くにいた。


今すぐ助けに飛び込みたかった。

でも、私の体では、助けに行って戻るまでに貧血などを起こして、共倒れになる可能性が高い。

私が死ぬ分にはいい。リシアが助かるのなら。

でも、私ではリシアすら助けられないかもしれない。

そう判断した私は、すぐさま行動に移す。


「待っていろリシア!今助けを呼んでくる!」


遠くのリシアに声をかけた私は、駆け出す。

自分などどうなっても良い。ただ一秒でもはやく、誰かを。

走る。走る。走る。

誰も居ない穴場が、裏目に出てしまうとは。

それでも走る。走る。走る。


遠くに男性を見つけた私はとにかくそこへ向かって走った。

そこに居たのはエドワードだった。


「はぁ、はぁ。エドワード!」


息も絶え絶えな私はエドワードの名前を必死に口からひねり出す。


「なんだ、レベッカか。」


冷たい目。いつしか2人きりの時に見せるようになった、冷たい目。


「助けてくれ!リシアがおぼれているんだ!」

「君が助ければいいんじゃない?お姉さまなんだろ?」

「私じゃ、きっと一緒に溺れるだけだ!知っているだろう!」


こんな時にすら、私への悪感情を持ち出すエドワードに歯噛みする。

だが、私は一秒でもはやく、助けを呼ばなければならない。

そう思った私は、膝をつき、頭を地につけてエドワードにお願いする。


「頼む、リシアを、リシアを助けてくれ!」

「仕方ないな。場所は?」

「ここから真っ直ぐ行ったところにある砂浜だ!」

「わかった。君はそこにいろ。」


そう言ってエドワードは砂浜へと急いで向かい始める。

良かった、奴は泳ぐのも上手い。すぐに駆けつければ助かるだろう。

緊張の糸が切れた瞬間、私の意識はそこでなくなった。

これにて三章「あなたのためなら」終幕です。

章テーマとしては、お互いがお互いを思いやる、あなたのためなら何でも出来る。

そういったことがテーマでした。


個人的に、どうしても三章終幕はレベッカ視点で書きたい気持ちがあって、その運びになりました。

具体的な説明や補足はまた別でしたいと思います。


みなさまの応援、ご上覧が三章まで書き終える力となりました。

これからも2人の物語を共に見守っていただければ幸いです。

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