告白
前話の続きです。
前話から読むことを推奨します。
「療養の為に領地を離れ、王都に来ていた私だけがただ生き残った。完全に治ったわけではたいがな。」
「今回の貧血も…?」
「ああ。医者は10年かけて治すものだと言ってたよ。それまでは貧血を中心に内臓の不良や手足のしびれ、唐突に力が入らなくなったりもする。口の中で金属の味が常にしていて、味もあまりよくわからない。」
その瞬間、いくつものピースがつながっていく。
入学の時、急に表情がいつもより険しく睨むようにして離れて行ったのも。
ハチミツをたくさん掛けたり、濃い味の料理を好むのも。
お姉さまの体が異様に冷たかったり、寒がったりするのも。
全部これが原因だったのだ。どうして察せなかったのか。
もっと注意深く見ていれば、考えていれば、すぐに理解してあげれたじゃないか。
私は一体何を見てきたんだ。
「もっと安静にされていた方がいいのでは…?」
「そうは言われているよ。今無理に押して体を動かしたら、死にゆくだけだと。」
「それならどうして!」
「…私しか居なくなったとき、公爵家の当主は私になるのか、何度も話し合われた。結果は、私ではダメだった。公爵家は曲がりなりにも武家だ。王弟が王を支える剣となり興った家だ。鉱毒に冒され、武器もろくに取れぬ武家の当主など当主など呼べぬと。」
「お姉さまは当主としてやっていけるだけの力があります!」
お姉さまは努力の人だ。何だっていつも努力してひたむきに生きている。今は無理でも、必ずいつの日か力を取り戻せるはず。
「そう言ってくれるのはリシアだけだろう。私も、資格はないと思っている。そこで持ち出されたのが、幼いころ結ばれたエドワードとの婚約だ。陛下と王妃殿下は幸い私のことを気に入ってくれていた。故に、エドワードと結婚し王妃となる代わりに、エドワードの弟であるヒューバート殿下をローエンリンデ公爵家に入れ当主とすることとなった。」
「ヒューバート殿下が…。」
ヒューバートも原作では攻略キャラの一人だ。
年下のため学園では接点が無く、王城での出会いがメインとなる攻略難度の高いキャラである。
素直でわんこ系の純粋男子だったはずだ。
「鉱毒事件を引き起こした隣の領地は、同じ公爵家であり、両家とも元は王族だ。故に王家は事件をおおっぴらにすることを嫌い、裏でそう言った取引を確約した上で、事件を闇に葬り去った。父上と母上、そして兄は病で体調が優れず、引きこもっていることになっている。」
「そんなの非道いです…。」
「それもまた貴族と言えば貴族だからな。ただ、そうなったときに、学園にも表れず皇子とも不仲と言われる婚約者をどう見るだろうか。」
「…王妃として向いていないのでは、となりますね。」
「然り。そこに神託の聖女が数十年ぶりに降りたと報が入ればどうなる?」
「……お姉さまを婚約者から外して、癒しの力を持つ聖女を王家に取り込もうという案がでます。」
「ああ、ただリシアは気にしなくていいんだ。配慮に欠けていたな。そこで私は学園に通って、エドワードとも仲が良いように振る舞うことでアピールする必要があった。」
「もし婚約者から外されたら…」
「さて、当主にもなれない体調不良の女が一人と遠い分家が少しだ。どうなるんだろうな。」
「…お姉さまはお家の為に、無理を押してでも頑張るしかないと。」
「まぁそういうことだ。」
そんなの、そんなのって。
神託がおりなければ、私が居なければ、この人はもうすこし安静に出来ていたのではないか。
私が、癒しの力を発揮できていれば、今すぐ治してあげられたのではないか。
私は何も出来ないばかりか、足を引っ張っている。
「でも、リシアがこうしてそばに居てくれて、家族みたいに接してくれて、本当に感謝してるんだ。」
「そんな、私は…」
「リシアと食べる食事は一人の時と違って、美味しい。リシアと服を選んでいると、体調を忘れられる。リシアと勉強していると、時間がいくらあっても足りない。リシアと遊んでいると、幸せを感じる。リシアがそばにいてくれると、心が安らぐ。」
「お姉さま…」
「癒しの力が発揮できていなくても、リシアは私にとって生きる活力をくれる聖女だ。だから、これからもずっとそばにいてくれないか?」
自分にとって邪魔で足を引っ張るだけの存在。
そんな私を、それでもお姉さまは必要としてくれている。
どうしてそれを突っぱねられようか。
たとえ、これから何が起ころうとも--
「ええ、私はあなたのそばにいます。」
私があなたを守ってみせるから。
レベッカの過去編でした。
このシーンを二章ラストに持ってくるのが当初の想定だったのですが、予想以上にペンが乗りボリュームが…。
まだ三章は続きますが、一つ書きたかったシーンが書けて良かったです。