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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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混ざり合う

夕方どき。

私と紫杏さんは昼間からずっと続くお茶会を延長しに延長し、すっかり話し込んでいたところに二人が帰ってくる。


「紫杏ー。大量に釣ってきたから、□□にもちょっと持ち帰れるようにしてやってくれ。」

「あら龍ちゃんおかえり。わかったわぁー。」

「□□、ただいま」

「…麗香さん、釣れました?」


お姉さまがクーラーボックスを開けると、パンパンに詰まった龍斗さんとは大違いではあるが、それでも二、三匹の小さな魚が入っている。


「麗香さん、釣れたじゃないですか!おめでとうございます!」


私は素直に手をたたいて褒めるが、お姉さまは微妙そうな顔をする。


「…□□、それ、自棄になった麗香が波打ち際で網を差し入れてかき回したら入ってた奴だぞ。」

「…あの、ごめんなさい。」

「謝らないでくれ、もっと悲しくなるから…。」


私は肩を落とすお姉さまの背をぽんぽんと叩く。


「ま、そういうことだからよ。それじゃ足んねえだろうし、俺ら二人で食うにしちゃこっちは多すぎる。ちょっと持って帰ってくれや。」

「貴様の施しは受けない。」

「麗香さんステイ。ありがとうございます。」


龍斗さんに噛みつきかねないお姉さまを留めて私はお礼を言う。

文句を言う前に釣ってこい。


「それともこっちで一緒に食ってくか?」

「よろしいんですか?」

「今更遠慮って仲でもねえだろうよ。」

「良いんじゃない?麗ちゃんもお腹すかせてるみたいだし。」

「そんな私が我慢ならん食いしん坊みたいに…」

「「「いや、そうでしょ(だろ)」」」


当たり前のような口振りに思わず嬉しくなる自分がいる。

私も家族の端っこに加えてもらえているような気がしてくる。


「んー、これなら刺身にすっか…余ったらなめろうにでもしたら良いしな…。」

「ざっくり捌き方教えていただければ手伝えますよ?」


龍斗さんが調理している中、座してそれを待つというのも据わりが悪い。


「そりゃ、ありがたいが…あの今にもまた噛みついて来そうなアレはどうするんだ?三人でってほどうちのキッチンも広くねえぞ?」


横を見るとお姉さまが龍斗さんを視線で射殺すレベルで見ている。

以前にもあったな、こういうの。


「…私と□□でやれば問題なかろう。」

「いやいや、うちのキッチンだからな?一応。」

「なら、私と龍斗でやれば良い。□□はのんびり…」

「はーい、麗ちゃんはあっちで私とテレビでも見てましょうね~。」

「なっ、紫杏、おい!」


お姉さまは紫杏さんにずるずると引きずられていく。


「…解決したな。」

「…解決しましたね。」


私たちはお姉さまがこのまま無事に解放されることを祈り、手を合わせるとキッチンへと向かった。


◆ ◇ ◆ ◇


「…………!これが□□が切った分だ!」


お姉さまは食卓に並んだお刺身から一切れを箸で取って大事そうに持ち上げる。


「それ、俺が切った魚だが?」

「龍斗さん、龍斗さん…私、教わるのにそこらへんだけ包丁入れませんでしたっけ…。」

「…そうだな。あいつ、気持ち悪いな。」

「愛のなせる技ねぇ。」


お姉さまは幸せそうにそれに醤油をつけて、白米に乗せるとそのままいただく。


「私たちもいただきましょうか。」

「そうですね。」

「麗香が先に食い始めると、俺の分まで無くなっちまうからな…。」


龍斗さんが遠い目をしながら箸をつけはじめる。

先日の温泉旅行でお姉さまが語っていたことを思いだし、問うてみる。


「蟹とかですか?」

「麗香から聞いたのか?」

「ええ。蟹の日は龍斗さんをボコって食卓までたどり着けなくすることで口減らしをしたと。」

「その話、マジだからな。こいつろくでもねえぞ。」


龍斗さんはお姉さまを箸で指してそう文句を言う。


「この世は弱肉強食だ。蟹ならば尚更。」


お姉さまはその文句を独自の理論でピシャリと論破?し、気にも留めず刺身を頬張る。


「だから龍ちゃんいつも蟹の日、遅くに残りをしょんぼり食べてたのね~。」


紫杏さんはのんびり得心が行ったと言う風に頷く。


「気づいてなかったのかよ、紫杏。」


龍斗さんは驚きと呆れでため息をつき、紫杏さんにじろっと目をやる。


「だって、蟹だもの。仕方ないわねえ。」

「仕方ないな。」


お姉さまと紫杏さんは二人むしろおまえが悪いと言わんばかりに龍斗さんをにらみ返す。

龍斗さんはぐうの音も出ず怯む。


「お前等の蟹に対する熱量は何なんだよ…□□。□□はこちら側だよな?」


そこで龍斗さんはこちらを見て話を振ってくる。

まさかそうなるとは。


「えっ…ええ…?」


ここはバランスを取るために龍斗さんに味方した方がいいのだろうか。

とはいえ、お姉さまと紫杏さんの期待も裏切るというのも…。

私、私はどうしたらいい?

頭がぐるぐるする。


「リシア。」


お姉さまが優しい声でこちらに声をかける。

私はそれを聞いてはっとする。


「自分の好きに発言していいのだよ。誰も気にしない。」


そう、静かに、諭すようにお姉さまは語りかける。

心が少し暖かくなる。


「わ、私もお姉さまの蟹への執着はおかしいと思います!」


ちょっと大きい声出してしまった。後悔。

しかし、一瞬食卓がシーンとなったものの、すぐにふにゃっとした雰囲気へと様変わりする。


「どうしよう、□□ちゃん可愛いわね…。」

「わかるか?ああいうところのギャップがめちゃくちゃ可愛いんだよな…。」


龍斗さんはけらけら笑い、お姉さまと紫杏さんはそんなことを言いながらにこにことこちらを見ている。

その雰囲気に少し、安堵する。


「ところで、麗ちゃん、お姉さまって呼ばせてるの?」

「□□もリシア、だったか?事情聴取する必要があると思わねえか?紫杏。」

「そうねえ、そこらへんキリキリ吐いて貰わないとねえ…。」


ここに来て私たちが普段の呼び名で呼び合っていたことに気づく。

人前では名前で呼び合うようにしていたのに。


「……リシア。やっぱり今日は自宅でご飯にしないか…?」

「私もそれが良い気がしてきました。」

「なんつった理屈が今更通るとでも思うか?」


紫杏さんと龍斗さんの好奇の目が私たち二人を見る。

私たちは顔を見合わせて苦笑した。







□□が家族の一員として溶け込もうと龍斗に手伝いを申し入れているのは紫杏も察しがついているので今回はきっちり助け船を出しています。



テレビの前のやりとり

紫杏「□□ちゃんは私たちに溶け込もうとしてるんだから、嫉妬だけで邪魔しないの。」

麗香「それもあるが、□□がまた役に立とうとして何でも私が私がと率先して抱え込まないかが心配で…」

紫杏「過保護ねえ。そういうのは、そうなったときに私たちが方向修正してあげればいいの。」

麗香「放任主義、というのも大変だな。」

紫杏「そうよ~。私もずっとあなたたち二人を引き止めないようにするの大変だったんだから。」

麗香「私もか?」

紫杏「そうだけど?」

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