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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第三章 あなたのためなら
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パジャマパーティー

避暑地の宿泊施設は貴族向けとあって、基本一人一室になっている。

そのため一部屋のサイズはビジネスホテルに毛が生えたくらいのものだが、無駄に広くても私としては居心地がよくないのでありがたい。


夜。皆が夕食を食べ部屋に戻った後、私はこの日の為に買ったとっておきのパジャマに着替える。

淡いピンクのシルクで、肌触りが良く、暑い夏の夜にもヒンヤリ冷たい。手足の袖口はフレア状になっていて可愛らしく、購入のキッカケだ。


本当なら、このタイミングでエドワードが部屋を訪ねてくる。

夜間に女性フロアに女性を訪ねてくるとか、こうやって見ると気持ち悪い越えて怖いな、と思う。

こういうイベントは乙女ゲーだからこそ許される境地なんだろう。

まぁそもそも今やってこられたら私は奴をビンタだけでは済まないだろうが。


しかし、今日は私が訪ねる側だ。

枕を持ち、意を決して部屋を出て隣の部屋に向かう。

そう、ここにはお姉さまと共に来たので部屋も並んでいるのだ。

私はお姉さまの部屋のドアをノックする。


「お姉さま?リシアです。」

「おお、リシアか。どうした?」


ドアを開けてお姉さまが私を迎える。

ワイシャツ風のボタン留めのトップスにボトムスは膝下丈のワイドパンツ。ぬばたまの美しき黒髪は傷まないようにゆるくお団子にして纏められている。

男性風のコーディネートがお姉さまに素晴らしいくらいマッチしており、私は少しクラッとくる。


「今、お部屋にお邪魔しても大丈夫ですか?」

「ああ、ここからなにもする予定は無いから大丈夫だが…」

「ありがとうございます!お邪魔します!」


「すまないが使用人は全員使用人宿舎に返してしまってな。お茶を淹れてやりたいのだが上手く行くかどうか…」

「私、心得がありますからやりましょうか?」

「お客様に淹れさせるのも変な話だが、頼まれてくれるか?」

「私たちだと今更な気もしますしね。」


苦笑しながらも私はお茶を準備し始める。

快く部屋に迎え入れてくれて、こういうやり取りをすると、お姉さまにとって私は身内に近いものとして受け入れていただいてることが実感出来て、ちょっと嬉しくなる。


「お待たせしました。少しぬるめにしておきましたよ。」 

「ここはまだ涼しい方とは言えそれでも暑いからな。んっ、美味しいな。」

「お口にあったようで良かったです。」

「ところで、遅くにどうしたんだ?何かあったか?」

「実はお姉さまと共に夜を明かそうと思いまして!」


その瞬間姉さまがお茶を気管支に入れてしまったようで、お茶を噴き出しせき込む。


「大丈夫ですか!?今お拭きしますね?」

「いかんぞリシア、私は…」

「パジャマパーティー、ダメですか…?」

「ああ、パジャマパーティーな…。そういうことか。ちょうど良い機会だものな。」

「ええ、どうかお願いできませんか…?」

「その程度なら大歓迎だ。私もやってみたい。」

「嬉しいです!楽しみましょうね!」


淹れ直したお茶を手に、リラックスしながら私たちは談笑する。


「ところで、その持ってきたものは枕か?」

「よくぞお聞きくださいました!実は枕投げという文化がありまして…ちょっとお茶を避けて起きますので、お立ちいただいていいですか?」

「こうか?」

「ええ、そうですそうです。えいっ!」


お姉さまの顔に向かって思いっきり投げつけた枕を、お姉さまは造作もなく最少の動作で避ける。


「おい、何をするんだ?」

「枕投げというのは、柔らかい枕をぶつけ合う遊びです!枕ならぶつけても痛くないですからね!」

「ほう、どうすれば勝ちなんだ?」

「満足したら勝ちです!えいっ!」


私はお姉さまのベッドの枕をひっつかみ投げつける。


「何だその雑なルールは…まぁ良い、相手になろう。」


投げつけられた枕を片手で受け止めたのち、一歩を踏み出して…居なくなった!?


「ふふん、まずは一発。」


いつの間にか横にたっていたお姉さまは、私の頭にぽすっと枕を乗せる。


「まだまだ負けませんよ!えいえいっ!」


頭に乗せられた枕ともう一つ落ちていた枕を拾い二刀流だ。

どちらかでも当たれ!


「まだ、まだ、甘いな!」


お姉さまは跳び、訳のわからない動きで二つともキャッチして着地する。

ここがチャンス!


「これぞ隠し玉!三個目の枕!えいっ!」


着地した瞬間の身動きの取れない瞬間を狙ってそこに枕を投げつける。


「狙いはいいがな。想定が甘い!」


お姉さまは三個目の枕を両手に持つ枕でガードしたかと思うと…


「よいしょっと。これで同じくらいの身長になったな?」


その三個の枕を私の頭の上に乗せたのだった。


「悔しい!!絶対当ててやりますから!」

「良いな、いくらでもかかってこい?」


こうして壮絶なバトルが繰り広げられていたのだが、突如それが崩れる。


「お姉さま!?」


お姉さまが急に動きが止まったと思うと、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまう。


「心配…要らない…。貧血だよ…。」

「お顔が真っ青です!まずは楽にしてください!」


駆け寄って肩を貸し、ベッドへと連れ、寝かせる。


「最近はあまり出なかったんだがな…。はしゃぎすぎたらしい。」

「前々は良く貧血を?」

「ああ。」

「お医者様には?」

「知っている。少し、落ち着いたら話そうか…。」

「ええ。今はお休みになって…。」


真っ青なお姉さまの額をすっと撫でる。心配だ。


「心地いいな。そのまま少しの間そうして撫でていてくれるか…?」

「もちろんです。いくらでも。」


お姉さまを静かに撫でながら夜は更けていくのだった。





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