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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
273/321

君の名前 その1

麗香視点です。


リシアの小さい手がぺちぺちとパソコンのキーボードを叩く。

その度に画面には文字やグラフなどが浮かび上がる。

冬休み前ともあってレポートの追い込み時期だ。最近はずっとこたつでキーボードを叩いている。

上からだと顔をしっかり見据えることが出来ないが真剣な顔で向き合っているのは想像に難くない。

私はリシアの集中の邪魔にならないように、あまり引っ付かずに眺めている。

こういうときの真面目さ、集中力はなんだかリシアを一回り大きく見せてくれる。

そんな後ろ姿がとても素敵で、そばにいたいと思わせてくれるのだ。

そうしてレポートが一段落ついたのだろう。

リシアは長い息を一つつくと、最後に己の学籍番号と名前を入力する。

『学籍番号 1252番 西条 リシア』…?


「リシア、名前…。」

「え?」


リシアは名前を少し見つめた後、気づいたのか大きなため息をつきかぶりを振り、口を開く。


「疲れてますね。」

「ああ、お疲れ様。」


そのまますぐに名前を西条 □□と訂正する。

もう慣れてしまったが、相変わらず私はリシアの本名をどんな媒体でも認識できない。

実際に口に出したり書いたりは問題ないのだが、どうやら発音だけは認識できないままのようでえらく妙らしい。

なので私は人前以外では基本□□のことをリシアとしか呼ばない。

それはリシアの呼称が私にとって非常に呼び慣れたものというのもあるが、何より□□の名を認識してやれないということに負い目を感じているのだ。


「なぁ、□□。君はリシアという呼称をどう思っている?」

「何ですか急に。」

「なんとなく。」


やっぱり本名で呼んで欲しいって思ってるのかな。


「まず、お姉さまがつけて大事に呼んでくれる名前なので私は気に入ってますよ。今も疲れた頭が自分の名前をリシアだと勘違いしてたくらいなんで。」

「ふふ、そうかそうか。」


ひとまずそう呼ばれることは当人には悪いものではないらしい。

良かった。

思わずリシアを後ろから抱きしめてしまう。


「それと、リシアって呼ばれ始めた当時、まだあんまり自分の名前が好きじゃなくて。」

「それはどうして?」

「いやぁ、私にとって一番縁のない二文字だなぁと。ましてや平仮名なのがありふれてるのに妙にインパクト強くて好きじゃなかったんですよ。後は親からつけられたというのもありますが。」


□□は、リシアから一番縁のない平仮名二文字。

ここまで全然話題にしてこなかったから気づかなかったが、そうか。

こういう情報は別に大丈夫なのか。


「なるほど。でも今はそうでもないわけだ。」

「ええ。まぁ…ねえ。」


リシアは妙に照れたようにそう濁す。

うーん?


「じゃあ、私は□□って呼んだ方がいい?」

「リシアで慣れちゃいました。お姉さまが対外的に□□って呼んでくださるのも、色々違和感有るんで。」


なるほど。その違和感はもちろん発音も含まれるんだろう。


「ああでもそうですね。たまに呼んでくださるとぐっと来ますね。今までもたまに呼んでくださるじゃないですか。雰囲気が良いとき限定なの、お上手だなぁって思ってるんですよ。」


リシアはそう褒めながらも上を向いて目はじとっとした目でこちらを見ている。

何が言いたいのかこれはわかった。


「□□以外にこんなテクニック使ったことないが?」

「それ、そういうとこですよ!もう!」


私はリシアの耳元でそう囁くと、耳まで真っ赤にしてそう喚く。


「まぁ、なんで今は嫌いじゃないです。何というか、お姉さまか居なければきっと私はずっとこの名前が嫌いだったんじゃないかなって思います。だから、ありがとうございます。」


リシアが顔を隠すように下に向け、そう礼を言う。

その様子が可愛らしくてリシアの肩に顎を乗せ、包むように抱きしめる。

ああ、私も君の名前を認識してやりたいと切に思う。


◆ ◇ ◆ ◇


「火を使うときは気をつけて。包丁も!それから…」

「毎日…本当に飽きないな…。」


リシアが朝、家を出るのを見送りに玄関に立つと長々と注意が始まる。

もう毎朝の恒例行事だ。

少し前はほとんど寝ててあんまり頭に入ってこなかったが、最近は少し目覚めがよくしっかり内容が頭に入る。

とはいえ、この時間を面倒くさいと思うことには変わりない。


「飽きないってなんですか、私はお姉さまを心配して…!」

「わかったわかった。毎日ちゃんと留守番出来てるだろ?」

「それとこれとは!」


ぷんすか怒るリシア。

これ、更に長くなりそうだな。

そう思った私はかがみ、最終兵器を出す。


「んっ…んん………ぷはっ!お姉さま!?」

「いってらっしゃいのキス。お互い心配だから、おまじない代わりだな?」

「もう、いつもこれなんですから…。」


リシアは手をもじもじさせながら、そうぼやく。


「ふふ。ではいってらっしゃい。早く帰ってきて欲しいな?」

「ええ。まぁなるたけ。いってきます。」


私は玄関の扉を開け出て行くリシアを手を振りながら見送った。



そろそろ□□の中身が読者の皆様も解ってきたのではと思います。

答え合わせは次回。是非予想しておいてくださいね。

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