お風呂
かぽーん…
どうしてお風呂の擬音はかぽーんなのか。
たぶん手桶がお風呂のタイルと当たったときの音だと思うのだけど、実際の音はもう少し鈍く連続的な気はする。
そんな他愛のないことを考えながらも支度を進める。
この避暑地には大きくて豪華な浴場がある。
現代のスーパー銭湯を彷彿とさせるような出来で、学園の女性比率が低いため人が少なく広く自由に使えるのだ。最高！
「お姉さま、お風呂楽しみですねっ」
「ああ、そうだな。」
「お姉さまはお風呂好きですか？私はお風呂が本当に好きで！」
「私もだ。」
先ほどからお姉さまの返答は短く素っ気ない。
これは機嫌が悪いというか…
「さては友達と初めてのお風呂だから緊張していますね？」
「そうみたいだ…。情けないが。」
「私もこれでも結構緊張してるんですよ？だから一緒ですね？」
「そうなのか？そうは見えないが。」
「ええ、その、おかげさまで、今どこにいるかわからなくて…」
ここまでずっと私が先導して歩いてきたが、実は少し前から迷っている。本当ならもう着いているはずなのだ。
私たちは顔を見合わせた後、ひとしきり笑いあい、来た道を引き返したのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「まずは無難に大きい主風呂からですね！」
「私は詳しくないから任せるよ。」
かけ湯をした後私たちは一際広くゆったりと浸かれる主風呂に向かう。
手を差し込んで…湯加減も良さそうだ。
足からそっと湯船へと入り手足を広げ…
「あ゛ぁ゛、気持ちいい～。」
「らしからぬ声が出ているぞ…」
「こんなに広いお風呂中々入ることがないのでつい。手足を自由に広げられるって良いですね！」
「そうかもしれないが、もう少し慎みを持ってだな」
「どうせお姉さまぐらいしか居ないんですから。ダメですか？」
元々少ない女性比率に加え、比較的早い時間での入浴だ。
私たち以外に特に利用者は見当たらない。
「ダメ、ではないが…」
そういうとふいと顔を背けてしまう。
まだ照れがあるのかもしれない。
「お姉さまもどうですか？めいいっぱい手を広げるととっても気持ちいいですよ？」
「こ、こうだろうか…？ああ、これは確かに…」
「そうでしょう？思いきってくつろいじゃいましょう！」
「うむ…」
「次は泡風呂ですよ！」
「口に泡が…ガボガボ」
「それは普通に座ってください！」
「ツボ湯も良いですねえ」
「心地よすぎて出れなくなりそうだ…」
「サウナはお姉さま好みでは！？」
「良いな…汗をかくのは良い…」
「…私は先に失礼しますね。」
そこからお姉さまはしばらく出てこなかった。
なんだかんだで初期の緊張もほぐれ、二人お風呂を堪能した。
「お背中、お流ししましょうか？」
「あ、ああ、良いのか…？」
「もちろんです！」
背中を流そうと後ろに椅子を置いて座る。
お姉さまの背中、肌が白くて艶やかだ。
身長が高く座高もあるため、すらっと長く整った背で美しい。
突き出た肩胛骨の作るラインがただただ魅惑的でーー
「ひゃっ！？り、リシア！？」
「ごめんなさい、とっても綺麗だったのでついツツ…と」
あそこまで美しい直線美を披露されるとなぞりたくなるものだ。仕方ない。
「もうしませんから！次はしっかりお流ししますよ！」
かわいい反応にいたずらしたくなる気持ちを抑えて、背中を洗い始める。
身長差のせいで少し洗いづらい。背伸びしてみたが素直に立った方が速そうだ。
「あ、あの、リシア？」
「はい、なんでしょう…？」
「…いや何でもないんだ。」
「…？はい。」
なぜかお姉さまの反応がおかしいが、気にしないことにして丹念に洗い上げていく。
「はい、もう良いですよ！」
「そうか…ありがとう…」
「いえ、どういたしまして！」
良かった。一緒にお風呂を楽しむなら背中流しは必須だよね。
「…のぼせそうだ。」
「何か言いましたか？」
「いや…気にするな。」
こうして二人の入浴は楽しく過ぎていったのだった。
みなさまはお風呂は体を洗ってから湯船派ですか？それとも逆？
私は家風呂だと体を洗うのが先ですが、スーパー銭湯だと入り口のシャワーだけ浴びてから湯船へ直行です。
さて、なにが起こったのかは明記しませんが、設定集を見て想像してもらえると良いかもしれません。
9/5段階ではここまで読めば設定集にネタバレは特にないのでご安心ください。
