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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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事故後初の遠出 その5

「リシア、こっちこっち。」


お姉さまは手を繋ぎ先導するように、でも引っ張りはせずゆっくりとエスコートする。


「どこに行くんですか?」

「んー?のんびり風景を楽しめるとこかな。」


お姉さまはのんきにそんなことを口にする。


「何か、申し訳ないですね。」

「それはどうして?」

「だって、ほら。お二人に片付けすべて任せて私たちはゆっくりさせてもらうわけですし…。」


今頃コンロをがしがし洗っている最中ではなかろうか。

小さいとは言え炭焼きなので掃除は大変だと思う。


「ふふ、そうか。」


お姉さまはこちらを向き、私の頬を軽く撫でる。

続く言葉を待つが、お姉さまは愛おしそうにそのまま私の頬をむにむにするだけだ。

むかついたので顔を振ってお姉さまの指を振り払う。


「こっちだよ。さっき釣りをしに行く最中に良いところを見つけたんだ。」


お姉さまは方針を変えることなくそのまま歩いてゆく。

辿りついたのは閑静な林と、そこにぽつんと佇む大きな石。


「ここだな。」

「ここですか?」

「ふふ、ここに座って?」


お姉さまはとすんと石の上に座ると、足を軽く開きとんとんとその間を手で叩く。

私は誘われるように座ると、後ろからギュッと抱きしめられる。


「こんなところに、どうして?」

「人目を気にせずリシアといちゃつきたかっただけだが?」

「はぁ。そうですか。」


それだけなのか。

まぁ、確かにこう、森の中に二人きりと言った雰囲気があって、落葉も相まっていい感じだが…。


「リシアは私といちゃいちゃしたくなかった?」

「そんなことはないですよ?ただ今じゃなくて良くないですか?」


ちょっと抗議するように上を見る。

それに対してにやりと笑み返してるお姉さまが微妙に腹立たしい。


「リシア。今日は私が釣りに行く間紫杏と二人で何をしたんだ?」

「え?そうですねえ、紫杏さんの提案でお散歩コースを歩いたんですよ。」

「ほほう、楽しそうだな。のんびり出来たか?」

「それがですね、聞いてくださいよ。そのコースのウリが、すぐ近くで野生のアヒルが見れるだったんですけど、たどり着いてみると何故かアヒルがこっちに寄ってきてですね…」

「良いじゃないか、人懐っこいんだな。」

「私も最初はそう思ったんですよ。ですが、そのアヒルたち、私をしばらくジッと見た後、何を思ったのか服をくちばしで啄んで来て!私、慌てて逃げたんですけどみなして追いかけて来るんですよ!」

「ふ、ふふ。それでどうなったんだ?」

「必死に逃げる私と追うアヒルの間に紫杏さんが立って足止めしようとするんですが、もう全然止められなくて!もうずっと追いかけっこですよ!あいつら次見たら焼き鳥にしてやろうと思って!」

「あっはっはっは!それは難儀だったな!」

「笑わないでくださいよ。こっちは必死だったんですからね!」


腹を抱えて笑うお姉さんの横腹に肘鉄を入れる。

げほげほとせき込みながらもまだ笑っている。


「はは、すまない。でも楽しんだようだな?」

「それはー、まぁ。紫杏さんも大変良くしてくださりますし。」

「ふふ、そうかそうか。」


お姉さまが私を抱く手が一層強まる。


「龍斗とも、紫杏とも。私の家族たちと仲良くしてくれて本当にありがとう。」

「そんな、大したことはしてませんよ。あちらが仲良くしてくださるだけで…。」

「奴らは確かに気の良い人間だが、だからといって誰とでも仲良くするわけじゃない。リシアがあの二人と仲良くしてくれてるのは、リシア自身の努力の結果だ。」


麗香さんは私の頭を撫でる。

強く抱かれているので、抵抗も出来ない。


「リシアが私の家族と仲良くしてくれると、とても嬉しくなる。同時に嫉妬もするのは不徳の致すところだが。」

「先ほども妬いておられましたねえ。」


龍斗さんと魚を調理していたときのお姉さまの振る舞いを思い出す。

龍斗さんはすこぶるめんどくさそうにしていたな。


「だから、ありがとう。愛してるよ、リシア。」

「ふふ、でしたらどういたしまして。」


お姉さまに褒めていただいたのでここは素直に受け取ることにする。

ただ頬をすりすりするのはやめてください。


「ただ、私と龍斗が釣りに行っていたとき、リシアの話をしたんだ。」

「悪口ですか?」


私はそう軽く返す。

 

「ふふ、悪口って言ったら怒る?」

「まぁ、その場合理由があってのことでしょうからねえ。」


ちょっと悲しいが、きっとそのときは私もどこか悪いところがあるのだろう。


「本当に可愛いな。リシアは。」


めちゃくちゃ頭をよしよしされる。

そろそろ頭頂部がすり減ってそうだ。


「龍斗も私も。たぶん紫杏も。同じことを思っていると思うんだが…君は頑張りすぎる。」

「そうですか?」

「うん。車酔いの時もだけど…そんなに我慢したり頑張ったりしなくていい。もっと気を抜いてくれて良いんだよ。」


お姉さまはとても優しい顔で私の顔をのぞき込む。


「が、頑張ります…?」

「ふふふふふ。頑張るなと言ってるんだがな?」


そのままお姉さまはまた私の頬を伸ばしたり戻したりして遊び始める。

私の頬はおもちゃじゃないぞ。


「リシアはしっかりお弁当作って来てくれたんだ。それを皆が楽しんだ。もう充分頑張ってるよ。ちょっとくらい甘えてくれて良いんだぞ?」

「ん、んー。そんな自覚は無いんですがねえ。」

「ふふ、皆リシアは頑張りすぎると思ってるって事は覚えておいてくれな?」

「わかりました…。」


本当に自覚はないんだけどなあ。

むしろ後片付けに携われなくて申し訳なく思ってるのだが。


「とりあえず、今日はリシアを甘やかそう、ということで。今からいちゃいちゃだ。」

「もういちゃいちゃされてますが…。」

「まだ足りないなー?」


お姉さまは私の肩に顎を乗せる。

先ほどから顔が近い。

なんだかドキドキしっぱなしだ。


「いちゃいちゃって…何するんですか?」

「うーん。何しよっか。とりあえずリシアは森林浴。私はリシア浴だな。」

「訳わかんないんですけど。」


私の抗議もむなしくお姉さまはにまにまべたべたとくっついてくる。

森林浴も何もない。お姉さまにドキドキさせられるだけだ。


「リシア。」

「何ですか。」

「リシア?」

「何ですかって。」

「可愛いな?」

「はいはい。」


先ほどからずっとこんな感じで。

私はいつこの先になるのだろうと気にさせられぱなしで。


「あの、お姉さま。」

「なんだ?」

「…キス、されないんですか?」


思い切って聞いてみる。

お姉さまは目を丸くしてこちらを見る。


「外でするのはリシアが嫌がるかなって思ったんだが。」

「…人もいないので、良いですよ。」

「そう言われたら止まれないな?」


お姉さまは軽く唇の先でつんつんと口付けし始めると、そのままだんだん濃く深くなっていく。

私は痺れる体をお姉さまに任せるばかりになる。


「なぁ、リシア。」

「はい…?」

「顔の近くはキスに入るかな…?」

「入るんじゃ…ないですか…?」


そう答えるとそのままお姉さまの唇は私の鎖骨に落ちる。

漏れそうになる声を必死に抑える私がいた。


◆ ◇ ◆ ◇


「…□□ちゃん。これ、つけなさい?」

「あっ、はい。ありがとうございます…。」


1時間後、二人の待つシートに戻ってきた私とお姉さまを見て、紫杏さんは微妙な顔をして首元の隠せるようなスカーフを私に貸してくれる。

私は恥ずかしすぎて赤面しながら隠れてスカーフをつける。


「麗ちゃん。仲良いのはいいけど、次からつけたら隠せるようなものは持っておきなさいね?」

「返す言葉もない…。」


龍斗さんが黙ってぽんと私の肩に手を置くのが妙に重く感じた。




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