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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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新しい二人の日常

「そうだ、食品を冷蔵庫にしまわないと…」


私はストッキングを巡る攻防の間長く横に放置されたままだった買い物袋を見て我に返る。

冷凍物やヤバいなま物はないのでまだマシだが…


「ああ、すまない。私も手伝おう。」

「ありがとうございます。そういえばお姉さまは晩ご飯はなにをいただかれたんですか?」

「いや、まだなんだ。」

「そうなんですか?お腹空いたでしょう?」

「どうせうどんだろうから、二人分頼んで一緒に食べようと思ってな。」


お姉さまは買い物袋内のめんつゆをゆらゆらさせる。

ぐっ、バレてたか。


「ありがとうございます。その料理はどちらに?」

「リシアの帰宅時間にあわせて頼んだから、私たちが玄関に居た間にドア前に置いてってくれてるんじゃないかな。」

「なるほど…いやちょっと待ってください?」


私は重要なことに気づいてしまう。

ということはだよ。


「なんだ?」

「玄関でのアレコレ、聞かれてた可能性があるってことですか?」

「あるんじゃないか?ドアすぐだし。」

「あるんじゃないか…ってあったらダメじゃないですか!?」

「別に良いんじゃないか?聞かせておけば。」

「よくありません!」


はー信じられない。この人と来たら。

うちは女二人なんだし、防犯的にもよろしくない。


「まぁそう怒らないで。何かあっても私が守るから。」


お姉さまは私の腰を抱き寄せてそうささやく。

平時ならロマンティックな言葉だ。だが。


「けが人が何をおっしゃいます?」

「ふふ、手痛い。でも、今でもどこぞの馬の骨よりは強いぞ?」

「そういう問題ではありません!」


ちょっとお灸を据えてやる必要がありそうだ。


「お姉さま。正座。」

「え?いやまだ足が…」

「正座。」

「…はい。」


私は有無を言わさずキッチンの床にお姉さまを正座させる。


「私は食事を取ってきますから、お姉さまはそのままで。」


私はお姉さまににらみを利かせながら玄関に向かう。

確かにドア前に食事が置かれてある。

はぁ、全くあの人は。

どうやら中身は唐揚げ定食らしい。

それをキッチンに持って行く。


「お姉さま。こちらをどうぞ。」

「えっと…?」

「お姉さまはここで正座で食べてください。」

「そんなご無体な…」

「そう言いたいのは私の方ですが?」


お姉さまは随分としょぼくれた顔をする。

私もその顔を見ると少し心苦しいが、さすがに今回のことはよくない。

その後の態度を見ても、今回はしっかり怒ってますとアピールする外ないだろう。

まぁとはいえ、お姉さま一人というのも可哀想だ。

私はお姉さまの目の前に正座する。


「私もこうやっていただきますので。お姉さまは真剣に反省してくださいね?」

「わかった…。」

「危ないことはしない。良いですか?」

「はい…。すまない。」

「わかっていただければよろしいのです。ではいただきましょうか。」


私たちはそうして向かい合って正座で夕食をいただく。

面白い構図に加えて、お姉さまが明らかにしょんぼりしているので思わず変な笑みが出そうになるのを堪える。

明日からは普通にいただきましょうね。お姉さま。


◆ ◇ ◆ ◇


「ごちそうさまでした。」


唐揚げ定食を食べ終わり私は手を合わせる。

お姉さまはもう少し早くに食べ終わっていたが、律儀に正座してこちらを見ていた。


「お風呂、沸いてるぞ。」

「ありがとうございます。お先いただいても?」

「ああ。もちろん。だが…」


お姉さまはそこで少し言いよどむ。

どうしたのだろう。


「なんでしょう?」

「足が痺れて立てない…。手を貸してくれ…。」

「ふふ、ふふふふ。」


私は立ち上がってお姉さまの後ろに回る。


「おい、やめてくれ!あ、あぁ…やめろ…あっ…」


お姉さまの足の裏をツンツンしてやる。

その声が妙に色っぽくて、私はついやり過ぎてしまった。


◆ ◇ ◆ ◇


「お風呂、いただいたよ。」

「飲みました?」

「だから飲まないと…」


私が風呂から上がった後結構な時間をかけてお姉さまはお風呂から出てくる。

まだなかなか体を洗うのは難しいんだろうな。

でも本人もリハビリのうちと張り切っているので特に言うことはない。


「ん?勉強してるのか?」

「あはは、レポートが貯まっちゃってまして…」

「そうか、遅いのにご苦労様。」


お姉さまはそう言ってキッチンに入っていく。

風呂上がりの飲み物を求めてのことだろう。

私は意識をレポートに戻す。

が、なかなかそのまま戻ってこない。

大丈夫だろうか?

気を揉んでいると、お姉さまがマグカップを片手に出てくる。


「コーヒー淹れておいたぞ。」

「あ、お気遣いありがとうございます。お姉さまの分は…?」

「まだ両手で持つのは不安が残るからな。今持ってくるよ。」


ああ。なるほど。

お姉さまはすぐにキッチンに戻ると、またマグカップ片手に出てくる。

そしてそのまとすんと横に座る。


「応援するくらいしか出来ないが。頑張って。」

「ありがとうございます。お姉さまは先に寝てもかまいませんからね?」

「その時はリシアの肩を貸してくれ。せめてそばに居るときはリシアを感じていたい。」

「そうですか。」


お姉さまは私の肩にゆっくりしなだれかかる。

動きにくいのだが、私はそれを止めない。

私もそんな時間が幸せだと思えたから。



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