足りない覚悟を奮い立たせて
「よぉ…□□、だよな?」
「あっ、ど、どうも!□□です!龍斗さんですよね!?」
デカい。その一言しか出てこないような大男。
お姉さまで高身長は見慣れてきたが、それにさらに背がある上にとてもがっしりしていて威圧感がある。
「じゃあ、付いてこいよ。…あぁ、すまねえが今日はバイクの気分じゃなくてな。電車になる。」
「はい、大丈夫…です!」
「おう。」
そういうと龍斗さんは踵を返して歩き始める。
私は急いで後を追っていく。
そのまま無言の時が続く。
あまり話しかけられてもやりづらいが、これはこれで居心地が悪い。
「あの!」
「あ?」
「あ…ごめんなさい…」
龍斗さんが怒ったような顔でこちらを見るので、思わず謝ってしまう。
話しかけない方がよかったか。
「…すまん。怒ってねえから続きを話してくれ。」
「…ごめんなさい。」
「謝んな。俺も今大人の対応をしてられるほどの余裕はねえ。」
私はまた口から謝罪の言葉が出てきそうになるのを何とか飲み込む。
「その、麗香さんは一体…?」
「あー…」
龍斗さんは頭をがしがしと掻きながら何かを考えている。
「…詳しくは紫杏から聞いてくれや。平常心で説明してやれる気がしねえ。ただ、あの馬鹿なら今、病院にいる。……覚悟は、しておけ。」
「…はい。」
そんな気は、していた。
あのお姉さまが連絡一つ寄越さず帰ってこないのだ。
順当に考えれば何かしらの事件や事故に巻き込まれたと思うのが筋だ。
とっくに覚悟は決めていたのだ。
…いや、決めていたつもりでしかなかったのかもしれない。
呼吸がし辛くなる。立つ足が崩れ落ちそうになる。
それでも私は何とか持ち直して、歩き始める。
会いに来れないなら、会いに行くしかないのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
行き先について以外の会話もなく、私たちはただ黙々と向かっていった。
意外だったのは、龍斗さんが私に歩幅を合わせてくれていたことか。
いや、お姉さまから聞いていた人間像なら意外でも何でもないのだが。
「ここだ。」
龍斗さんに誘われ、連れてこられたのは郊外の大きな大学病院。
ここに、お姉さまが。
龍斗さんはするすると病院内を進む。
エレベーターに乗り階層ボタンを押すのをじっと見た後、エレベーター内のフロアマップを見てじっと照らし合わせる。
…まぁ、十中八九ここなんだろうな。
そうしてエレベーターを降りて連れて行かれた先はやはりそうで。
まだ、霊安室でなかっただけ少し安堵する。
「ICUは面会時間一回10分だから。…ゆっくりとはいかねえが。まぁ、会ってこい。俺と紫杏は家族控え室に居るから。終わったら訪ねてこい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
私が会釈すると、龍斗さんは何も言わず軽く手を挙げて歩いてゆく。
面会についてこないのは、恐らく私への配慮だろう。
私は後ろ姿にもう一度頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇
私は面会受付を済ませ、ICUに入る。
ここの一番奥のベッドに、お姉さまは居るらしい。
「お姉さま…」
私は叫び出しそうになるのをぐっとこらえて、静かに見下ろす。
数日ぶりにあったお姉さまは、様々なところに包帯を巻かれ、いろいろな管をつけられ、穏やかな顔で眠っていた。
「まったくもう、せっかく私から会いに来たと思えば情けない姿になっちゃって…」
私はそうポツリと呟くが、なにも返ってはこなかった。




