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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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□□の誕生日 その3

「じゃあ行こうか。」

「はい、そうしましょうか。」


私はお姉さまの手を取り、歩き始める。

この人が隣に居るときにこうして手を繋いだり腕を組んだりして歩くことも今や当たり前になってしまった。

そのうちこの人なしで歩けなくなるのでは。というとさすがにオーバーだが、とはいえ思惑にハメられている感は否めない。

お姉さまが歩きやすいようにエスコートしてくれるのが悪い。


「ケーキ、楽しみだな?」

「余りそうですけどね。そのときは是非持ち帰ってください。」


お姉さまはかなり大きいホールケーキを押し切って予約した。

いくらお姉さまが大喰らいとはいえ、これは余りそうだというくらいの大きさだ。

最初はウエディングケーキ並のを頼みかねない勢いだったため、これでも小さいくらいだ。


「明日からしばらく来れないからな…なるべく今日食べるよ。」

「そうでしたね。」


明日から撮影で少し遠くに連日宿泊の予定らしい。

これでも数日わざわざずらしてくれたそうで、ギリギリのスケジュールだそうだ。


「まぁお姉さま、明日の撮影で太りすぎて怒られないようにしてくださいね?」

「ふふふ…!この日の為に絞ったのだ、多少問題あるまい…!」


あれだけ大喰らいのくせに体型だけは本当に良いんだよな。うらやましい。

カロリーを摂る以上に燃やしているのもそうだが、体質的なものもあると思う。


「私も今日はもう気にせず食べちゃいますけど…明日から節制しないと。」

「リシアはもっと太った方が良い。小さすぎて私は心配だ。」


お姉さまは真剣にそんなことを言う。

全く、無責任な。


「ただでさえあまり見目が良くないのに、これ以上太ってどうします?」

「私はリシアが増えて嬉しいがな?」


もう、こういうことをサラッと言う。


「はいはい。そんなこと言う人に限って太ると見限るんですよ。それにいつまでもお姉さまが一緒とも限りませんし。」

「私は私自身がリシアの重荷にならない限りはずっと一緒に居たい。」


私の手を少し強く握る。

だが、永遠の愛を信じられるほど私も乙女ではない。


「まぁ…その言葉は達成してからいただきます。」

「そうか。」


お姉さまは少し寂しそうに肩を落とす。

そんな落ち込まれなくても私もそうなれば良いなとは、思っている。


◆ ◇ ◆ ◇


「はー…九月の半ばというにまだ暑かったですねえ…。」

「本当にな。ケーキを冷蔵庫にしまってくるよ。」


炎天下と呼んで差し支えのない外を歩いてケーキ屋まで向かった私たちは、帰ってくるころには完全に干からびかけだ。

汗で濡れているにも拘わらず私はビーズソファに倒れ込む。


「しまった。」


冷蔵庫にケーキをしまいに行ったお姉さまの方からそんな声が聞こえる。

声色は落ち着いたものなので、大惨事ということはなかろう。

私はそのままぐったりしている。


「リシア、少し出てくるよ。」

「どうかしました?」


お姉さまがそのままこちらに来てそう言う。

何があったのだろうか?


「実は予約の時の年齢欄が自分のでなくてお祝いする人の、だったらしくキャンドルが…ほら…」


お姉さまは2と0の形をしたキャンドルをしょぼんと掲げる。


「ぷっ…あははは、そりゃ年齢書くところが一つしかなけりゃそうじゃないですか?」

「うむ…そうだよな。すまない、新しいのを買ってくるから。」


思わず笑ってしまった私と、さらにしょんぼりするお姉さま。

少し可哀相になった私はフォローを入れる。


「今年はもう良いですよ、ナシで。それは来年使えば良いじゃないですか。暗くてわかりやすいところにしまっといてください。」

「来年、か。」

「来年もここで祝ってくれますよね?もう前言ひっくり返すんですか?」

「いや…そうだな。」

「じゃあそれは来年で。忘れると思うので覚えててくださいね?」


お姉さまに軽く笑みかける。

日常自信満々に振る舞ってる割に案外、こういうミスとはっきりわかる自分のミスには打たれ弱い。 

多くは私からするとしょうもないミスなのだが。


「うん…ありがとう。」

「じゃあ、それをしまってきたらちょっとのんびりしましょう。さすがに暑くて疲れましたよね?」


お姉さまはキャンドルをどこかにしまってくると、そのままこちらに戻ってきてもう一つのビーズソファに座り込む。


「来年はもっと大きいのを買おう。」

「いやいや、むしろ小さくしてくださいって。ただでさえ今年のも大きいんですから。年々大きくしたらそのうち部屋が埋まっちゃいますよ。」


そう軽く茶化してから、私も毎年祝ってもらえる前提で話していることに気づく。

最初の来年発言は意図したものだが、今のは自然と口をついた。

その事実に少し驚いている。


「ふふ、そうだな。それは困る。」


そう横で笑うお姉さまはとてもうれしそうだ。

私は少し恥ずかしくなって、ビーズソファに顔を埋める。


「疲れたのでちょっとだけ仮眠します。」

「…ソファ、もう少し寄せて良いかな?」


お姉さまの問いに無視して顔を埋めていると、くっつくようにしてソファを寄せてくる。

面倒くさいので、そのまま放っておく。

二人静かに時が進む。

とても穏やかな時間だった。



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