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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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初めての遊園地 その4

打ちっぱなしのコンクリート。薄汚れた壁面にはたくさんの植物と--御札。

永い昔、打ち捨てられた廃病院のような風貌。

そのおどろおどろしい見た目は、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。

にもかかわらず、ここにはたくさんの人が集まっている。

そう、ここは--お化け屋敷。


暗い室内で注意点を説明するビデオを眺める。

なんとなくだが、驚かすのが目的なら最後にはびっくりする要素が入るだろうなと予想して見てはいたものの、なかなかに怖い結末だった。


「始まりからなかなか怖かったですね?」

「…リシアのそれはアテにならん。」

「えっ、ひどーい、お姉さまってば。私だってこういうのは怖い方が勝りますよ?」


お姉さまは白々しいものを見るような顔でこちらを見る。

本当に怖いんだからな?


「お姉さま、怖くても人は殴らないでくださいよ?本物の死人出ますからね?」

「人の気配は解るから大丈夫なんだが、驚いて無機物を壊しそうなんだよな…」

「館内の装飾は触るなって今のビデオでも言ってましたからね?お願いしますよ?」


お姉さまなら建物ごと破壊してしまってもおかしくない。

底知れぬ不安を抱えながら私たちは安全地帯を脱出する。


「ドアの向こうに人が居るなとか解っても口に出さないからな?」

「ええ、お願いします。」


ドアを開けると、暗くて赤い通路。

これでもかと言うくらい、恐怖を煽ってくる。

この遊園地のお化け屋敷は大変凝っており、最後まで踏破すると約一時間かかるそうだ。

つまり、めっちゃ怖い。

頼りになるのは小さな懐中電灯と、二人繋いだ手だけだ。


通路の先まで歩を進めてゆく。

今のところ、何も起こらないようだ。


「次のドア、開けますか?…お姉さま?」


お姉さまは興味深そうに一点を見つめている。


「お姉さま、何を-は、は、は、はいっ!?」


お姉さまが見ていたのは棚の間から覗いた生首。

先ほどまでそこになかったはずのソレと目が合った私は思わずお姉さまに抱きついてしまう。


「ああ、すまない。向こう側から歩いてくる足音を感じたから、見ていたらすっと壁が開いて覗いたものだから。こうなっているのか、興味深いなと思ってな。」

「言ってくださいよ!」

「いや、言わない約束だろ?」

「っ~~~!そうですけど!もう!」

「いだっ!暴力は良くないぞ!?」


腹が立った私は抱きついたその腕に思い切り平手打ちしてやる。


「お姉さま!次の扉、開けて貰っても良いですか!?」

「あ、ああ…。」


私はお姉さまを前に押し出し、壁にしながら歩を進めた。


◆ ◇ ◆ ◇


「何か…居ますね…」

「ああ。何だろうなあれは…」


ポツンと広い部屋のド真ん中。

そこに奴は居た。

赤く血に染まった白衣を着た大男。

何かに執心のようだが--

観察していると、唐突にクルッと顔をこちらに向ける。


「ひゃいっ!?」


私が驚きの声を出すと、そのままこちらに向けて走ってくる。


「逃げるぞ!リシア!」

「えっ!?あっ!?はい!」


お姉さまはギュッと私を抱き寄せると、背を押すようにして走る。

大男の横を抜けると、私たちの背を追うように走ってくる。


「「きゃああああああ!!」」


私たちの叫び声が共鳴する。

とにかく私たちは必死に走った。

そして階段へとたどり着く。


「はぁ…はぁ…階段は安全地帯だから焦らず移動しろって…言ってましたね…。」

「ああ、ここまでは追ってきてないようだ。」


私たちは一息つく。さすがに疲れた。


「というか、お姉さま人の気配が解るから人は怖くないんじゃなかったんですか?」

「怖くないとは言っていない。反撃してはいけない状況で変なのに追いかけられたら私だって怖い!」


そんな言い争いをしているうちに、私がお姉さまに密着しながら肩を抱かれる形になっていることに気づく。

お姉さまも気づいたのか、慌てて手を離す。


「す、すまない。必死で。」

「…良いですよ。怖いなら、そのままで。」


お姉さまは少し驚いた顔をしたのち、ぱっと花咲くような笑顔になり答える。


「ああ。怖いからくっついても良いかな?」

「仕方ないですねぇ。」


私もちょっと怖かったから。仕方ない。


◆ ◇ ◆ ◇


そうして二人でお化け屋敷を進みながら解ったこと。

お姉さまは音に弱い。

急に驚かすような音がするとビクッとして可愛い声を出す。

一方で基本的に人が驚かすものはあまり怖がらないのだが--

 

「ピクリとも動かないってことは人形かな?良くできてますね?」

「リシア、それ…」

「あっひゃひゃひゃい!?」


覗き込んでいた横たわる人形と思っていたものが急に起きあがる。


「人間なんだ。」

「だから言ってくださいって!?」

「言わないって…」

「そう言う問題じゃないんですぅー!?」


--ちょっと意地悪だ。


◆ ◇ ◆ ◇


そして、お化け屋敷も終盤。

どうやら最下層に降りるためにエレベーターを動かさなければいけないようだ。

私たちはそのための鍵を探しているのだが--


「あれ、ですね…。」

「あれだな…。」


ホラー映画の殺人鬼のようなマスクを着けた筋骨隆々の人物。

その背はこの天井の高い部屋でも狭そうだ。

今は鎖に繋がれているか、近寄ったら絶対外れる奴だ。

その横に、これ見よがしにエレベーターの鍵と書かれた箱が置いてある。


「あれ、人間なんですかね…?」

「人間のサイズとは思えないが、そうらしい。」

「スッゴいですね。どうやってるんだろ?」


そのコスプレ?の出来に思わず感嘆する。

体型はおろか、背まで違和感なく変えてしまうのはなかなか出来ない。


「私が取ってくるから、リシアはそこで…」

「私も行きます。」


一人で行こうとするお姉さまに、私は決意を篭めてそう告げる。


「リシア、先ほども言ったとおり無理して頑張る必要はないんだぞ?」

「いえ、お姉さまなら今までみたいに私を守ってくれるでしょう?だから、行きましょう。一緒に。」


今日、こうしてお化け屋敷を共に進んでいたとき、お姉さまはどんなに怖いときも、必ずそれから守るように抱き寄せてくれていたのを私は知っている。

今までだって、今日だって、このお化け屋敷だって。

お姉さまはいつも私を守ろうとしてくれて。

私はあなたを守るとか、出来ないけれど。

でも、だからこ危ないところでも、そ自信を持って共に歩むことが出来るでしょう?


「そうか。…じゃあ、一緒に行くか。」

「ええ、行っちゃいましょう。」


私たちはそろりそろりと近寄り、箱を手に取る。

瞬間、ガンと頭上で音がしたと思うと、殺人鬼の手枷が外れている。


「リシア!走るぞ!」

「ええ!」


私たちは走る。

後ろに殺人鬼を連れて。

でも隣から伝わる暖かさのおかげで、今は全然、怖くなかった。


◆ ◇ ◆ ◇


エレベーターの鍵を手に入れた私たちは、早速エレベーターに乗り込もうと鍵を回し、スイッチを押す。

最下層に止まっていたエレベーターは音を立てながら階層ランプと共に上がってくる。

すぐに今の階に到着すると、戸が開く。

中には操作盤の前に昔のデパートのエレベーターガールといった出で立ちの女性。

どうやら、案内人のようだ。

私は会釈したのち、エレベーターに乗り込む。


「リシア、スイッチを…」

「あ、大丈夫です。お願いします。」


私は案内人さんに他の人が居ないことを伝えると、ニコリと笑ってスイッチを押してくれる。

エレベーターはすぐさま下降を始める。


「お、おい、リシア?」

「はい、何でしょう?きゃっ!?」


瞬間、エレベーターが揺れ電気が消える。

が、すぐに復旧する。どうやらアトラクションの一環のようだ。


「あれ、居ない…?」


電気が点いた私は案内人の方を見るが、そこには誰もいない。


「…誰のことを言っている?」

「え、そりゃ、一緒に乗っていた案内人の人ですよ。」

「リシア、落ち着いて聞いてくれ?」

「なんです?」


お姉さまは深刻そうな顔で私の肩に手を乗せる。


「このエレベーターには最初から私たち二人以外居なかった。」

「え、でもエレベーターのスイッチを…」

「自動的についた。そこに誰も居なかった。気配もない。」

「え?え?」

「こういう場所だ。引き寄せられたのかもな。」

「つまり、それって…」

「本物、だな。」


え、あの人が?本物の幽霊?

でも、確かに思い出そうとしてもどんな人だったか、全然思い出せない。

ましてや、お姉さまが見ていないのだから--


「え、ええええええ!?」


あ、ダメだ。驚きすぎてフラっとする。

意識が…飛ぶ…。

そこからお姉さまにお化け屋敷の前で心配そうに抱き抱えられて目覚めるまでの記憶は、私にはない。









モデルになった遊園地のお化け屋敷にもエレベーターがあって、そこでは出る、らしいですよ。

何とは言いませんが。

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