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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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初めての遊園地 その2

遊園地。それは未知の世界。

実際、今まで住んでいた京都には遊園地らしき遊園地はない。

映画村はあるけど、あれは遊園地といえるかというと。

京都市内を外れたところにも有象無象の小さなものはあるらしいが、パッと名前は出てこない。

京都人にとって、遊園地というのは大阪にでるものなのだ。


高校生までに何度か大阪に遠足でそういった場所に行く機会はあったが、全て欠席している。

だって、友達が居ないのにそんなとこ行っても浮くだけやし。

変にキャラ崩すわけにもいかへんねんもん。

はっ、いかんいかん、過去を振り返りすぎて関西弁がでた。


とは言っても、遊園地がどういうものであるかくらいは解っているつもりだ。

アニメとかにも出てくるし。

全くの無知というわけではないのだ。

いや、解ってたつもりだった。

入り口から見えるジェットコースター、想像の何倍もデカくない?


「ふふ、大きさに呆気に取られてるみたいだな。」


お姉さまは横で満足そうに頷いている。

何故関係ないあなたが自慢げなのか。


「ジェットコースターって、あんなに大きいんですね…。」

「いや、勘違いするなよ、アレが大きいんだ。」

「ああ、やっぱり。想像と全然違うものですから。」


さすがに全部が全部アレではないらしい。

確かに他に見えてるものも大きさはそこまでではない。


「さて、じゃあ行こうか?」

「あっ、はい。」


お姉さまが差し出した手を握る。

今日も少しひんやりしている。


「まずは何から行こうか?メリーゴーランドか?それともティーカップか、もしくは…」

「あの、もしかしたら変な楽しみ方かもしれませんが…」


遊園地の作法というものはいまいちわかっていない。

お姉さまの提案から思うに、私の言い出すことはズレているのかもしれないが。


「リシアの為に来たんだ。何でも言って見ろ?」

「私、アレが乗りたいです。」

「は?」


私は入り口から見えた一番大きなジェットコースターを指差す。


「えっと、あれはこの遊園地の一番のウリ、なんですよね?」

「ま、まぁそうだな?」

「まだ時間的にも早くて空いてるみたいですし、まずは一番から乗ってみたいなって。おかしいですかね?」

「い、いやそんなことはないと…思うぞ?」


お姉さまはそれもありかも知れないなと小さく呟く。


「じゃあ、アレ行きましょうよ!どこから並ぶんですかね?」

「どうだろう…な…?」


私は何故か足取り重そうなお姉さまを引っ張り歩き出した。


◆ ◇ ◆ ◇


ごとごとごとごと…

コースに沿って登り坂をコースターが巻き上げて運ばれていく。


「登ってる段階でもうちょっと怖いですね、お姉さま!」

「そうだな。」


怖い雰囲気の間と作り方が上手い。登っているだけで怖く思えてくる。

登ってゆく先に、富士山がよく見える。

視界的に遮るものをわざとなくしているらしい。


「お姉さま!富士山が綺麗ですよ!」

「そうだな。」


まだまだコースターは巻き上がっていく。


「ここ、50mゾーンらしいです!どこまで上がるんですかね。」

「そうだな。」


もう一分位経ったろうか。そろそろ一番上が近づいて来た。


「もうすぐですかね!」

「そうだな。」


お姉さまは消え入りそうな声で「どうしてここまで登る必要があるんだ…」と呟く。

お姉さまの顔を覗いてみると、見たことがないくらい真っ青な表情になっている。

その表情を見て、なんだかゾクッとする。


「どうやら、到着みたいですね?」

「…」


コースターは平たく短いコースをのんびりと走ってゆく。

景色が一望出来る。素晴らしい。

そして、つかの間の凪の後、嵐が訪れる。


---落ちて---上がる。

瞬間、心臓がひゅっと冷たくなる感じがする。


「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


シンプルだが、なかなかに面白い。

体中に伝わる空気抵抗が感覚を研ぎ澄ませてくれる。


「見てくださいお姉さま!あそこにお姉さまのバイクがありますよ!」

「ひゃぁぁぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁぁぁ!」


一瞬だが駐車場が見え、位置的に当たりをつけた私はお姉さまの目立つバイクを見つけだす。

もっとも、お姉さまはそれどころではないみたいだが。


「おっとっとっと、これはなかなか!」

「あぁぁぁぁぁぁ、落ちる!落ちる!」


今まで真っ直ぐだったコースが斜めを向く。

体も少し横を向く。

左、右、左、右。ゆらゆらと左右に少しずつ傾く。

今までの登って落ちての繰り返しだけじゃ飽きる。

良い緩急だ。


「というか慣性なんですね!ほとんど!」

「いいいいいやぁぁぁぁぁぁぁ!あぁぁぁぁぁぁぁ!」


コースを見ていると、最初の巻き上げ以外ほとんど動力がない。

乗るまでずっとエンジン駆動だと思っていた。

良くできているな。


「あら、もう終わりなんですね。」

「…」


二分ほどの周遊を終えて、コースターは元の地点へと戻る。

お姉さまは魂が半ば抜けており、降りる時も私の手に縋っている。

その様を見て私はさらにゾクゾクと背筋に来るものがあった。


◆ ◇ ◆ ◇


「本当に楽しかったですね、お姉さま。」

「…え?あ、ああ、楽しかったな!」


降りて少し歩いた後、お姉さまの顔を覗き込みながら話しかける。

さすが現役モデルだ。表情を作るのが上手い。

すぐに平穏を装うと、こちらに笑みかける。


「…お姉さま、あんまり楽しくなかったですか?」

「いや、そんなことはないぞ。最高に楽しかった。」


心配そうな表情をすると、問題ないとばかりに空元気を作る。

何だろう、この感情、上手く言えないんだけど。


「そうですか、良かったです!」

「あぁ。次はメリーゴーランドにでも--」


ごめんなさい。お姉さま。

少し心の中で謝っておく。

でも、私のこの何か良く説明出来ない感情に従って私は口を開く。


「次は、別のコースターに乗りましょう!アレとかどうですか?」


途中90度のそり経つ壁の様になっているコースターを指差す。

お姉さまは先ほどまで作っていた表情がもう半壊しかけている。


「あ、アレか…?」

「ええ。ダメ、ですか…?」


お姉さまの手を両手でギュッと握り、上目遣いでおねだりするように問うてみる。

お姉さまは目が泳いでいたが、覚悟を決めたように唾を飲み込むと、こちらをジッと見る。


「行こう。リシアのための遊園地なのだからな。」

「ふふ、ありがとうございます!」


ああ。お姉さま。

素敵です。






□□さんの性癖が大爆発する回でした。

麗香は、乗馬・バイクが得意なので速い乗り物だけではあんまり怖がらないと思います。シンプルに高いところから落ちるのが苦手。


どうでも良い話なのですが、作品内に何かを出すときは必ず軽く取材をしています。

その一環で一度しか行ったことのないとある遊園地の絶叫マシン動画をひたすら見ていたら乗り物酔いを発症ししばらく死んでいました。

たぶん、今乗ったら私も乗り物酔いで麗香みたいに魂が抜けると思います。


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