狩猟大会その1
「おーい、こっちだ!」
「あ、お姉さま!おはようございますー!」
「リシア、おはよう。今日もいい天気だな?」
「ええ、絶好の狩り日和ですねえ。」
そう言って私はお姉さまの隣へと腰を下ろす。
今日は学園の狩猟大会の日だ。
「それにしても、本当に狩りに参加しなくて良かったんですか?」
「女性が狩りをしたところで、はしたないと言われるだけだからな…」
「昔は良くうちの狩りに参加していたのに?」
「あ、エドワード様、おはようございます!」
私たちのテーブルに豪奢な狩猟服を着たエドワードがやってくる。
狩猟服のエドワードはイベントCGにもなっているだけあって、白を基調としたデザインが大変に美しい。
「余計なことを言うんじゃないエドワード。」
「おはよう二人とも。でもみんなレベッカは真っ先に参加するくらいの印象だよ?リシアからも参加しないか聞かれるくらいだし。」
「ぐっ…とにかく参加はしない。ここで昼食を用意して待っているからな。」
「リシアの手料理は?」
「ごめんなさい、今回は完全にお姉さまにお任せしてるので用意してません…」
「仮にあったとしても一つとしてお前にはやらんがな?」
「えぇ、君ほぼ毎日お昼に食べてるじゃない…」
女性陣は狩猟大会では基本男性陣の狩猟の帰りを待ち、その間に休憩用の設備と昼食を手配しておくのが基本だ。
原作でもお姉さまはエドワードの為に昼食を用意して待っていたが、すでにいくつかのイベントで仲がこじれつつあった二人はあまり会話することもなく、なんとエドワードは早々にリシアのところへ向かってしまう。
恐らくは今回も原作も、お姉さまは婚約者であるエドワードのことを考えて、狩りには参加せず静かに昼食を手配して待っているのだと思うが…ほとんど手をつけることもなく残されたお姉さまのことを思うと…
思い出すだけで腹が立ってきた。殴ってやりたくなる。
まぁ、今回はお姉さまに帰りを待つ男性が居ないなら私のところに居ないか、とお誘いをいただき、お姉さまの休憩所にお邪魔している。
これで私も休憩所を手配してエドワードがやってきた日には本当に殴りかねないし。
「そうだ、二人とも欲しい景品はあるかい?狙ったものがとれるとは限らないが…」
この狩猟大会は狩猟成績が良い順番に景品が選べる。
本来であればここで攻略キャラが一位をとって、景品である学園の避暑地の夏休み期間中利用権をリシアにプレゼントする。
結局どのルートでも、二人で使うには広すぎる場所ということもあり、たくさんの学園の生徒を招待して半ば臨海学校の様なものになってしまうのだが。
ここまでエドワードルートを回避するのに失敗し続けている私は、このイベントをそもそも起こしたくないのだ。
「お姉さまは何かありますか?」
「ううん…特にはないな…」
そうは言っているものの、目線が先ほどからちらちらと可愛らしいくまさんのぬいぐるみに行っていることは明白だ。
「私とこれといって欲しいものはないですが…ああでもあのくまさんのぬいぐるみなどは女性への贈り物によさそうですよ。」
「なるほど、覚えておくよ。では、行ってきます。」
「「行ってらっしゃい(ませ)」」
「リシア、さては私の思考を読んだな?」
「何のことです?私はただお姉さまに似合いそうだなって。」
読むも何も完全にバレバレなんですけどね。
「似合う似合わないで言えば完全にリシアのが似合うだろうに。」
「私の知るお姉さまは可愛いんですぅー。是非可愛らしいドレスを着て片手にくまさんを持っていただきたいですね。」
「全くリシアと来たら…」
「エドワード様がくまさんゲットしてきてくれると良いですね!」
くまさんのぬいぐるみをもらったら、絶対隠しきれない嬉しそうなオーラを出しながら喜ぶということは想像に難くない。
エドワードには是非とも手に入れてきてもらいたいものだ。
「そういえば、ここらへんだと何が狩れるんですかね?」
狩猟大会自体の描写はあまりなく、どういった動物が居るのか全くわからない。
なんだかんだ言ってやはり性格的に狩りが好きそうなお姉さまに話を振ってみる。
「そうだな。一番よく居るのはやはり鹿だろうか。大きいから狩った時の達成感も良い。」
「鹿!美味しそうですね。」
「私も昔はよく穫ってきた鹿を調理してもらったものだ。」
「今回の獲物を少し分けてもらえたら、ローストにでもしてお弁当に入れてみましょうか。」
「それはいいな。楽しみだ。後は、狐は畑の害にもなるから優先度が高い。ただ狐はあまり食べる印象はないな。」
「肉食獣で寄生虫も居ますからあんまり食用に向いてなさそうですよね…」
「まぁでも毛皮は女性人気はある。襟巻きにすれば美しいからな。」
「お姉さまがするととっても高貴な感じが出そうです!」
「これでも一応高貴な部類の立場だから高貴な感じってのもおかしな話だがな…」
「私にとっては親しみやすい印象が強いですから、すっかり忘れてました。」
「そんなことを思うのもリシアだけだろうがな…」
こうして他愛もないやり取りを続けていく内に、太陽も真上にやってくる。そろそろ午前の部の終了時間のようだ。
「さて、そろそろ用意をしてもらう方がよさそうだ。手配した昼食を並べてもらおう。」
「そうですね。私は飲み物の方の指示を出してきましょうか?」
「頼まれてくれるか?ありがたい。」
私が公爵家の使用人の方々にお茶に関しての指示出しを終えて戻ってくると、そこには豪勢な食事が並んでいる。
さすがは公爵家ともあって、うちの子爵家の記念ごとでもなかなか並ばないようなレベルだ。
しかし、あの端っこの方に目立たぬよう並んでいるあれは…
「お姉さま、この玉子焼ってもしかして?」
「…バレてしまったか…。せっかく教わったのだから、自分でも何か作れればと…。料理人に教わりながら作ったのだが…」
「お先に一つつまみ食いしちゃダメですか?」
「その、あんまり出来は良くないぞ?見劣りするし、並べるのもやめようかと…」
「食べたいなぁ。私はお姉さまの料理が食べたいな~?」
何ならエドワードが手をつけるより先に食べたい。
一番最初に食べるのは私だ。
「ふふ、しようのない奴だな。だが、私もリシアに食べて欲しい。」
「やった!いただきます!」
さっそく一つ摘まんで食べる。はしたないと言われようが構わない。
何の変哲もない、月並みな味。だが、少し前まで卵すら割れなかったお姉さまが作り上げたのだ。違和感も全くない、このレベルまで。
そこにはただただ努力と苦労が感じられて、私は感極まって涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。
「お、美味しくなかったか!?すまない、何度も味見はしたのだがあまり上手く行かなくて…」
「いえ!違います!その、とっても美味しくて、きっとすごく頑張られたんだろうなと思うとなんだか泣けて来ちゃって…」
慌てて私は弁解する。そりゃ自分の料理食べて泣きそうになられたら困るよね。
「ふふ、リシアはなんだってお見通しだな。」
「だれでもわかることですよ。」
「どうだか。でもリシアが喜んでくれて本当に良かった。勇気を出してみるものだな。」
「私もいち早く気づけて良かったです!エドワード様も絶対喜んでくれますよ!」
「そうだといいのだがな。」
そうして私たちはエドワードの帰りを待ったのだった。