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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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夏祭り 前日譚

深呼吸をする。

電話を持つ手が震える。

落ち着け、私。電話に出るのは母親だ。父親ではない。

私はもう一度深呼吸すると、意を決してスマホのコールボタンを押す。

呼び出し音が数度鳴る。この間だけでももう胃がムカムカする。


「もしもし、西条さいじょうですが。」


聞き慣れた女性の声。懐かしさを感じる。


『あ、もしもし、お母さん?あたし、□□。』

『あら、あーちゃん!?あんた今まで何しとったん、連絡一つ寄越さへんで。』

『何しとったんって、普通に大学通っとるよ。』

『それならそれでもうちょっと連絡しぃよ、あんたって子は…。』

『あははー、ちょっと連絡する気にならなくて…』

『私もお父さんも心配しとってんで?』


あの父親が心配するはずないじゃないか。

そう返してやりたいところをぐっと我慢する。

ひさびさに話したのに揉めるようなことを言う必要もない。


『ごめんごめん、これからはちゃんと月1くらいで連絡するからさ。』

『もう、そうして。それで、どないしたん?』

『まだウチに私の着物あるやんな?』

『そらまぁ、置いてあるけど?』

『お母さんの見立てで良いからさ、浴衣一枚送ってくれへん?』

『浴衣?もー私、着物着たないって言ってたあんたが?』

『そやけど…今度夏祭り行くときにちょっと着よかなって…。』

『夏祭り?誰と行くん?』

『友達。』

『へぇ、友達?』


そうオウム返しで聞き返す母親の口調には若干の笑いが含まれている。

まるで、友達じゃないでしょと言いたいようだ。


『ほんまに友達やから!』

『あら、誰も疑ってないやない?』

『口調がそう言うとんのよ!』

『そう思うのはあんたに心当たりがあるからちゃうの?』


口の減らない母親だ。

麗香さんは本当にただの友達…なのだから。


『まぁええわ、そういうことやったら私が質がようてめっちゃ可愛いの送ったるさかい、楽しみに待っとき。』

『うん、頼むね。』 


まぁ、さすが長くあの世界に居るだけあって、母親の見立ては確かだ。

任せておけば問題ないだろう。


『…なぁ、あーちゃん。』

『どうしたん、急に改まった声出して。』

『ほんま、ちゃんと定期的に連絡してな。』

『うん、心配せんでもちゃんとするって。』

『あんたな、ある日突然ふらっと行方くらましそうで…心配なんよ。』


母親にそんなことを思われていたのか。

まぁ、確かにこのまま実家には帰らずこちらで就職先を見つけて居着いてしまうつもりではあったんだが。

とはいえ、そこまで心配されていたとは。

少し反省しないとな。


『私もお父さんも、あんたには好きに生きてくれて良いと思ってるんよ。お父さんももう干渉せんから、もっと連絡してきて。』

『…うん、わかった。』


母親の発言はおそらくほとんど嘘だろう。

あの父親はただもう私に興味がないだけだ。

それでも、少しうれしくなる。


『まぁ、夏祭り頑張って。好きな人のハート射止められるとええね?』

『だから違うって言ってるやないの!』


◆ ◇ ◆ ◇


そして後日。

私は実家から送られてきた着物に袖を通す。

送られてきたのは、西陣織の美しい紫縦縞の浴衣と、赤い花柄の帯で。

実家に居たとき一度も見かけたことのないそれに、母親が新たに拵えたのだろうと思い当たる。

もう、そこまでせんでもある奴でええのに。


さすがに浴衣の着付けくらいは自分自身で出来るくらいの心得はある。

着物を着ると、気が大きくなる。

嫌なことがたくさん詰まっているからだ。

それでも、今日はなんだか浴衣で行きたかったのだ。

麗香さんは可愛いと言ってくれるだろうか。

少し、不安になりながらも私は家を出た。




麗香がやってこなかった世界線では□□はほとんど実家と連絡をとらないまま就職し、さらに関係をこじらせたままある日リシアとして転生したため、本当にふらっと居なくなった訳なんですが、麗香のいるこの世界線では、どうなることやら。

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