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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第一章 そして姉妹になる
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あなたが

どうして、どうしてもこうなってしまうのか。


「いつかこんな日が来ると思っていた…さぁ来い、リシア!」

「ああ、やめて、やめてください…お姉さま…」


お姉さまは剣を構える。

その立ち姿一つが美しく、それでいて張りつめて切れてしまいそうな感じを受ける。


「どうした!来ないのなら私から行くぞ!」


戦う気を見せない私に、じれたように剣を突き出してくる。

その剣捌きには並々ならぬ鋭さがあり、剣への心得を持ち合わせていることがわかる。


「お姉さま!私は戦いたくありません!お姉さま!」


対する私は剣を持つ手もおぼつかない。

二人の実力差は顕著で、今すぐにでも決着がつきそうに思える。

だが、予想に反して剣戟は続く。

リシアが合わせているというよりは、相手にリシアを殺す気が無いように見えた。


「解っておられるのでしょう!そんなことをすればお姉さまは!」

「…さぁ、何のことだろうな?」


心配ないと言うように不敵に笑いかけるお姉さま。

もう何度も見た、不器用で怖さすら感じる笑み。

なのにただただ愛おしくなるような、そんな笑顔。

嫌だ。失いたくない。私は。あなたを。


「リシア、私は、お前を…ぐっ!」

「お姉さま!」


突如として体勢を崩し、膝をつくお姉さまに私はすぐに駆け寄る。

彼女の口からは大量の赤黒い血が吐かれる。

来てしまった。この時が。あれだけ頑張って回避しようとしたこの時が。


「お姉さま!今医者を呼びます!誰か!」

「…いい、いい、…だ。わた…の、からだ…こと、はわたし…、いちば、ん、わか…て、いる。」


呼吸が荒く、発声もままならない。血の泡が口から吹き出し、ゴボゴボという音を立てる。


「馬鹿!いつもの強いお姉さまはどこへ行ったの!?」

「も…、疲れ…んだ。すま…い、リシア…」


まだか。まだかまだかまだか。なんでなんでなんでなんで。

こんな時に役に立たない力なんて。何のために。


…いや、私が一番わかっているんだ。

この力は、全てを癒し治す聖女の力は。

お姉さまが死なないと、目覚めない。


◆ ◇ ◆ ◇



自分が乙女ゲーの世界にいることを自覚したのはいつだったか。

気がつけば現実世界でハマって居たファンタジー学園モノ乙女ゲー「剣戟の先に」の主人公、元平民で神託の聖女であるリシア・エヴァンズになっていた。


この「剣戟の先に」はあまり評判の良いゲームではなく、身近でもハマっている人は私くらいしか居ない。

特に評価が悪かったのは、メインキャラであるエドワード王子の婚約者で、悪役令嬢のレベッカ・ローエンリンデのキャラのブレだ。

このレベッカ、作品を通してはリシアより年上で、凛とした強い女性として描かれている。

長く艶やかな黒髪を一つにまとめ、ズボンを履き、馬に乗って駆け出すような強い女性だ。

氷のように冷たい、だが美しい顔。きりっとつり上がった眉。切れ長の目。全てが可愛さというよりは格好良さや美しさを表現している。

武術にも優れ、剣を構え主人公に向き合うイベントCGは、他のどのCGよりも美しい。


が、そんな強くて美しい悪役令嬢レベッカの主人公への嫌がらせが、キャラに全く合わないのだ。

エドワードルートでは年下で元平民であるリシアのエドワードへの言葉遣いを指摘するなどと言った嫌がらせを行う。

いや、その程度ならわかるのだ。レベッカは正しいことを言っているし、けして理不尽に怒っているわけではない。


だが、コケそうになっているリシアを助けたエドワードを睨み足早にその場を去る、リシアの持ち物や課題を捨てる、海イベントでは海流が強く危険な場所を勧めた後居なくなりリシアを溺れさせるし、エドワードの告白イベントではレベッカの領地を通りかかったリシアをゴロツキを雇って攫ってしまう。


レベッカのキャラならそんなことしないし、むしろ嫌いそうなものだ。

気に入らないことがあってもはっきりリシアに伝えるだろうし、それだけの力や権力も持っている。

悪役令嬢からの嫌がらせがないと婚約解消と断罪のイベントに至らないのはわかってはいるが、どうしても腑に落ちない。


エドワードルートではそのようなキャラに合わない嫌がらせを続け、先述の告白イベントで攫われたリシアを助け出したエドワードにゴロツキを雇ったことを追及されるも


「私は下賤なゴロツキ共とは全く関わりはない。だが、私の領地で起こったことではある。リシア嬢には深くお詫び申し上げる。今後このようなことが起こらぬよう厳しく取り締まるつもりだ。無論、出来る限りの詫びもしよう。」


と突っぱねた上で金での解決を図り、エドワードとの関係に深い溝を作ってしまう。


元々、温厚で柔らかな雰囲気のあるエドワード王子と強く凛としたレベッカは対極であり、あまり合わない二人ではあったのだが、この事件をきっかけにリシアとエドワードは思いを通じ合わせ、レベッカの断罪イベントへ大いに進展する。


そんなキャラがぶれぶれのレベッカだが、私は強くかっこいい様が好きで好きで仕方なかった。

メイン攻略キャラの誰よりも好きで、レベッカルートが無いのかと何度も嘆いたものだ。

エドワードルートでのレベッカの断罪イベントを見た後は三日三晩泣きはらした。


断罪イベントの最後、レベッカとリシアは決闘になるのだが、レベッカのが何倍も強いのに何故か勝てず、決闘中に何故か急に動きが止まったところをリシアの突き出した剣が深々と刺さってしまう。

生来のお人好しキャラとして描かれるリシアはそれでもレベッカを救いたいと強く思い、それまで神託の聖女が歴代全員持ちながらリシアには使えなかった癒しの力が目覚めるのだ。

だが、レベッカを救うには一歩遅く、息絶えた後に目覚めることとなり、リシアは救えなかったレベッカのためにたくさんの人を癒やすと誓い、エドワードと結ばれENDとなる。


なんだそれは。例え力に目覚めてもレベッカを救えなきゃ一緒じゃないか。間に合えよ。救えよ役立たず。と画面上のリシアを呪ったことをよく覚えている。


そんなリシア・エヴァンズになっていたのだ、私が。

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