看病
麗香視点です。
「やぁ、□□。大丈夫か?」
「あれ、何で麗香さんが…?」
「まだ朦朧としてるみたいだな。布団まで連れて行こう。どこだ?」
私は玄関先に荷物を置き、□□に肩を貸すと寝室まで連れて行き、寝かせる。
□□のおでこにぴとりと手を当ててみる。とても熱い。
「へへ、熱いでしょう…?」
「よく頑張ったな。経口保水液とやらを買ってきたが飲むか?」
「あの美味しくない奴…。」
「脱水気味の時に飲めば美味しいらしいぞ?気にならないか?」
「へぇ…それは面白いですね…。」
片手に持ってきていたペットボトルの蓋を開けて渡してやると、こきゅこきゅと飲み干してゆく。
よほどのどが渇いていたようだ。
「本当だ、美味しいですね…不思議…。」
「ふふ、だろ?よし、荷物を取って来るから待っていろ。」
私は□□の頭を一撫でして玄関先に戻り荷物を整理して寝室に戻る。
「冷却シートを買ってきたぞ。貼ろうか?」
「ありがとうございます…そういや、どうして麗香さんが…?」
「先ほど電話したのだが、覚えてないか?」
「あー…私、半分寝てるときに人と話しても結構忘れちゃうんですよね…。」
「ふふ、なるほどな。」
私は冷却シートの透明なラップ部分を剥がして□□のおでこに貼ってやる。
「冷たい…。」
「気持ちいいか?」
「ええ、ありがとうございます…。」
「おなかは空いてないか?冷凍のうどんとレトルトのお粥を買ってきておいたんだ。」
「あ、おうどん食べたい…。昨日ほとんど食べ損ねたから…。」
「解った。キッチンを借りて良いか?」
「ええ、刻みネギを冷蔵庫に入れてあるので入れて下さい。」
「ああ。」
私はキッチンを借り、鍋に白だしを入れると火にかける。
料理と言うほどもない。煮たったらうどんを入れて解れるまで待つくらいだ。
□□の言うとおり、冷蔵庫を覗くと刻みネギがタッパーに詰めてある。
丼にうどんを入れ替え、ネギを入れ□□の元に持ってゆく。
「おだしの良い匂いがしますね…。」
「出来合いだぞ?」
「それでもです。」
「まぁ喜んでくれるなら私も嬉しいが。」
大したものを作ったつもりもないので少し気恥ずかしい。
「起きれるか?」
「はい。」
□□はベッドサイドに座ると丼を受け取る。
「食べさせてくれないんですか?」
「うどんでそれは難しいだろう…。」
「冗談のつもりだったんですけど、お粥なら食べさせてくれたんですね…?」
□□はくすりと笑うと、うどんをちゅるちゅると啜る。
「美味しいです。」
「なら良かった。」
お腹がすいていたのだろう。
一心にうどんを啜ってゆく。
□□はペロリと平らげてしまった。
「ごちそうさまでした。」
「かぜ薬はあるか?なければ買ってきたのだが。」
「そこまでしてくれたんですね…。ありがとうございます。」
「気にするな。ほら飲んで。」
私は□□に薬を押しつけ飲ませる。
「にふぁいです、れいふぁさん。(苦いです、麗香さん)」
「しゃべるな、口から粉末が出てくるだろう?」
そうしてやっと薬を飲ませ、また床につかせる。
「後、やってほしいことはあるか?」
「そう…ですね。歌を歌って欲しいです。」
「子守歌か?」
「何でも良いですよ。」
私は頭に浮かんだフレーズの歌を歌う。
□□は楽しそうにしている。
「それから、何かお話もして欲しいです。」
「話か。うーん…。」
最近あった撮影の話をする。
やはり□□は楽しそうに聞いている。
「後、ダンスも見たいですね…。」
「ダンス!?」
どうしてそんなものを見たがるのか、そう思いながらも何とかうるさくない程度に踊ってみる。
「それから、私に都心の一等地を…。」
「お前、私で遊んでるな?」
□□のデコに思い切りデコピンしてやると、てへとした顔をする。
「…後、寝るまで手を握ってて欲しいです。」
「ああ。」
□□が布団から出した手を握ってやる。
小さくて、とても熱い。
「それから、起きるまでここに居て欲しい…ですね…。」
「ああ。もちろん。」
「ふふ、嬉しいなぁ…。」
□□は心底嬉しそうにわらうと目をつむる。
「麗香さん、私ね…、昨晩メッセージには気づいてたんです。でも返す気がしなくて…ごめんなさい。」
「そんな、気にするな。」
「麗香さんにとって、私はただの一友人だと思うと、ちょっと寂しくて…。熱を言い訳にして…」
□□が気になる話の途中でそのまま眠りにつく。
□□が?一友人?
そんなはずはない。そう訂正したくとも夢の中だ。
私はただ□□の手をさすりながら、目を覚ますのを待った。