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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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雨が降る

6月。梅雨の足音もすぐそばに聞こえる頃。

私は麗香さんの大学のキャンパスの近くに居た。

諸用で近くを通った私は、麗香さんがキャンパスに居ないか覗きに行く。


梅雨を乗り切ればもう夏とあって、すでに暑い。

麗香さんに選んで貰った服も着ておかないともうしばらく着る機会がないだろうと着てきた。


『今、何してますか?』


そうメッセージを入れる。

いつもとは違いすぐには既読がつかない。

撮影かな。ともすればここには居ない可能性が高い。

失敗したかもしれない。麗香さんを驚かせたかったのだが。


とはいえやることもなく大学内をふらふらさまよってみる。

私は自分の大学しか知らないのだが、案外雰囲気が違う。

うちが明るい感じだとすると、ここは無骨な感じだ。

スペースはうちのが広いな。結構狭い気がする。

色んなことを思いながら歩く。探検みたいで楽しい。

そうして一頻り見て回った後、再度スマホを取り出して通知を見る。

やっぱり、返信は来ていない。

授業もない時間だし、立て込んでいるのだろう。

帰ろうかな。


そう思い足を向けるが、途中でふとあることを思い立つ。

時間も時間だ。せっかくだし学食を食べて帰ろう。

そうして食堂へと向かう。


◆ ◇ ◆ ◇


食堂も如何にもといった古い昭和の大食堂と言った感じだ。

光などを採って明るくおしゃれ感を出してるうちの大学の食堂より落ち着くかもしれない。


こういうところではうどんに限る。

ぷつぷつと切れる柔らかいおうどんを袋に入ったつゆだしで茹でただけのものがだいたい出てくる。

それが私はなんとなく好きなのだと最近わかった。


そうして出てきたうどん。

期待通りのものだ。

私はそれをゆっくり食べ始める。 

うん、月並みな味だ。良いな。


そうしてうどんを啜りながらふと、食堂の入り口に目をやる。

スラッと高い背、整った顔立ち、美しく長い髪。

そこに麗香さんが居た。


私は思わず背を丸め見つからないようにする。

麗香さんが一人ではなかったからだ。

ついているのは二人。

麗香さんより背が高く、ちょっと悪そうな男の人。

それから小さく柔らかそうな笑みの女の人。

三人は仲良さそうに食堂に入ってくる。


そうだ、麗香さんは私と違って友達がほかにもいる。

どうして今までそのことに気付かなかったんだろう。

なんだか胸がチクりとする。


三人はそのまま食券を出し、食事を受け取ると席に着く。

何故かそれを観察してしまう。

遠くで会話の内容は聞こえないが、楽しそうだ。

麗香さんが何かを言う。女の人はニコニコと笑い、男の人は愉快そうに麗香さんの肩に肘を乗せる。

仲むつまじそうな様子だ。


その後も麗香さんが何かを言い、男の人が指差して何かを指摘する。

それを見て麗香さんはスマホを取り出して画面を見る。

だが、しかめっ面をした後、首を横に振りまたスマホを仕舞う。

その様子を見た私は思わずスマホを開ける。

麗香さんの既読はついていない。

そりゃ、友達と話すときはそちらが優先だよな。

そう自分に言い聞かせる。

それでも涙が押し寄せてくる。

これは何の涙なんだろう。自分でも解らない。

ただ、こんな所で唐突に泣き出すわけには行かない。

私は慌てて片づけ、返却口に食器を返す。


そして、三人から一番遠い出口から出る。

外は梅雨の到来を知らせるように雨が降り始めていた。

私は傘も差さず帰り道につく。

そうすれば、涙か雨かわからずに済んだから。



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