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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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汗と距離 その6

麗香視点です。

私は深夜のトレーニングの片手間に三種のお茶をそれぞれ沸かす。

今晩はこのまま常温にして、翌朝に水筒に詰めて持って行く。

手慣れた行程。岩盤浴に行く時のいつもの組み合わせ。

でも、今回はいつもより多く作る。


ドクダミ茶を見て、昔これを作ってくれたリシアのことを思い出す。

あれは間違いなく、私の体を慮って作られた愛情の籠もった一杯だった。

もうそれは飲むことは出来ないけれど。

でも□□と二人新たに楽しむことが出来たら、なんて思う。


◆ ◇ ◆ ◇


岩盤浴は、楽しい。

それは前々から解っていたことだ。

健康でない故にリシアを守ることが出来なかった私は、人一倍健康であろうと努めた。

次第にそういった健康習慣自体が楽しいものであると感じ始めた。

元々サウナが好きだったくらいだ。岩盤浴はとても楽しかった。


しかし、□□と行く岩盤浴はそれよりももっと楽しかった。

並んで横になる。いつも通り深呼吸をして呼吸を整える。

次第に無になり、ただ汗が体を伝うのを感じるのだが…。

今日は違う。横の呼吸音に意識が行く。

どうやら、私の真似をしているようだ。

その様子が可愛らしい。


「麗香さんは良く来られるんですか?」

「そうだな。月に二回くらいは必ず。」


会話が始まる。もはや無になるどころではない。

だが、こうして話をすることが面白い。

その後も少しずつ会話を続けながら、時はすぐに過ぎてゆく。


「そろそろ一回出ようか。」


20分が経過したことを認識した私は、□□の手を引き外にでると、先ほど冷蔵庫に入れておいた炭酸水を差し出す。

□□は、どんな顔でそれを飲むんだろう。


炭酸水を受け取ると、その小さい体をめいいっぱい反らし、こきゅこきゅと炭酸水を飲み干してゆく。

その様子が可愛らしくて、つい笑ってしまいそうになる。


「ふっ、ふふ…美味しいか?」

「微妙に笑いを堪えているのは癪ですが、とても美味しいです。」

「それは良かった。」


笑って見られていたことに多少の悪態を吐きながらも、美味しいと素直に言える□□がただただ好ましかった。


◆ ◇ ◆ ◇


再度岩盤浴に入った後、今度は冷気浴の部屋へと連れて行く。

サウナで水風呂に入ってととのう、なんてことはよく言われるが、岩盤浴にもそういったものはある。

火照った体でキンキンに冷えた室内に入るとそれはそれはまた溶けそうになる。


「これは…なんというか…」

「だな…。」


きっと私たちは同じ気持ちを共有している。

それを理解している私はあまり多くを語らない、というか語れない。

体に籠もった熱がすーっと引いていくのが解り気持ちいい。

そうして呆けていると、急に頬にぴとりと冷たい感覚がする。

私は少し驚いた。

それは、急に冷たい手で触られたというのもあるが、向こうからの手を握る以外の肌と肌を触れるスキンシップが初めてだったからだ。

以前から自然と手を握ってくれたりと、心を許してくれているのは解っていたが…嬉しかった。


そして私も□□のうなじに同じく冷えた手を触れてでみる。

想像以上の反応に楽しくなってくる。

私を狙った□□の攻撃を避け、背に手を突っ込んでみる。

□□は一瞬冷たさでたじろぐものの、ニヤリと笑って私のシャツの中に手を突っ込んで仕返ししてくる。

そんな気の置けないやり取りが楽しくて、人目を気にするのはずっと後になってしまった。


◆ ◇ ◆ ◇

 

脱衣場にて。

横の□□が下を向いてこちらを見ないようにしているのが解る。

緊張しているのだろうことも伝わってくる。


初めてリシアとお風呂に入るとき、私も緊張したな。

横に服を脱いだリシアが居ると思うと視線を向けられず、ただただ緊張したことを思い出す。

あの時、確かリシアが悪戯みたいにつつと背中をなぞって少し緊張が解けたんだ。まぁその後でもっと緊張したんだが。

私はあんな風には出来ないが、それでも私らしく何とか緊張を解いてあげられたらなと思った。


◆ ◇ ◆ ◇


最後のドクダミ茶を□□に出す。

それを□□は美味しそうに飲む。


どうやら、私が普段飲んでいる薬膳茶を□□も気に入ってくれたようだ。

その事実が嬉しい。

二人で同じものを飲み食いし、気持ちを共有する。 

その楽しさが最近よくわかる。

特に自分が作ったものならその気持ちもひとしおだ。

リシアがいつもせっせと私のためにご飯を作ってくれていた理由が少し解った気がした。


◆ ◇ ◆ ◇


そして、今□□は私の腕の中にいる。

どうしてこうなったのだろう。 

思い返して見てもわからない。

休憩所の寝ころびスペースは基本一人用だ。

二人で利用するバカップルも居ないことはないが、あまり良い目で見られるものでもない。


おそらく□□は何らかの勘違いで入って来たのだろう。

間違いを訂正すべきか迷っているうちに、□□は私に背を向けてマンガを読み始め、言うタイミングを逃す。


□□の小さく華奢な体がすぐそばにある。

リシアとベッドを共にする用になってからを思い出す。

いつも必ずリシアは私に背を向けて、後ろから抱いて寝るようにしていた。

リシアと□□は違うものだとは解っている。

それでもこうしていると、リシアと呼んで後ろから抱き締めたくなる。


「麗香さん、もしよければ手を回していただけますか?」

「ん、こうか?」


そうして悶々としていると、何故か□□の方からそんなことを言い出す。

私はいつもしていた様に手を回す。


「なんでだろう、あの時もですけど、こうして麗香さんと横になるととても安心した気持ちになるんですよね。」

「私もだよ。昔から永くこうしていたみたいだ。」


リシアとしていたあの時の様で。


「わかります。落ち着くって言うか。」

「□□が同じ気持ちというなら私もとても嬉しい。」

「ふふ、オーバーですね。」


同じ気持ちが、この世にもあったことにただ幸せになる。

きっとあの時間は向こうの世界に置いてきたままだと思っていたから。

□□がもっともっと愛おしくなる。


□□とリシアは違うから、求めすぎないようにしよう。

別に恋人になんてならなくていい、ただ□□が幸せであってくれたらそれで良い。

むしろ、□□と恋愛をするのはリシアにも□□にも悪い気がして。

そう思っていたのに、どうしてもリシアと□□を重ねてしまって、そのうちにドンドン仲良くなって。

そうしていると、リシアと□□の違いにもだんだん目が行くようになって。

でも、そんな違いすら愛おしいと思えるようになって。

そして、あの日置いてきたリシアとあの時間がここにある。

私は感情が爆発しそうになるのを抑える。


それでも、我慢できずにいつものようにリシアの足に足を絡めてみる。

□□は何も言わない。

私はそれを良いことに、どんどんいつもと同じ体勢へと変えてゆく。

そして□□がすっぽりと私に包まれたあの体勢になった頃、私の腕の中からはただ寝息だけが聞こえてきた。

それを聞いている内に、私も多幸感に包まれながら眠りについた。





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