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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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汗と距離 その4

そろそろたくさん汗をかいて館内着も重たく汗くさくなったなと思った頃。


「もう一枚まで無料で借りれるから、貰って一度湯で汗を流してから着替えないか?」

「それ良いですね。」


と、脱衣場まで戻ってきたのも束の間。

私は気づいてしまった。


「ここは湯も良いんだ。楽しみにしててくれ。」

「そ、そうですね。」


なるべく横を見ないようにしながら答える。

落ち着け、落ち着け私。

そう言い聞かせながら服を脱ぐ。


「あ、あの!」

「ん?」

「お、おおお、お先に入ってますね。」

「ああ、わかった。」


服を脱ぎ終えた私は足早に横を抜け、浴室へと向かう。

入り口の戸を閉め、かけ湯の壺まで歩いたところで、吐き出すように呟く。


「あの肉体美は反則でしょ…。」


気づいてしまったのだ。麗香さんの鍛え抜かれた身体の美しさに。

いや、気づいていたのだ。最初に衣服から館内着に着替える段階で。


麗香さんの横で着替えることには一切抵抗はなかったわけではない。

同性とはいえ、お友達の前で初めて服を脱ぐのだ。

おぼれたときは意識がなかったので数えないが。

それでも何とか緊張を解し服を脱いでいった。

汗をかくから下着類も外しておいた方がいいとのアドバイスを受け、下着も外しつつ横に向けて話しかけた時、目に入ったのだ、その肉体美が。

その瞬間、今までの緊張などは全て吹っ飛んだ。

それは、女性らしいとは言えないのだろう。

頭の先から足の指先まで、いっぺんの曇りなく鍛え抜かれた身体。

一切のたるみなく、引き締まった肢体。

腰元はある程度のくびれをキープしつつも、しっかりとついた筋肉。

すべての無駄を削ぎ落とし筋肉で出来ているような身体の中でも、とりわけ美しい腹筋。

ミケランジェロが表現したかった肉体美というのは、これを指すのではと言わんばかりのその美しさに。


目にした瞬間見とれてしまった。

いや、目が離せなかったと言ってもいい。

視線に気づいた麗香さんの不思議そうな顔でやっと私は目線を下に落とし着替えたのだ。


今まで一度も見たことがないわけではない。

トレーニングウェア姿で筋トレしているところも見たし、一度は下着姿まで見たはずだ。

それでも、一糸纏わぬ姿は凄まじい衝撃だったのだ。


私はふらふらと洗い場に歩を進め座り込む。

頭を冷やすためにシャワーを浴び、そのまま頭を洗い始める。

落ち着け。落ち着け。ただその言葉だけを脳内にぐるぐるさせる。

そして泡を流すためにまたシャワーを浴び始める。

落ち着け。

落ち着け。

落ち着け。

…?

途中で違和感に気付く。

いつもより泡が中々落ちない気がする。

というか、シャワーとは別に後ろから何かがかかってる気がする。

そう思って振り向くと、後ろには麗香さんがいた。片手にシャンプーボトルを持って。


「バレてしまったか。」


麗香さんはいたずらっぽく笑う。

先ほどからずっと後ろにたって頭を流している私の頭にシャンプーを追加し続けていたのだ。


「ぷっ、あははは」


そのしょうもなさについ笑いが出てしまう。


「緊張は解れたか?」

「ええ。」


麗香さんは横にすとんと座り洗い始める。

そうだ、如何に美しかろうが、麗香さんは麗香さんなのだ。

あのいつも笑顔で、見栄っ張りで、中身は小学生の悪戯好き。

そのことに気付いてしまうと、なんだか体からふと力が抜けてしまった。


「ふふ、なら良かった。しかし、湯船より先に洗う派なのだな?」

「そうなんですよ。先に湯船派ですか?」


他愛のない雑談をしながら麗香さんが頭の泡を流す段階を待つ。

温度の調節ノブを極限までひねり、少し出して温度を変えておく。

そして麗香さんが頭を流しだしたのを見て立ち上がる。


「ふふ、シャンプーを掛けるなよ?」

「ええ。シャンプーは掛けませんよ?」


麗香さんの注意に答えながら後ろに回る。

そうして油断した背中に向け思いっきり冷水シャワーをかける。


「ひゃあ!?」


急な冷たさに飛び上がった麗香さんを見て、私はほくそ笑んだ。


◆ ◇ ◆ ◇


「あぁ…溶ける…。」

「甘いですね、私はもう流れて行きましたよ…。」


二人湯船の中。

露天風呂とはどうしてこうも気持ちいいものか。

まあなんでもいいか。

ひとしきり溶けた後、私は口を開く。


「麗香さんの身体って、本当に綺麗ですよね。」


この発言は少し気持ち悪いだろうか。

でも麗香さんならプラスに捉えてくれる気がする。


「ありがとう。そう言われると嬉しいな。」

「前にも言ってましたけど特に腹筋の造形が美しいと思うんですよね。」

「ああ、そこはかなり気を使って鍛えている。…触ってみるか?」

「いや、あのー、まだちょっと早いかなって…。」

「どうなったら早くないんだろうな?」


少しひよった私を見て、軽く笑いながらそう追撃する。

確かに二人の関係性がどうなれば早くないのだろうか。

私は、麗香さんとどうなりたいのか?

少し考えたあと、今悩むことではない気がして、それも湯に流した。


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