おうちデートその2
「今日はオムライスを作ります!」
今回のお姉さまの我が家来訪の目的、それは料理をしてみたいというお姉さまの要望からだった。
お昼休みに、いつものように二人でお弁当を食べているときに、料理の作り方について話になった。
一度見てみますか?とお誘いしたところ、それならば一緒にやってみたいとのこと。
なので今日はお昼ご飯を一緒に作ります!
「オムライスは食べたことあります?」
「いや、ないな。食堂にあったから物は見たことがあるが。」
「まぁそうですよね。あまりここの人はお米食べないんだよなあ。」
西欧風の文化を主軸とした作品だけあって、この世界の貴族はあまり米を食べない。
存在することはしているし、食品としての認知もあるが、圧倒的にパン派がメインなのだ。
ちなみにエヴァンス子爵家では私がお米を食べたいというワガママにより食卓に出て以来、一家全員がお米好きに転身したため、普通にお米がよく出てくる。
「じゃーん、これが焚く前のお米です!」
「ほ、ほう?…虫の卵みたいだな…」
「それ、みーんな言うんですよね!待っててください、美味しいって言わせてやりますから!」
「リシアの言うことだから間違いはないだろうが…」
「さて、まずはこのお米を洗います。」
「洗う?」
「何となく予想出来るんですが、当然石けん等では洗いませんからね?」
「何故そう考えていたのが解った?」
「お料理あるあるだからです。ではまずは猫の手!にゃー!」
そう言って私は両手を顔の高さに上げて、猫が爪を立てるような感じに手を構える。
お米を洗うときのあの手だ。
「…どうした?」
「ほら、お姉さまもご一緒に!猫の手!にゃー!」
「えっ、えーと、ね、猫の手…!に、にゃぁ…!」
例の無表情のままではあるが照れて顔が真っ赤になっている。しかし、それでも真似をしてやってくれている。
「ああもうお姉さま可愛いですね。最高です。それでは水を入れて、この猫の手でお米をかき混ぜます。」
「ポーズとにゃーと鳴いた意味は…?」
「ないです。」
「お、お前…!」
「はい、ということでお米がとぎ汁を吸う前にちゃちゃっちゃーとやっちゃいましょう!」
一度私がその場で実演してとぎ汁を流した後、次はお姉さまにやってもらう。
普段立ち居振る舞いがすごく洗練されてスマートなお姉さまだが、今はロボットかのようにぎこちない。
ああ、でも武道が出来るだけあって体の動かし方の飲み込みはそこそこ早そうだ。
「よし、良いですね。もう一度やって、白いのが薄くなったら、新しい水に換えて30分程度浸けておきます。」
「30分?そんなにもかかるんだな。」
「普段なら前日の冷えたお米とかを使うんですがね。今日はせっかくですから。では、その待ち時間にもう一品作りましょう!」
「なんと、オムライスだけではないのか。」
「時間が勿体ないですからね。それではもう一品、付け合わせにコーンスープを作りましょう。」
「コーンスープか、もちろん食べたことはあるぞ!」
「よく食べる物の作り方も解ると楽しいかなと思いまして。」
オムライスがあまり食べないものだから、よく食べるメニューを一つ作りたかった。知ってる料理を作ることがやはり一番勉強になるしね。
「ではまず、元となるトウモロコシをサッとゆでます。そのままだと芯から外しにくいですからね。」
「ほうほう…。」
「そしてトウモロコシがあったまったら、粒を芯から外していきましょうか。こうやって粒を一粒ずつぷちっと…!」
「これはすごく大変だな…!」
「まぁ、そんなことはしませんけど。半分に折ってからこうやって断面の付け根に包丁を刺して、雑に取っちゃいます。」
「先ほどから私をからかって遊んでいないか?」
「ふふ、お姉さまがよく私を虐めて遊ぶ気持ちがわかっちゃいました。」
「身から出た錆だったか…」
「さて、あらかた取り終わったら、これをすりつぶしましょう。このすり鉢を使います。」
「ふんふん」
「お姉さまは力が強いので、思う存分やっちゃってください!こうやってごりごーりってやるだけですから。」
私が数度すり棒をぐるぐる回してみせる動作をするとお姉さまは得心したという風に頷いて見せる。
「わっ、すごい!」
すり棒を持ったお姉さまは水を得た魚の様に素早く力強くすりつぶしてゆく。
ミキサーがあればと思っていたが、人間ミキサーのようなものだ。
心なしかお姉さまは自慢気にも見える。
「さて、出来たら次は我が家の料理人からもらってきたコンソメスープに牛乳とこれの汁、そして残りのトウモロコシの粒を加え煮立てましょう。」
「コンソメスープはもう出来ているのだな。」
「そこからやるとお肉を長時間煮てブイヨンを取ったりとか結構大変なんですよね。今回はなので味付け前の物をもらって来ちゃいました。」
「スープ一つにもこんなにも手間がかかるのだな…」
「さて、こちらは後は中火でひたすら煮るだけですから、メインのオムライスに戻りましょうか。」