生意気で距離の近い後輩
「次はこれを着てみてくれないか?きっと似合うと思うんだ。」
「麗香さん。」
「それからこれも頼む。」
「麗香さんってば!」
「後はこれだな、本命と言っても良い。」
「麗香さん!!ストップ!!」
ある日服屋にて。
試着をして、麗香さんに見せたところ絶賛をもらい、そこまで褒めてくれるなら買っても良いかな?とか思いながら脱いで試着室を出たところ。
私の両腕に置かれる大量の衣服。
それも何とか一つずつ着て見せ、麗香さんからご満悦の頷きをいただき、出てきたところだ。
「そもそも、さっきも本命みたいなものって言ってたじゃないですか…。」
「いやあ、あれも最高に良かったんだが、見ている内にもっと良さそうな物を見つけてしまってな…。」
「そんなこと言ったらキリが無いじゃないですか…。日が暮れますよ。」
「大丈夫だ、日が暮れてもしばらくは閉店しない。」
「そういうことではありません!!」
まだまだ大量に衣服を持ってきかねない麗香さんに必死に抗議してみるが、どこ吹く風だ。
「頼む。絶対似合うから。」
麗香さんの懇願するような目つきにため息を一つつく。
どうも私はこの顔に弱い。
「解りました。その代わり、ここにある分試着している間に他の物追加しないでくださいね。麗香さん?こっち向いてもらえます?麗香さん??」
駄目だこれ。絶対増えてる奴だ。
私はまだまだ着替えさせられそうな雰囲気に大きくため息をついた。
◆ ◇ ◆ ◇
「出来た…!間違いなくこれだ!」
麗香さんが非常に興奮したようにうんうん頷く。
私は姿見で自分の姿を見る。
オーバーサイズで色々なワッペンが貼られた風な黒のデザインパーカー。
白いジーンズの短パン。
頭にはベースボールキャップに大きな笑顔の缶バッジ。
これが私…?とほどの驚きは無いが、似合っているような気はする。
自画自賛だが。
「生意気で距離が近い後輩コーデだ!」
「麗香さんの中で私はそういうイメージなんですか…?」
それはそれで非常に納得のいかないところだ。
「一度片手でキャップのツバを持って、もう片手は後ろに伸ばすように、前傾姿勢になってもらえないか?」
「こう、ですか?」
「はぅ…これは不味い、□□に悪い虫が寄ってきてしまう…。」
麗香さんがもだえる。
悪い虫ってなんだ。目の前の人が一番ヤバそうまであるぞ。
「ちょっとせーんぱい♪って言ってみてくれないか…?」
「えぇ…んん…せーんぱい♪」
「良し、お持ち帰りしよう。」
「駄目ですけど?」
「どうして…。」
どうしてもクソもない。
そんなのでほいほいついてくる女が…居そうだな。麗香さん顔だけは良いし。
うなだれる麗香さんを放っておいて、私はさっくり着替えて、今の一式をレジに持って行く。
「お願いします。」
「買うのか!?」
「これが一番良いんですよね?ならこれくらいは。」
「□□…全部買ってやりたい…。」
「宝くじでも当てたらお願いします。」
着たもの全部買うとか、アニメに出てくる貴族か何かだろうか。
平民の主人公が惚れられた貴族に全部買ってもらうシーン。
そう言えばレベッカ様も貴族だったな、何てことを思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「□□は何にするんだ?」
「んー、私はうどんにしようかなって。」
「うどんも良いな。私はラーメンにしようかと思う。」
「じゃあまた後でですね、ここらへんの空き席で良いですか?」
「解った。」
私たちは一旦解散して各々自分の昼食を買う。
食べたい物が違っても好きなのを選べるのがフードコートの良いところだ。
私は讃岐風のうどん屋にてうどんを頼み受け取ると、先ほど集合場所に指定した辺りに移動する。
まだ麗香さんは来ていないようだ。
私は先に席を見繕って座っておく。
そう時間が経たない内に麗香さんが自分の分を持ってこっちの方に来る。
まだ見つかっていないようで、あちらこちらをキョロキョロと見回している。
私は見つけやすいように麗香さんに向かって手を振る。
麗香さんは私を見つけるとパッと笑顔を花開かせこちらに駆け寄って来る。
危ないな、よくラーメンをこぼさないもんだ。
「すまない、待たせた。」
「全然待ってませんよ。遅かったら先に食べてますし。」
なんだかんだ、麗香さんとはよく食事をする。
今更先に食べてたって怒らないであろうこともわかる。
そうして私たちは昼食にありつく。
うどんを啜りながら麗香さんを軽く見やると、ニコッとこちらに向かって笑う。
「食事をするのは楽しいな?」
「まぁ、そうかもしれません。」
そう返すと、さらにくしゃっと笑顔になる。
麗香さんがレベッカと大きく違うところは、こうした表情豊かなところだろうな。
まぁ、こうしてニコニコ笑っていられるのは今の内である。
昼食を食べたら、次は麗香さんの着せかえを始めるのだから。