二人の夜
『友達 接し方』
私はベッドに転がりながらそうスマホに入力する。
こんなことを検索している時点でどうなんだ、という気持ちはあるのだが、わからないものはわからない。
でもなんだかんだ麗香さんと居るのは居心地がいいのだ。
検索してみたが、当たり障りのないことやもしくはスピリチュアルなことしか書いていない。
ため息を吐き、スマホを置く。
そうして目をつむってしばらく考えた後、再度スマホを手に取る。
『今、何してますか?』
特に理由もなくメッセージを送る。
送ってから面倒くさく思われていないか不安になる。
『今、自宅でトレーニングをしていたところでした。』
『そうなんですね。ご迷惑でした?』
『インターバルのタイミングで返してますから、大丈夫ですよ。どうしました?』
『いや、特に何かあったわけじゃないんですけど…というか、こっちだとまた敬語なんですね。』
理由を聞かれ詰まる。
誤魔化すように話を振る。
『こういう文字だとずっとこっちなので。□□さんは何してるんですか?』
『慣れた話し方のが良いですよね。私は特に何もしてなくて、ただベッドでころがってました。』
『暇だったんですね?』
『そうですね。』
暇だからメッセージを送った、そう言うとちょっと印象が悪いだろうか。
失敗したかな。
そう思っていると、突如手の中のスマホが震える。
慌てて画面を見ると、麗香さんからの電話だ。
『あーもしもし、聞こえますか?』
『は、はい聞こえます。』
『良かった。画面は見えてるか?』
画面にはトレーニングウエアの麗香さんが大きく写っている。
『はい、見えてます。』
『よし。コレならトレーニングしながらでも話せるなって。』
麗香さんはそういうと懸垂用のバーに掴まり懸垂を始める。
『こんなもの部屋にあるんですね…。』
『ああっ…トレーニングに…必要だと…思って』
『それ、本当に話しながらやって良い奴ですか?』
喘ぎ声とも取れそうなかすれた声で懸垂しながら話す彼女。
聞いてて不安になる。
『ん…大丈夫だぞ…ほら…!』
『いや、うん…そういうことを言ってるわけじゃないんですけど…。』
麗香さんは笑顔のまま懸垂を10回して手を離す。
『これでワンセットだ。』
『ワンセットということはまだやるんですか?』
『今は三セットかな。』
『私、一回も出来そうにないですよ…。』
『はは、□□はそれでいいと思う。』
そういうとまた麗香さんは棒に掴まり懸垂を始める。
『これ終わったら他のメニューとかもあるんですか?』
『そう…だな!この後…は…』
麗香さんが語るメニューは素人目でも解るかなり厳しいメニューだ。
プロのアスリート並ではなかろうか。
『どうしてそこまで鍛えるんですか?』
『んっ…趣味…とか、ルーティーン…も、あるが…!10っ!』
麗香さんは10回目を終えまた手を離す。
『一番は、昔守りたい人を何度も守れず、最後には大きな傷を残してしまったことかな…。これからはずっと、守ってやりたくて…。強くなりたかった。』
麗香さんは誰かを想うような、遠い目をする。
好きな人だろうか。少し胸の奥がチクりとする。
『って言えば格好いいかなと思ってな。』
『はぁ。』
麗香さんが悪戯っぽく笑う。
しんみりして損した。
『でも、とても綺麗な腹筋ですね。』
『ありが…とう!それを…言われるのは…二回目だ!』
『だって綺麗だと思いますもん。』
『□□が…喜んで…くれるなら…鍛え甲斐が…あるな』
『喜んではないですからね??』
そうして他愛のない話をしながら麗香さんがトレーニングしているのを眺める。
面白い構図だが、なかなか楽しい。
『これは何を鍛えるトレーニングなんですか?』
『これか?これは主にハムストリングスって言う足の裏側の筋肉を鍛えるものだな。曲げて…伸ばす!この動きを支える筋肉だ。』
麗香さんの解説はわかりやすく面白い。
そうこうしている間に、すぐに時間は経ってゆく。
『ふぅ、しかし□□、時間は大丈夫か?私もこれで終わりだしシャワーを浴びて寝ようと思っているのだが。』
『えっ!?もうこんな時間!?寝ないと…。』
時計を見ると夜も良い時間だった。
さすがにこれ以上は明日に差し障る。
『ふふ、時間が経つのは早いな。』
『ですねぇ。楽しかったです。』
『本当か?私も話しながらトレーニングするといつもより楽しかったよ。』
麗香さんは心底愉快そうに答える。
『あの。』
『なんだ?』
『また、やりましょう。』
『ああ。私はだいたいいつもこの時間トレーニングをしてるから。また声をかけてくれるか?』
そうして私たちは挨拶もそこそこに通話を終え、寝る準備を始める。
今日はなんだかいつもよりよく眠れた。
しばらく土日は更新お休みしようかと思います。
平日は変わらず21時更新でいきます。




