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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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何でもない一日 その2

「ふぅ、食べごたえありましたね。」

「本当、よく食べますね…。」 


結局、私が一枚半を食べている間に麗香さんは残りを全て平らげてしまった。

さらに食べきれないようなら、と私の食べかけをぺろりと食べてしまった。

背丈はあるとはいえ、あの細い体のどこに詰まっているのだか。


見慣れぬ美人が、複数人で食べる学食の名物を、ほとんど一人で楽しそうに平らげた。

当然その様子は周囲からしても奇異に写ったようで、すっかりギャラリーが出来ている。

当の本人は意にも介さずのんきに茶を啜っているのだが。


「あの、モデルの麗香さんですよね?」


ギャラリーの中から一人の女の人が進み出る。


「はい、そうですよ。」

「いつも雑誌見てます!サインいただけますか?」


麗香さんは差し出された紙に手慣れた仕草でサインをする。

こうやって見ていると、麗香さんが雑誌の一面を飾るファッションモデルだということを思い出す。

ギャラリーもよく知らないけど、何かしらの有名人であるということはわかったらしく、ざわざわし始める。

麗香さんはすっと立ち上がり、口を開く。


「ではごめんなさい。プライベートなのでここらへんで。□□さん、行きましょう。」

「えっ?あっ、はい…。」


私は差し出された手に掴まると、麗香さんにエスコートされ、あれよあれよと人混みを抜けてゆく。

そして気がつけば学食の外に居た。

なんだか狐につままれた気分だ。


「ごめんなさい、巻き込んでしまいましたね。」

「大丈夫ですけど…麗香さんこそ雑に逃げてきて良かったんですか?評判とか…」

「まぁ最初に気づいてくれた人にはサインしておいたので大丈夫でしょう。しかし、あんなに注目されるとは…。」

「麗香さんはもう少し自分が目立つということを自覚する必要がありますね。」

「そんなに目立ちますかね。」

「自分が目立たないと思っているなら大幅に考えを改めて下さい。」


私たちは先ほどのギャラリーに捕まらないように場所を変えながら話す。


「しかし美人は良いですね、美人は。」

「□□さんだって可愛らしいと思うんですが…。」

「本気で言ってます?」


自分でもわかる。私は世間一般で見てよく見積もってもせいぜい中の下が良いところだ。

トップクラスの美人である麗香さんに可愛いと言われるのは嫌味にしか聞こえない。


「可愛いですよ?」

「例えば?」


本当にそう思ってるなら言ってみろ、ほら。


「まず全体的にシルエットが小さいところですね。私は真逆なのでなおさら可愛らしく見えます。」

「はぁ。」


背が低いってだけです。


「それから好きなものを語るときの情熱的な目つきがとても可愛らしいなあって。」

「は、はぁ…。」


オタクなだけです。


「髪の毛もフワッとしててユルい感じが良いですね。触っても?」

「…ダメです。」


雨の日は爆発しますけどね。


「後やっぱり性格が可愛らしいです。控えめで優しいのに一本筋が通ってて。」

「…そうですか。」


ただ、ねじ曲がってるだけなんですけど。


「挙げればキリがないですけど…□□さんは可愛いと思ってますよ?」

「じゃあ、聞きますけど。もし麗香さんが男の人だったら私とお付き合いしたいと思います?」

「そう思うので今口説いてますね。」


麗香さんが私に向けてウインクする。ダメだ、この人。


「はー。そうですか。」

「信じてませんね?」

「信じられるとでも。」

「うーん、では。」


そういうと麗香さんは何故かあーあーと声を調整しつつ、表情を動かす。

そして何か定まったのか、一度頷くとこちらを見る。


「□□。」

「きゃぁ!?」


麗香さんは私の腰を引き寄せ、壁に押しつけると、もう片手を私の頬に当てじっくり見つめてくる。


「私の可愛い□□。どうかレベッカ・ローエンリンデの一生の伴侶として共に過ごしてくれないか…?」


顔が良い。声が良い。そして近い。

全身が熱くなる。レベッカ様が私を求めている。

いや、落ち着け、目の前の人はレベッカ様ではない、麗香さんだ。落ち着け。


「ダメ、か…?」


レベッカ様は眉を落とし、不安そうな目でこちらを見つめる。

そんな顔されたら、私。


「あの…。」

「ん?」


レベッカ様が返事を待つようにこちらを見る。


「からかってますね?」

「痛っ」


頬に当てられた手をピシャリと叩く。

目の前の人はレベッカ様ではない。


「レベッカ様の真似をしてからかわないでください。もう。」

「からかってるわけじゃないんですけどね…。」


まだ言うか。


「友達でお願いします。」

「あっ、置いてかないでくださいよ。」


そうして私たちは駐輪場に向けて歩き始めた。





□□もリシアも、心を許しきっていない相手に許可無くボディタッチされるのは大嫌いです。

生理的嫌悪感というよりは、己を軽く扱われるのが気に入らないという反骨心の高さ由来のものだったりします。

麗香もリシアでよくそれを理解しているので、□□にはここまでずっとボディタッチするときには「ちょっと失礼しますね」、「触っても良いですか?」などの声かけをしていたのですが、今回勇気を出して初めて何も言わず腰に手を回しています。

尤も、実は二人初対面でテンション上がりすぎて麗香は何も考えず手を繋いで歩いている訳なんですが、何の悪意もないということが伝わっているため□□も特に何も思っていなかったりします。


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