二人のピクニック その5
「傷が出来てから縫合するまで少し時間が経っているので、もしかすると傷跡が残るかもしれませんね。」
「そうですか。」
あれから、麗香さんは最後まで私を背負ってキャンプ場まで連れてきてくれた。
途中の崖なども先導し、手を差し伸べてくれていたので支障は無かった。
キャンプ場に着くと、キャンプ道具はあるのに持ち主が居ないまま一夜が過ぎた、何らかの理由で遭難したのでは?と問題になっていたようだった。
麗香さんは冷静に事情を説明し、スムーズに救急隊へと繋げ、今はこうして病院にいる。
「お医者様はなんと?」
待合室に戻ると、麗香さんが私を見つけやってくる。
「足の切り傷以外は打ち身程度で問題ないそうです。このまま帰れるらしいですよ。」
「そうですか、良かった…。」
麗香さんは心底安堵した様に呟く。
「切り傷はどうですか?傷跡は残りますか?」
「…残らないと思うと言ってましたね。数日は安静にしろと。」
「それは良かった!」
私は嘘を吐いた。
嘘を吐いたことに、自分でも少し驚いていた。
それでも、麗香さんに気にして欲しくないなと思ってしまった。
傷跡が残るかもしれないと聞くと、彼女はとても気に病むような気がしたのだ。
「よろしければお近くまでお送りしようと思っているんですけど、如何でしょう。」
「いいんですか?」
何もかにも全部やってもらうのは申し訳ないのだが、歩きづらい現状その申し出は非常にありがたい。
「もちろんですよ。」
「何から何までお手数おかけします…。」
ガソリン代、助けてくれたこと、全部全部いつかちゃんとお礼をしなければならないな。
そう思いながら私はバイクにまたがった。
◆ ◇ ◆ ◇
「あの…ここらへんで。」
「はい。」
私は一つ手前の曲がり角を指定する。
家の前まで、はあまり良くないらしい。
「今度、しっかりお礼させてください。」
「では、どこか美味しいスイーツの店でも。」
麗香さんはにっこりと笑う。
甘いもの、好きなんだろうな。
とはいえ、その程度でお礼にはならないよな。
何か考えておこう。
「それではまた。」
私はぴょこぴょこ歩き出す。
まだ庇いながら歩くのが不慣れで時間がかかる。
「あの。差し支えなければ家の前まで。」
麗香さんがバイクを止め、おいつき声をかける。
少し悩んだが、女同士だし友達だ。麗香さんは大丈夫だと思う。
「ありがとうございます。」
「歩きます?乗ります?」
「もうそこの角曲がってすぐなので。」
「では手をお貸しします。」
そういうと私を支え、歩きやすいようにエスコートしてくれる。
それだけで大きく違い、すんなりと家のドアの前までたどり着く。
「あの、寄って行かれますか…?」
どうしてだろう。そんな言葉が出てくる。
友達をそのまま返すのも申し訳ない気がした。
「ふふ、やめておきます。でも、私以外にそういうこと言ってはダメですよ?」
麗香さんは私の鼻を一度ツンとつつくと、それではと手を振り帰って行く。
私はドアを開け、部屋のベッドに倒れ込む。
「どういう意味だったんだろう。」
麗香さんの意味深な返しが、頭の中をぐるぐるしていた。
二部一章はここまでとなります。
章タイトルは「運命」で、成就したその時も運命の出会いだと思っている□□と、運命ではなく己の手で手繰り寄せて行く麗香のお話でした。
10万pv記念で少し多めの分量を書こうと思って始めたプチ二部のつもりでしたが、思えばがっつりお話を書いていました。
軽い構想としてはこの程度の章を後3~4個になりそうです。
二人のお話もまた共に応援、お付き合いいただけると幸いです。




