二人のピクニック その3
土曜日より体調が良くなく時間が空いてしまいました。
少しマシになったので、可能な限り投稿していきます。
ぴちょん。顔に何かが降ってくる。
私は寝ていたのだろうか。
「□□、目を覚ましてくれ。頼む…。」
麗香さんの声が聞こえる。
どうやら眠ってしまい、ご迷惑をおかけしたようだ。
謝らないと。
「ごめんなさい、私…」
「□□!」
麗香さんに声をかけると、慌てたように私を抱きしめる。
「寝てしまってたんですよね。今起きますから。痛っ…」
「良い!そのままだ。」
起きあがろうとした瞬間、体の至る所が痛む。
麗香さんに支えられ、私は横になる。
「□□は足を滑らせて川に流されたんだ。覚えてないか?」
「そういえば、私…。」
そうだ。そうだった。
確かにあのとき、私は足を滑らせて、ろくに呼吸も出来ないまま川に流されて…それから…続く滝から落ちたんだ。
「今度は助けられて良かった。」
「助けてくれてありがとうございます。」
「しかし、どうしてこうも水に引き寄せられるのか…」
麗香さんはよくわからないことを言いながらため息をつく。
その麗香さんの様子を見ていると、彼女が肌着姿であることに気がつく。
「麗香さん、服は…」
「ああ、□□の服が濡れていたので脱がせて着て貰った。濡れた服は今焚き火の近くで乾かしているからな。」
そういって指差す方向を見ると、確かに焚き火とそのそばに服があった。
どうやら今の私はレベッカのコスプレ衣装を着ているらしい。
「それから、その、滝つぼに落ちた時に水底の石で切ったんだろう。足を切っていたようだ。止血するのに袖を切ってガーゼがわりに使わせてもらった。せっかく作ってくれた衣装なのに、すまない。」
「そんな!助けてもらったわけですし。気にしないで下さい。服もまた作れば良いですから。」
それでも気にしているのだろう。
私と麗香さんの間にしばしの静寂が訪れる。
「それと、今日はここでビバーク…いわゆる緊急避難だな、しようと思う。追いかけてきたから道は解るんだが、この時間から戻るとすると途中で日が暮れてしまう。先ほど確かめたが電波も通じていないしな。」
「私を置いていけば間に合うんじゃないですか。」
私がそう口を開くと、麗香さんは口をつぐんでしまう。
あれからしばらく経っているだろうが、まだ夕方よりは少し前くらいだ。
怪我している私を連れて、が無理なだけで、麗香さんの健脚なら間に合う気がする。
「私を置いて戻って下さい。私は明日朝に救助を呼んでもらえれば良いので。」
麗香さんの目をじっと見つめる。私が本気だとわかってもらえるだろうか。
あなたにこれ以上迷惑はかけたくない。
麗香さんは軽く苦笑いをすると立ち上がる。
「何か今晩食べるものを探してきますね。動かないように。」
口調が戻ったかと思うと、私をあやすように頭を撫で、立ち去る。
どうやらここから離れる気はないようだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「塩気がないとやはり物足りないですね。」
「調味料って本当に大事です。」
夜。焚き火を囲んで麗香さんの取ってきた魚を焼き、食べる。
私は体をなんとか起こし動かしてみたが、痛みだけで動かすには支障ないようだ。
「まぁでも、以前山中で食べられる野草を本当にそのまま食べて過ごした人も居ますからね。それに比べればまだマシです。」
「そんなことしてた人が。無茶しますね。」
「本当に。無茶しますね。」
麗香さんが咎めるようにこちらをじっと見つめる。
話の流れがいまいちわからないが、先ほど一人で帰れと言ったことだろうか?
「さて、では明日に向けて寝ましょう。睡眠不足が一番明日に響きますから。」
「わかりました。」
「私は□□さんが寝てから火を消して寝ますので。明かりも人工物もない山中で寝るのは慣れが必要ですからね。」
「確かに…。」
思ってもみなかったことだが、山中の暗さは町中の暗さとはまた少し違う。
人気はないのに、何かの気配はある中なにも見えない。
暗闇に人間の根源的な恐怖を感じる。
今こうして火を見つめていても、背中には常に不安がつきまとうのだ。
麗香さんが居てくれて良かった、そう思う。
一人暗闇の中は、よほどの強さがある人でなければ恐怖で一睡も出来なかっただろう。
私は背中をなるべく気にしないようにしつつ、火を見ながら横になり目をつむる。
だが、どうしても眠れない。
体の痛みや、私が寝ないと麗香さんが寝れないことの重圧、そして恐怖などがぐるぐるする。
早く寝ないと。思えば思うほどドツボにはまるような感覚。
「ちょっと失礼しますね。そのまま横になっていてください。」
麗香さんは私に声をかけると寄ってくる。
どうしたのだろう。
私は目をつむったままじっと待つ。
「触りますけど、大丈夫ですか?」
「え、ええ。」
触る?なにに?そう思いながらも私は返事する。
すると後ろから私は抱きしめられる。
体格差から、全身包まれているような感覚。
「私が守るから、大丈夫だ。ほら、力を抜いてリラックスして。」
麗香さんは耳元でそう囁く。
最初は戸惑っていたが、次第に安心感が沸いてくる。
「いいな。力が抜けてきた。心配せずとも私はそばにいるから。」
ぽん、ぽんと寝かしつけるように優しく手で体をたたく。
体から緊張感が抜けてくると、とたんに眠くなってくる。
「□□、おやすみ。」
おやすみなさい。口に出せたか定かでないまま私は意識を手放した。