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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部一章 運命
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写真の物語

「これで全部かなあ。」


新しい衣装の作成に取りかかり始めた私は、コスプレグッズを多く取り扱う店にやってきている。

アニメの服でしかないような特殊な模様だったり生地、装飾などは手作りもあるが意外とこういう店で楽出来そうな商品を取り扱っていることが多い。

実際、かなりの手間を省けそうだ。


「麗香さん、ウィッグ用意しなくていいのはありがたいな。」


彼女はレベッカがゲームの中から出てきたようにそっくりだ。

見た目を調整しなくていいのはだいぶありがたい。


「わっ、この本屋さん、前来た時よりもずいぶんさっぱりしてる…」


こういった場所には本屋さんがつきものだ。

大抵ゴミっとした店内に大量の漫画本だったりグッズがひしめきあっているものだが…

以前来た時よりも店内がかなりすっきりした印象だ。

今日は特に本屋に用事のない私だが、ついつい興味をひかれて入っていく。


どうやら大きく配置を替えたようだ。

何か面白いものが増えていないか店内をうろうろする。


前に無かったジャンルも取り扱いを始めたらしい。

ファッション雑誌や新書などもある。

客層と合っていないような気がするのだが売れるのだろうか…


「そういや、麗香さんの載っている雑誌、なんて名前だったかな?」


知り合いが載っているのであれば一冊くらい買ってみようか。

私は彼女のsnsのアカウントのプロフィールを開こうとスマホを取り出す。

刹那、一冊の雑誌の表紙が目に入る。


「あ…」


そこに大きく写る女性は、雰囲気は違うがおそらく麗香さんだ。

彼女の綺麗さを全面に出したファッションに、透明感を演出する加工。

目力があり、写真越しにでも圧倒されるようだ。


「綺麗だなあ。」


雑誌に出てくる麗香さんは、その服の良さを引き立てながらも彼女らしく落とし込んでいる。

私の写真と見比べると、何かが断然違う。

レベッカの服で、こんな写真を撮ってみたい。

そんなことを思う。



◆ ◇ ◆ ◇


そして衣装を作り上げた私は、麗香さんと約束を取り付け、前回のスタジオで撮影会をする。

 

「お久しぶりです!」


麗香さんは遠目から私を見つけると、大きく手を振りこちらへ向かってくる。

日ごろのこういう身振り手振りが可愛らしい様が、普段の綺麗さとギャップで素敵だな。

私とは大違いだ。


「新しい衣装、楽しみにしてたんですよ。」

「そんな、大した出来ではないですけど…。」


そこまで楽しみにされるのはハードルが高い。

逆に出しにくくなるな。


「これ、ですね。」

「わぁ、見せてもらっても良いですか?」


麗香さんは私から衣装を受け取るとじっくりと観察する。

興味深そうに眺めていたが、やがてとある箇所で手が止まる。


「これは、ローエンリンデの家紋ですね。とても良い出来だ…。」

「実家から持ってきた刺繍ミシンが良い奴で、アプリに取り込んで自動でやっただけなんですけどね…。」

「それにしたって良くできてます。素敵ですね。」


そう刺繍を見つめる目はどこか懐かしいものを見ているようだった。


◆ ◇ ◆ ◇


「うーん…」


早速衣装を着てもらって写真を撮っているが、やはり何か違う気がする。


「どうしたんですか?」

「いや、何かが違うなと。先日麗香さんの載ってる雑誌を買ったんですが…」


カバンから例の雑誌を取り出す。


「プロと比べるのも変な話なのかもしれませんけど、麗香さんが被写体ならもっと良いものが撮れるんじゃないかなと思うんですよ。」

「あの、さすがに自分が載ってる雑誌を出されると少し恥ずかしいんですけど…。」


麗香さんは照れたように言い出す。


「あっ、ごめんなさい。」

「いや、良いんです。むしろ買っていただきありがとうございます。」


麗香さんはぺこりと一礼すると、照れ隠しに私の撮った写真を見る。


「ああ、なるほど。私、少し解ったかもしれません。」

「何が悪いんでしょう?」

「たぶんですけど、写真に物語が足りてないんです。」

「物語?」


物語とはなんだろう。


「例えば、雑誌のこの写真だと住宅街の坂道を軽やかな足取りで降りていくイメージで撮ってるんです。だからポーズも軽い感じで、背景は街中をぼかして。」

「そういう物語があるってことですね。」

「ですね。だから、例えばこの衣装だったら、領主代理として山頂から領地を望むとか、乗馬して領地を見回るとか、そういうわかりやすい物語をつけてみたり、後はイベントを再現してみたりとかしたら良いと思うんですよ。」

「ははぁ、なるほど…。」


言われればそうだ。今まで漫然と写真をたくさん撮ってきたけど、そういうシチュエーションとか全然考えてこなかった。

ただレベッカそっくりの人がレベッカの格好でそこにいることに満足していた。

だけど、イベントやスチルを再現するという手法や、オリジナルで物語を付け加えていくというのはとても良い方法に思える。


「んー、そうですねぇ…」


麗香さんはスタジオの端にあったテーブルを持ち上げるとこちらに持ってくる。

細腕の割に軽々しく持っているが、力が強くないだろうか。


「これで背景ぼかし入れて撮ってみてください。」


麗香さんは、椅子に座り適当な紙を目の前に置くと筆記具を持ち何かを書き込むような素振りを見せる。

私は言われるままに写真を撮ってみる。


「公務をしてる雰囲気を作ってみたんですけど、どうでしょう?」

「ほんとだ、全然違う…」


そうして撮った写真は、先ほどまでとは大きく違う。雰囲気が違うのだ。

私はその違いにびっくりする。


「こういう写真を撮るとなると、やっぱりセットとか要るんですかね?」

「もちろんあったほうが良いでしょうが…いい方法がありますよ!」

「なんでしょう?」


こう言うときの麗香さんは頼りになる。

経験から良い手法に導いてくれるのだ。


「私と一緒にピクニック、行きましょう!」



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