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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第二章 知る
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お弁当

ある日の昼下がり。


「はー、やっと午前の授業が終わったー!もう疲れましたよ。」

「今日は寝ずによく頑張っているな?」

「だって寝たらお姉さまが怖いですし…。あ、はいこれ、お姉さまのお弁当です。」

「いつもありがとう。じゃあ行こうか?」


学園では昼食は基本自由だ。食堂はあり、多くの生徒はそこを利用している。

お弁当を持ってくる学生のほとんどは、食に拘りのある高位貴族かよほどお金に困ってる貧乏下位貴族といったところだ。

原作ではリシアもお姉さまも食堂を利用しており、トンカツを好物と判断した時に述べたように目の前ではち合わせるイベントなども存在している。


私も例に漏れず食堂を利用するつもりでいたのだが、お花見でお姉さまにサンドイッチを食べて貰って喜んでいただけたのを機にちょくちょく作って行くようになった。

そしていつの間にか、毎日の様にお弁当を作って行くスタイルに今ではなっている。


「相変わらず今日も誰も居ませんね、ここは。」

「まぁ、そちらの方が良いだろう?」


お弁当を食べるのも大体いつも一緒。

学園自慢の薔薇の咲き誇る庭園の道を歩いて、わき道に入った所にある、野花の咲く川のほとりだ。

それまで学生たちの喧噪と溢れかえるような薔薇の香りに満ちた明るい場所から一転、木々を吹き抜ける風とさらさらとした川のせせらぎ、そして慎ましやかに咲く野花たちだけがそこにはある。

本来はとある攻略キャラの憩いの場所のはずなのだが…私たちが利用するようになってから来なくなった。何かごめんなさい。


以前よりのゴタゴタ等もあり、奇異の目で見られることも多い私たちは人目を嫌い、ここで静かに二人昼を過ごす。


「おお、今日はハンバーグが入っている!玉子焼きも美味しそうだ。」

「ふふ、喜んでいただけで良かったです。」

「リシアの作る料理はいつも美味しい。素晴らしい。」

「お姉さまは濃い味が好きですからねえ。」

「…そうかもしれないな。」

「普段、何が食べたいですか?って聞いてもいーっつもリシアの作るものなら何でもしか言いませんからね。それが一番大変なんですよ??」

「苦労をかけてすまないな。どうもこういうのは苦手だ…」

「まぁ、お弁当もやりたくてやっているのであまり気にしないでくださいな。」


お姉さまにしゅんとされるとついつい許してしまう。

とはいえ推しに目の前でしゅんとされて許さない人間がいるだろうか?いやいない。


「お家とかで食べてて美味しい!ってなったものとかはありますか?」


あれから色々見てきたが、お姉さまと違って高位貴族は薄味好みが多い。

最初はこの作品の食文化は香辛料をふんだんに使った料理を良しとする貴族のイメージかと予想していたが、どちらかというと上方の薄味出汁文化の貴族の食生活に近いのだ。

となると、お姉さまの濃い味好きはローエンリンデ家独特の食文化の可能性がある。


「……」

「お姉さま?」

「ああいや、すまない。あまり考えたことがなかったのでな。」

「今度からは覚えておいて貰えると助かります。」

「そうだな。努力しよう。」


その後も和やかに話をしながら、食は進む。


「ごちそうさま。美味しかった、ありがとう。」

「お粗末様です。お姉さま、健啖家のイメージだったのですが、意外と少食ですよね。」


私が見上げても足りないような背に、美しいプロポーションながらしっかりとした体つき。

それなりの量を食べると思っていたのだが…実は私のお弁当の量とそう変わらない。


「リシアは私のことをゴリラと思っている節があるからな…」

「もう!虐めるのはやめてくださいな。」


一度言葉の綾でゴリラと呼んでから何かあるとしきりにゴリラを持ち出して私を虐めるのだ。

こう言っては何だが、お姉さまにもそんなお茶目な面があることを知れて良かったな、と思う。


「んん、お腹いっぱいになったら眠くなってきましたね…。」

「まだ時間はある。授業で寝ないように軽く仮眠するといい。」

「授業で寝ないようには…難しいですが…」


初夏の陽気と満腹感が私に睡魔を引き起こす。

眠気で判断力が鈍りつつあるそのとき、私の頭を何かが引き寄せる。

そこは、何だか柔らかくて、良い香りがして、安心感に包まれた私は、そのまま微睡みに誘われ目を閉じる。


「おやすみ。」


静かな川のほとりに、膝枕をする二人組の姿と野花だけがあった。


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