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猫の日

レベッカ視点です。

※リシアは大の猫党です

「あれっ?え、、ええ?あのときの、猫ちゃん…?」


リシアの素っ頓狂な声で目が覚める。

何かあったのだろうか、特に変わりは無さそうだが。


「お姉さまは…どこに…?」

「にゃあ(ここにいるが?)」


私は体を起こし返事をする。

今日は不思議とリシアがとても大きく見えるような…。


「お姉さま?どこですかー?」

「にゃあ(ここにいるぞ、リシア。)」


私は再度返事をする。

目の前にいるじゃないか、私は。


「ん、んん…?もしかして…この猫ちゃん…お姉さま、髪をお結いしますよ。」

「にゃあ(ああ)」


リシアがいつものようにとんとんとベッドを叩く。

髪をいじるからここに座れの合図だ。

私はそこに胡座をかいてすわろうとする。

何故だ、今日は胡座をかこうとしても足が…


「やっぱり!お姉さま、お姉さまなんですね!」

「にゃあ!?(お、おお!?)」


私はリシアの手に抱かれひょいと持ち上げられる。

女だてらとはいえ、それなりの体格の私だ。

リシアにこうも簡単に持ち上げられるような力はないはずだが…


「お姉さま、どうしちゃったんですか?こんなかわいい猫ちゃんになっちゃって…」


そういうとリシアは姿見まで歩く。

そこで見た私の姿は、ツンと澄ました顔をした、一匹の黒猫だった。


◆ ◇ ◆ ◇


はぐはぐ…

私は焼き魚をほぐして小さく分けたものを口いっぱいに頬張る。

朝、リシアが急拵えで焼き、外してくれたものだ。

とても美味しくて食が進む。


「これがお嬢様?御冗談ですよね?」

「私も突拍子もないことを言っているのは重々承知なのですが…それでも私はこの子がお姉さまだと言う確信が不思議とあるのです…。」

「にゃあ(私だぞ、アラン。)」


アランとリシアが頭上で会話しているのに交ざる。

しかし、本当に美味しいな、焼き魚。リシアの料理は相変わらず一級品だ。


「ふふ、お姉さま、美味しいですか?」

「にゃあ!(もちろんだ!)」


リシアの顔を見ながら答えると、リシアは私ににっこりと笑いかけた後、ゆっくり頭を撫でてくれる。

あ、あぁ…気持ちいい…


「この奥方様にメロメロデレデレな感じ、お嬢様みたいですね…」

「でしょう?この子はお姉さまなんですよ。絶対。」


そこで納得されるのは不満ではあるが。

事実リシアの言っていることは合っている。

焼き魚…食べきっちゃった…


「あら、お姉さま、綺麗に平らげましたねえ。」

「にゃあ…(おかわり…)」

「は、ありませんよ。たくさん食べると健康に悪いですからね?」

「にゃあ…(おかわり…)」 

「そんな声で鳴いてもダメなものはダメです!」

「にゃあぁぁぁぁ…(おかわりぃぃぃぃ…)」

「も、もう…。ちょっとだけですからね!」

「にゃあ!(やった!)」


ちょっとと言いながらリシアがどっさりと焼き魚をはずして皿に乗せてくれる。

私はそれをまた口いっぱいに頬張ってゆく。


「この猫がお嬢様として、どうしたもんですかね…。」

「イベント…じゃない、こういう現象ってたぶん時限なので、一日、多くても数日だとは思うんですけど…私の血で治る可能性もあるので、ちょっと飲んでもらいましょうか。」


リシアはためらいなくそこにあったカトラリーのナイフで指先をぷすりと刺すと、滲んで来た指先の血を私に向けて差し出す。

私のために血は流してほしくないと、いつも言っているのに。


「お姉さま、ちょっと飲んでみてもらえますか?」

「にゃあ!(いやだ!)」


リシアの己を省みない献身に少し悲しい気持ちになった私は、首を振って拒絶する。

毅然とした態度がこういう時は必要だ。


「わがまま言わないでください。無理にでも飲ませますからね。」


私を捕まえようとするリシアから逃げる。

この体は軽く、よく動く。

いつもより高いパフォーマンスで逃げ回る。


「もう!逃げないでください!アランさんも笑ってないで捕まえるの手伝ってください!!」


なんだかとても楽しくなってきて、私は逃げに逃げ回った。


◆ ◇ ◆ ◇


「はぁ、はぁ…もう、諦めました…。」

「にゃん(ふふ、まだまだだな。)」


私は食器棚の上からリシアとアランを見下ろす。

とても気分が良い。


「とりあえず、明日までに治ってなければ考えます。今日、特に急ぎの仕事はありませんよね?」

「ええ。しかし…本当に大丈夫なんでしょうか。」

「まぁ、何とかなるとは思いますよ。」

「にゃん(だな)」


リシアに自信があるようなので、私は信じて一日猫の生活を堪能することにした。


◆ ◇ ◆ ◇


庭を散歩する。

低い視界で見る庭は、また別世界で面白い。

こうして見ていると、足下までリシアがこだわって飾り付けや整備をしていることがよくわかる。


「にゃん(虫だ)」


花壇の下に蠢くものを見かけた私は、つい体が反応する。

飛びかかって抑えつけようとするものの、間一髪で避けられてしまう。


「にゃん(次は…逃さん!)」


◆ ◇ ◆ ◇


獲物を手に入れた私は、リシアに褒めてもらおうとリシアの執務室へと進む。

リシアだ。真剣な表情で書類に向かうリシアは素敵だ。


「あら、お姉さま。…もう!花びらと葉っぱまみれじゃないですか!」

「にゃん(見てくれ、捕まえたぞ)」

「もう、虫は返しといてください!それよりこっちに来てください!綺麗にしますから!」


リシアの剣幕に、これは逆らったら怖い奴だな…と思い、素直に従う。


「まったく、足も泥だらけじゃないですか。中身までちょっと猫ちゃんに寄ってますね?」

「にゃん(かもしれない)」


リシアが足を綺麗に拭いてくれた後、毛に絡んだ葉っぱの類を取りながらブラッシングしてくれる。

私はそれがとても心地よく、うとうとしながら身を任せる。


「ふふ、いつもと逆、ですね?」

「にゃん(ああ)」


いつもはリシアが私の膝や足の間に座っているのに、今日は私がリシアの膝の上に乗っている。

リシアの膝は柔らかく、座り心地がよい。


「また泥だらけになったらいけないので、私が書類仕事を終えるまでお膝におられますか?」

「にゃん(そうする)」


リシアの膝から離れがたき魅力を感じた私は、素直に座って大人しくする。


「いい子ですね。」


リシアは私を軽く撫でると、書類に向かい直す。

リシアの顔を見上げようとすると、双丘で顔が見えない。

己との格差を感じてちょっとしょんぼりする。


「にゃん(今は何の書類を書いてるんだ?)」


私は軽く双丘を押しのけると机に向かって顔を出す。


「変態。真っ昼間からそんなところに顔をつっこまないでください。」

「にゃん!(違う、そうじゃない!)」


リシアに軽くおでこをつつかれた私は、変にこれ以上やぶ蛇を出す前に大人しくしていたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇


「仕事、終わりましたよ。」

「にゃん(そうか)」


リシアの膝はとても居心地が良いが、顔が見にくいのが悪いところだ。

じっくり顔が見たくなった私は、書類の無くなった机に飛び移る。


「にゃん(やっとリシアの顔をじっくり見れた。)」

「…あの、お姉さま。ちょっとそこで大人しくしてくださいね。」


そういうとリシアは覚悟を決めた顔で私に向かう。

なんだ、また血か?私は飲まないぞ。

そう身構えるが、リシアは一つ深呼吸すると--

私の胴に思いっきり顔を埋めた。


「にゃあ!?(おい、リシア!?)」

「はぁ、お姉さま良いにおいがしますね…!おひさまの香り…!お姉さま…!」

「にゃあ!にゃあ!(リシア、私を吸うな!リシア!)」


両腕でがっちりホールドされ逃げられない私は、かなり長くの間リシアに顔を埋められ、吸い込まれて無くなりそうなくらいに吸われたのだった。

リシア、こわい。


◆ ◇ ◆ ◇


リシアに思う存分吸われた私は精神的に疲れ、リシアの膝に戻るとお昼寝をした。

なんだかんだ、側に居るとよく安眠できる。

気づけば夕方になっていた。


「にゃあ(よく寝た…)」

「あら、目が覚めましたか。お姉さま。」


リシアはずっと付き合ってくれていた。

手持ち無沙汰だったのだろう、編み物をしていたようだ。


「お姉さまの手袋が解れていたので、新しいのをと思っていたのですが…このまま戻らないなら服を作りましょうか。」

「にゃあ(縁起でもない)」


私は膝上で立ち上がると軽く伸びをする。

よく伸びる。気持ちいい。


「では、お姉さまのお夕食を用意するので、少し退いてくださいね。」


リシアは私を捕まえると、軽く持ち上げる。


「わっ、お姉さまほんとよく伸びますね!」 「にゃあ(不思議だな)」


持ち上げられ、伸びきった体を見てリシアが驚く。

私もちょっとびっくりしている。


「じゃあ、夕食を用意したら呼びますね。」


そういって、リシアが私にキスをする。

同時に足が地に着く。

いくら伸びるからといってこれは伸びすぎ--


「わっ!お姉さま、元に戻ったんですね!」

「えっ?…本当だ。」


思わず己の手を見ると、人の手が見える。

どうやらリシアのキスで戻ったようだ。

童話みたいだな。


「よかった。これで気兼ねなく夕食が食べれるな。」

「お待ちください、お姉さま。」

「なんだ?」

「まだ、耳と尻尾が残ってます。あまり出歩かれない方がよろしいかと。」

「何だと?…本当だ。」


頭の上と背を触ると、どちらにも猫の耳と尻尾のような物の感触がする。

どうしてそんなところだけ。


「人目につくと良くないですから、ひとまず、私たちのお部屋へ。後ほど夕食もお部屋で摂りましょう」

「あ、あぁ…」


リシアの言うことは間違ってはいないのだが、違和感のあるくらいリシアがぐいぐい部屋へ引っ張ってくる。

逆らう理由もないので、リシアの導くがままついていく。


「今日は公務をしそびれたから、部屋で夕食までゆっくり公務をしているよ。…リシア?」


部屋に入ると、リシアが熱を帯びた目で黙ってこちらを見つめてくる。


「…お姉さま。」

「なんだ?」

「お耳も尻尾も可愛いです。とても似合ってますね。本当に素敵です!」

「あ、ああ。ありがとう…?」 

「ああ、お姉さま可愛い。猫ちゃんお姉さま…!」 

「リシア、リシアさん?」

「とても可愛い、”ネコちゃん”ですね…!」

「お、おいリシア!?待て、待てと言うに、リシア!!あ、あぁ…」


◆ ◇ ◆ ◇


疲れ果てたのだろう、リシアは腕の中でぐっすり寝付いている。

私もとても疲れたのだ。私より体力の少ないリシアだが時折、すごい。


「良かった…。」


私は、耳と尻尾がいつの間にか引っ込んでいることを確認して、安堵したのだった。






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