とある元日
「見てくれこれを。すごいだろう…?」
「わぁ、大きいですね…!」
え、いかがわしく聞こえる?何をしてるのか?
年末年始、某笑ってはいけない番組が無く手持ち無沙汰な私たちは暇にあかせて始めたのだ。
トランプタワーを。
今のは半分以上出来上がったトランプタワーを見た感想である。
「お姉さま、バランス感覚が気持ち悪いですよね?」
「貶されてるように聞こえるんだが…。」
「褒めてるんですよ。」
六段積みのトランプタワーを建て始めた私たち。
お姉さまは異様にバランス感覚が良く、次々に積んでいく。
曰く、戦いの時に少々無茶な体勢のまま動く時のバランスの取り方の応用とのことだが…戦い?
「これ、年明けに間に合うのでは?」
「ああ、間に合わせてみせるとも。」
新年まで後三十分といったところで始めたのだが、この超人的ペースなら間に合いそうだ。
お姉さまは真剣な目つきでトランプを持ち、おいてゆく。
何事であってもこうして真剣に取り組んでいる時のお姉さまは美しい。
じっと見つめているだけで、謎の充足感が得られる。
「リシア、次のトランプを取って貰ってもいいか…?」
「あっ、はい!どうぞ。」
お姉さまが差し出した手にトランプを二枚乗せると、目もくれずにトランプタワーに向き合う。
その隙だらけのわき腹をひと突きしてやりたい気持ちを抑えながら私はトランプを持って控えていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「完成だ…!」
「間に合いましたね!」
残り一分。
綺麗な六段積みのトランプタワーが完成する。
「では、年越しと同時にリシアに崩してもらおうか。」
「え、私ですか?」
「当然。リシアにどーんっと崩して貰うために作ったのだから。」
「どういうあれですか?」
状況が理解出来ず語彙力が減退する。
どういうこと?
「ほら、後15秒!構えて!」
「あっ、はい!」
お姉さまの勢いに押され私は謎の構えをとる。
「3、2、1…!」
「えっえっ…!?あけましておめでとうございまーす!」
挨拶と共に私はトランプタワーに思いっきり手刀を振り落とす。
綺麗に積み上がっていたトランプタワーは、勢いよく崩れ落ちる。
私は訳も分からずお姉さまの方を向く。
「ぷっ…あっはははは!」
「ふふふふ」
お姉さまが堪えきれず腹を抱えて笑い始めると同時に私も笑いが出る。
「あけましておめでとう。リシア。」
「あけましておめでとうございます。」
「いや、面白かったな?」
「私は訳がわからなかったですよ…。」
「よくわかってないまま慌ててあけましておめでとうございますって言って手刀を振り落とすリシア、最高に可愛かったぞ?動画に残しておけば良かったな?」
「やめてください!!」
そんなもの残されたら一生後悔しそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇
散らばったトランプを拾い片付けた私たち。
少し落ち着いて、ゆっくり座り会話する。
「さて、どうする?」
「初詣ですか。うーん、せっかくですし今から行っちゃいます?」
「そうだな。こういうのはなるべく早くした方が良さそうだ。」
そうと決まれば早い。
私たちはお揃いの半纏を脱ぎ、外出着に着替える。
「お姉さまは寒がりなんですからこれをどうぞ。」
「ああ、背中、貼ってくれるか?」
「はいはい、わかりましたよ。」
貼るカイロを二つ取り出した私は一つを肌着の背中に貼ってやる。
この人は本当に寒がりなのだ。王都の花見の時もーー王都?
「むむむ。どちらの方が似合うと思う?」
「こっちの方が良いんじゃないですかねえ。」
「なるほど。ではこちらにしよう。」
お姉さまの服を選びながら私も着替えてゆく。
しかしお姉さまは本当にスタイルが良い。キレイめのグレーコートにロングスカート、足が長いので黒のストッキングがとても美しい。
「リシア、とっても可愛らしいな。外に出すのが不安だ…。」
「ふふ、ありがとうございます。」
何の変哲もないタートルニットにコートを重ねただけなのだが、お姉さまは心底褒めてくれる。
普通ならお姉さまみたいな美人さんに言われると嫌みに聞こえるのだが、それがない。
私は靴を選ぶ。
ただでさえ身長差のある私たちだ。ここは高いヒールをーー
「神社は足元がよくないことが多いからな。歩きやすいショートブーツにしようか。」
「…そうですね。」
私はにこりと笑いながらブーツを取って差し出してくれるお姉さまから受け取り、大人しくそれを履く。
「うん、素敵だ。可愛いぞ?」
「ごめんなさい、気を使わせてしまって。」
「私が小さいリシアが好きなだけだよ。」
「小さいって言い方は気に入りませんけどね?」
「ふふ、すまないな。」
そんなやり取りをしながら私たちは家を出る。
お姉さまはナチュラルに私の腰に手を回しエスコートしてくれる。
私はその指先をあらかじめカイロを入れていたポケットに誘うと、お姉さまは少し驚いた顔をした後、にっこりと笑う。
寒い冬の夜も、どこか暖かだった。




