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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
とある年末年始編
146/321

とある大晦日

あけましておめでとうございます。

少し遅くなりましたが新年の記念+10万pv記念にいくつかssを書いたので更新しようと思います。

この場合、しばらく完結設定にしない方が良いんですかね?


今回はちょっと世界を変えて、現実世界の二人の大晦日となります。

元日編も後日更新。

年の瀬。

仕事納めを終えた私は帰途につく。

昼までとはいえ大晦日まで仕事があるとかブラックすぎないか、うちは。

そう一人ごちながら歩いているうちに、私は一抹の違和感を抱く。

あれ、家はこっちだっけ…?

何故だか記憶が曖昧だ。


◆ ◇ ◆ ◇


不思議と足が向く方へ任せ歩いていると、とあるマンションの一室にたどり着く。

間違いなく私の家ではない。だが、どこか来慣れたような…。

戸惑いながらも部屋のドアを見ていると、不意にドアが開く。


「やはりリシアか。足音がそうだと思ったよ。」


リシア。私はそんな名だった…気がする。


「お姉さま。」


何度も呼び慣れた、その言葉。


「ふふ、お仕事お疲れ様。ほら、突っ立ってないで中においで。」

「ええ、お邪魔します。」


何となく違和感は残るが、私はずっとこんなやり取りをしてきた気がする。

目の前の人を見ているだけで心の底から沸き立つ様な幸福感に少し驚きながらも、部屋へと入った。


◆ ◇ ◆ ◇


体は良く覚えているようだ。なにも考えずともやることがわかる。

部屋に入り、私物を置くスペースに荷物を置き、服を着替える。

今年も冬は寒い。冬の入りにお姉さまとお揃いで買った半纏とモフモフスリッパを身に着け、居間へと向かう。

居間のコタツ、テレビがまっすぐ見える場所には同じ半纏を着たお姉さまが居る。


「ん。」


お姉さまは一目私を見やると、少し体とコタツの間にスペースを開け、足の間にざぶとんを置きぽんぽんとそこを叩く。

そうだ。ここは私の特等席。

遠慮無く座ると、お姉さまは後ろから私をギュッと抱き、そのままテレビを見始める。


「ふぅ。落ち着きますね。」

「そうだな。おこたは良いものだ…。」


そういうわけじゃないんだけど。コタツは良いものだけどね。

そんなことを思いながらコタツの上を見ると、空のタッパーがおいてある。


「…お姉さま。」

「なんだ?」

「お節に入れる為に作りおいてあった黒豆のタッパーがここにあるんですが…?」

「…そうだな。」

「そうだなではなく。一応お聞きしますけど、黒豆はどこにやられましたか?」

「…どこだろうか…?」

「お姉さま??」


お姉さまの顔へ目を向けると、それを嫌うように目を背ける。

私はその頬を軽くつねってやる。


「食べても良いですけど、全部は食べないでねって私、言いましたよね…?」

「リシア、痛い痛い。」

「痛くしてるんです。」

「すまない。私が悪かったから。」


謝罪の言葉を聞いたので手を離してやる。

全く、この人は。


「はぁ。今回はお節は黒豆抜きですね。」

「本当にすまない。」

「…美味しかったですか?」

「ああ。とても。」

「良かった。だからとは言え全部は食べ過ぎですからね??」

「冷蔵庫から取っておこたで食べてたら、戻しに行くのが面倒でな…。そのまま置いてちょくちょく食べてたらいつの間にか無くなっていた。」

「もう。仕方ない人ですね。」


私はため息をつきながらも、こんなところも可愛らしいと思う。

なんだかんだ、この人のために作っているのだから。


「ということは、お昼ご飯は要りませんか?今から作ろうと思っていたのですけど。」

「私も食べたい。」

「ふふ、そうですか。では二人分作りましょう。」


私はお姉さまからの拘束を解くと、キッチンに向かい冷蔵庫から適当に食材を取り出す。


「昨晩のお米が余っているので、チャーハンで良いですかー?」

「チャーハン!良いな。」

「お姉さまはチャーハン好きですねぇ。」

「リシアの作ってくれる物は全部好きだよ。」

「黒豆の分の機嫌を取ろうとしても無駄ですよ。」


調理を進め、炒め始めた頃にお姉さまもコタツからのそのそと出てきてこちらに来る。


「お姉さま、お味見をどうぞ。」


フライパンから少しチャーハンを取り差し出す。


「美味しいな。さすがリシアだ。」

「よかった。ではお皿を出してもらえますか?」

「ああ。」


お姉さまは皿を並べる。

同じ柄の、大きな皿がお姉さまの。小さな皿が私のだ。

慣れた手つきで私はそれによそっていく。


「では持って行くぞ。」

「お願いします。」


私は軽く後片付けを済ますとコタツへ戻る。

コタツには二つ並んだ皿に、先ほどより少し横にズレたお姉さま。そして、その横に置いてあるざぶとん。

二人で入るには少し狭い気がするコタツの一角に身を寄せ合うように並び座る。


「「いただきます。」」


私たちはチャーハンを食べ始めた。


◆ ◇ ◆ ◇


「ごちそうさま。」

「お粗末様でした。」


私はお姉さまが美味しそうにペロリと平らげた皿を持ってキッチンへと立とうとする。


「ああいい。洗い物は私がやるよ。」

「よろしいんですか?」

「むしろリシアは何でもやりすぎだ。少しは私に任せてくれないと申し訳ない。」

「ではお任せします。」


私はコタツに戻るとキッチンへ向かうお姉さまを横目にテレビを見始める。

…内容が頭に入ってこない。なんだか先ほどまでと同じコタツに居るはずなのに居心地が悪い。

結局、コタツをたつと水音のするキッチンに向かう。


「どうした?リシア。」

「食器を拭くのを手伝おうかと。」

「後は全部任せてゆっくりしていいんだぞ?さっきまで仕事もしてたし、疲れているだろう?」

「いえ。さほど。」


私は洗い終わった食器を取ると拭いていく。


「さては寂しくなったな?」

「そういうわけではないです。」

「隠さなくても良い。ふふ、リシアは寂しがり屋だな。」

「違いますって。」

「おっと。危ない危ない。」


話を聞かないお姉さまにパンチを食らわそうとすると洗い物をしながら軽くよけられる。

さすがの身体能力だけあって、当たる気がしない。


「…常々思っていたのだが、キッチン、リシアには高くないか。」

「ああ、そうですね。ちょっと高いんで不便なんですよね。」


私は一般的に見ると小柄な方だ。お姉さまがデカいのもあるが、後ろから抱かれるとすっぽりと包まれてしまうくらいには。

それゆえに普通のシステムキッチンだと少しだけ背が足りない。


「…来年は、高さの合うキッチンのある部屋に越すのもありかもしれないな。」

「えー?わざわざそんな必要ないですよ。今でも何とかなってますし。何より私の高さって中々無いですし。」

「…そうだろうか。」

「ええ。あっ、でも良かったら食洗機は欲しいですね。ここらへんにこう、つけて。」

「食洗機か。覚えておこう。」


こうして私の生活の未来を描いているが、よくよく思えばここはお姉さまの家だと思い当たる。


「あっ、ごめんなさい。私が言える立場じゃなかったですよね。」

「いいんだ。むしろもっと言ってくれると嬉しい。食洗機も買おうな。」


ニコニコと機嫌良くお姉さまは対応してくれる。

…実は、この部屋に、私の私物や欲しい物が増えていく度にちょっとした幸せを感じるのだ。

お姉さまもそう、思ってくれているといいのだけど。


◆ ◇ ◆ ◇


洗い物を終え、お姉さまの足の間というコタツの私の特等席に戻る。


「今年も後10時間程度らしいですよ…。」

「時が経つのは早いものだな。」

「今年は特に早かった気がします。」

「私もだ。」


のんびりと世間話をしながらテレビに目をやる。

どうやら、今年流行ったものを特集しているようだ。


「あっ、この遊園地の新アトラクション…。」

「行ったな。」

「行きましたね。その前にお姉さまがチュロスを買ったもののすぐに落としちゃって。その時の落ち込みようと言ったら。」

「そ、それを思い出すか?」

「当然ですよ。何なら一番覚えています。」

「私はキャラクターの耳のカチューシャを着けたリシアの方が覚えているな。あれは可愛かった。」

「アレはもう忘れてください!」


「このスイーツの店も行ったよな。」

「正直、微妙でしたよねえ。」

「あそこで食べるなら私はリシアの作ってくれるフルーツゼリーのが食べたい。」

「あれ、フルーツの缶詰をいくつか混ぜてゼラチンで固めてるだけの簡単な奴ですよ?」

「それがいいんだ。」

「なら、来年はいっぱい作りましょうねえ。」

「ああ。」


「グランピング。知らなかったですねえ。」

「私も知らなかった。」

「食材の用意も準備もしてくれるとか気軽で良いですね。」

「来年はこれ行ってみないか?」

「良いですね。行きましょう行きましょう!」


一年を振り返る番組を見ていると、今年という年はお姉さまと共にあった年だなと実感する。

こんなにも早く過ぎ去ってしまったのが、もったいないくらいに。


「あったなあ、こんな事件。」

「私、これ全然覚えてないんですけど。」

「…そう言えば、リシアはこの頃繁忙期だーって忙しそうにしてたな。」

「あー。」

「ここにも全然来なくて。たまに顔を出せばゾンビみたいな顔色なものだから、心配していた。」

「本当に忙しかったんですよ。あの頃。」


とにかく忙しかったことは覚えている。

どうしてそこまで忙しいのかは思い出せないが、うちの会社はブラックなので繁忙期の時はまともに一週間家にも帰れない世界だ。

そんな中やっとの帰宅を取りやめてここに来ていた。


「…寂しかった。…私は自分が思っている以上に寂しがりなのだと実感した。」

「寂しかったんですか?」


私はお姉さまのお腹をつんつんとつついて茶化すように話す。


「うん。」

「じゃあ、今は幸せですか?」


にっこりと笑いかけると、お姉さまも笑い返す。


「ああ。とても幸せだ。」


そう告げるお姉さまは体中から幸せオーラが出ている。きっと、私も。

そんなお姉さまが可愛らしくて、私はさらに畳みかける。


「それじゃ、寂しかった間に浮気してないか確認しなきゃいけませんねえ。」

「そんな、私は浮気など…。」


腰を浮かせ、弁解しようとするお姉さまの口を塞ぐ。

口を離し、二人横になって向かい合う。


「体にお聞きするので弁解は要りませんよ。」


今の私たちに、コタツは少し暑かった。






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