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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
その後のお話
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一人で出来るもん

「私、考えたんですよ。」

「なんだ急に。」


お姉さまの風邪騒動から数日。

これからも王都には定期的に行かねばならない。

そうなったときに必ず今回のように予定が噛み合わず離れることになるだろう。

別に私はそれでも構わないのだが--

お姉さまのためになるべく離れないようにするにはどうしたらいいのか、考えていた。


「私がしっかりと乗馬を身につければ、予定が被ったときにもスケジュールを短縮出来るのではと。」

「確かに、馬の扱いに長けたものなら二日で王都まで行けるが…。」

「ぎりぎりまでこっちで公務をしてもらって、二人で二日で王都に行くとか、私が急いで行って急いで帰ってくるとか。出来たらなあと。」

「なるほど?」

「お姉さまは私が居ないとダメだって今回のことでよーくわかりましたから。こうすればあまり離れなくて済むでしょう?」

「まぁ、そうかもしれないが…」


良い案だと思っていたのにお姉さまの反応が鈍い。

何か不満があるのだろうか。


「言いたいことがあれば言ってもらってもいいですか?」

「いや…その…」

「お 姉 さ ま ?」


とにかく言葉に圧をかけて横のお姉さまににっこり笑いかける。

こういうときにはこれが一番なのだ。


「あまり気を悪くしないで欲しいのだが…リシアはほら、新しいことを覚えるのがへたく…ごほん、苦手だろう?」

「お姉さま今へたくそって言おうとしませんでした??ねえ??」


というか、へたまで言ってしまえば一緒じゃない??


「とにかく。運動神経があるのに不思議と新しいことを覚えるのが苦手なリシアには難しいのではとおもってな。」

「新しいことを覚えるのが苦手って言うのは何を根拠に言ってるのか教えて貰ってもいいですか?」

 

お姉さまがこいつ、自分で解ってないのか…?って感じの驚いた顔でこちらを見る。

顔に一発パンチをお見舞いしてやろうか。

横になっている今なら当てられるかもしれない。


「ほら、ダンスとか、そうだったろう…。」

「…確かに。」


何の反論の余地もなかった。

それでも納得のいかない私は言葉を絞り出す。


「で、でも運動はそれなりに自信があるんですよ…?」


リシアは原作でもカイトルートだとよく球技で張り合っているシーンがある。

主人公だけあってそれなりに運動はできるはずなのだ。


「それは私との遊びで解っているが…。体の動かし方を解っていそうだからこそ、あれだけ踊れないのが問題なのだ…。」

「それはそう、かもしれませんが…。」


確かにそう言われるとそんな気はしなくもない。

だが、私はそれでもやらねばならないのだ。


「とにかく!やってみなければわかりませんから!近々馬術の練習を致しましょう!」

「まぁ、構わないが…。」


いまいち乗り気ではないお姉さまと馬術の練習をすることに決まったのだ。


◆ ◇ ◆ ◇


お姉さまの愛馬、ジョゼを連れて平原のど真ん中。

私は乗馬の練習をはじめた。


「まずは馬に乗るところからだ。やってみせようか?」

「馬に乗るのは何回もしたことあります!」


そんなところから教えて貰わなくとも。

何度かカイト様やお姉さまと馬に乗ったことがあるのでわかる。

ここは良いところを見せないと。そうおもって勢い良くジョゼにまたがる。


「えい!…わ、わ、わ!お姉さま!」


勢いをつけすぎた結果、静止できずそのまま逆側に落ちそうになり必死にジョゼの胴に足を絡めると、そのまま視点がくるんと回転する。

どうやら私はジョゼに宙吊りになっているようだ。


「た、助けて…!」

「くっ…ふ、ふふっ…!」

「お、お姉さまぁ!?」

「す、すまない。今助けてやるからな…。ふふっ…。」


この人、私が大変なのに笑ってやがる。

やっとのことでお姉さまに助けられた私は、地に足を着ける。


「お姉さま、笑うなんてひどいです!」

「ふふっ…。仕方ない面もあるだろ。」

「まだ笑いますか、このこの!」


お姉さまにパンチを繰り出すが、すべてうまく防がれてしまう。

こんにゃろ。


「ほら、ちゃんと見ておけよ?こうして、こうだ。」


お姉さまが颯爽とジョゼに跨がってみせる。

その姿はすごく様になっている。


「どうだ?出来そうか?」

「さっきのはたまたまです!たまたま!」


ジョゼから降りてお姉さまは私に跨がるように示す。

次こそ気をつけて…。


「えいっ!…あ、あれー?」

「ぷっ…!あーっはっはっは!」


私は勢いをセーブしてしっかり跨がったつもりが、そのまま滑ってやはり宙吊りになる。

お姉さまは笑い転げて助けてくれない。

しばらくの間私はそのままにされていた。


◆ ◇ ◆ ◇


「うぅ、散々です…。お姉さまは笑うばかりで助けてくれないし…。」

「だからすまなかったと…くくっ…。」


それからしばらくして。

ずっと乗馬の練習をしていたが、一つの過程に進む度に何度も何度も同じつまづき方をした私は、平原のど真ん中で三角座りをしてしょぼくれていた。


「私、才能ないんですかね…。」

「ないな。」

「そんなきっぱり言わなくてもいいじゃないですか!!」


横で座っているお姉さまの肩を叩く。

それでもお姉さまは愉快そうにケラケラと笑っている。


「だって、やっとのことでジョゼに跨がった後も…。ふっ、ふふふ。」

「お 姉 さ ま ?」

「悪い悪い。でも、無理に馬術を身に着けなくても良いんじゃないか?」


お姉さまがそれを言うか。

せっかくお姉さまが寂しくないよう移動時間を短縮しようと頑張っているのに。


「お姉さまのためじゃないですか!」

「そうかもしれないが、だが…。」

「じゃぁ、何ですか!?お姉さまは寂しくなかったんですか!?」


上手く行かなかった苛立ちもあってお姉さまを責めてしまう。

口に出してからはっと冷静になる。


「『お姉さまは寂しくなかったんですか!?』か。口振り的にリシアも寂しかったんだな?」


お姉さまはそれに堪えるどころか、むしろニヤリと笑って私を見る。

そういう取り方もできるかもしれないが…


「そ、それはどうでしょうね?」

「ほら言ってみろ?寂しかったって。」


お姉さまは私の肩を抱き、もう片手で私の顔に手をあてる。

逃がしてくれないようだ。


「さ、寂しかったですよっ!だから練習してるんです!」

「よく言えたな。私もだよ。寂しかったよ、リシア。」


お姉さまはそう言うと私に口付けする。


「でもな、リシアが馬術を身に着ける必要は本当にないと思うんだよ。」

「どうしてですか?移動時間が短かったら、スケジュール調整も容易いじゃないですか。」


詰まるところそこなのだ。

結局、なるべく離れないようにするためには短時間で移動出来る手段を持つのが手っ取り早い。

車などが無いこの世界では馬に乗るくらいしか手はない。


「だって、私の後ろに乗れば良いじゃないか。リシアは別に他人に乗せて貰うのは問題ないのだから。」

「…確かに。」


私はずっと私が何とかしないといけない、という思考に凝り固まっていた。

だけど、別にお姉さまに素直に頼れば何の問題もない。

行きだけ別行動とか、帰りだけ別行動とかになっても、お姉さまなら数日待てば迎えに来てくれるだろう。


「リシア一人で何とかする必要はないんだぞ?」

「それは…そうでした。ごめんなさい。」


お姉さまの言うとおりだ。私は反省する。

お姉さまに何かしてあげたい、私が居ないとお姉さまはどうしようもない。

そんな思考にいつしかなっていた。


「それにな。ほら、私はリシアのものなのだろう。ちゃんと使ってくれないと、悲しいなぁ。」

「言いますね?」

「言うさ。おいてかれて寂しかったんだからな。」


私はそのまま平原に大の字になって寝転がる。


「あーあ。やることなくなっちゃいましたね。昼寝でもします?」

「良いな。付き合おう。」


お姉さまは横になると私をぎゅっと抱く。

二人のんびりと昼寝を堪能したのだった。








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