ダンスパーティー その2
ダンスパーティー当日。
私のダンスはまだまだ残念だが、それでもお姉さまがしっかりリードしてくれることでなんとか形にはなった。
何度も何度も足を踏みつけたが、一度もお姉さまは痛がることはなかった。
だが、今日はダンスシューズのためヒールがある。
いつもより痛みは倍増だ、気をつけねば。
会場前でお姉さまを待つ。
あまり人を待たせるタイプではないし、むしろ私が遅れがちなのだが、今日は珍しくお姉さまが遅れた。
遅いな、大丈夫かしら。そんなことを思いながら馬車から下りて歩いてくるイケメンを見つめる。
見慣れない人だ。ただ、とてもスマートでかっこいい。
タキシードにあったすらりと長い手足に綺麗な出で立ち。
肌も白く美しく、女性顔負けの美貌だ。
下級生かな、誰のパートナーだろう。
はっ、だめだめ、私にはお姉さまがいるんだから。
つい見蕩れてしまった自分を戒める。
ところが、そのイケメンがこちらを見ると笑顔になり、向かってくる。
「リシア!」
え、私?
予想外のことにフリーズする。
イケメンはそのまま真っ直ぐにやってくると、私の手を取る。
「わからないか?私だよ、私。」
えっ。
黒くて美しい長い髪を一つにまとめる髪飾りを見ると、私がプレゼントした髪飾りだ。
この人って。
「お姉さま!?」
「気づいてくれないなんて悲しいな。」
確かに、顔がかっこよすぎて眩しく、しっかり見ていられないが、よく見るとお姉さまだ。
心臓が跳ね上がる。
「これから貴族の集まりとかでどうしても男女ペアの方が良いシーンがあるからな。思い切って男性用の正装も用意してみたんだ。どうかな?」
「えっ、あ、あの。お美しいです…!」
「ふふ、ありがとう。」
顔が近い。普段から顔だけは凶器に近いのに、こんなかっこいい装いをされると直視できない。
「今日はダンスのお誘いを受けてくれてありがとう。行こうか、お姫様?」
私の手を取って甲にキスすると、笑顔でエスコートしてくれる。
情報量がオーバーフロウして、何が何だかもうわからなかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「準備は良いか?」
「は、はい!」
パーティーも少しずつ盛り上がりを見せ、私たちも踊り始めることになった。
もう様々な緊張で頭が真っ白のままステップを踏み始める。
「いいな、良くできているぞ?」
お姉さまが踊りながらそう褒めてくれる。
また心臓が跳ね上がる。胸が苦しい。
「おっと。」
お姉さまが突如私の背においた手の力を強め、方向転換する。
どうやら、ほかのペアとぶつかりかけていたようだ。
お姉さまはそうという素振りすら出さず、華麗に守ってくれている。
どうしよう、今日のお姉さまいつも以上に全てがかっこいい。
次々に提供されるかっこいいお姉さまに脳がパンクしかけた私は、足下が疎かになりヒールの先でお姉さまの足を思いっきり踏んでしまう。
「わわ、ご、ごめんなさい!」
「気にしないで。リシアは本当に軽いから。次、右足のステップのとき右に足を回してターン。」
いつものようにお姉さまは何もなかったように振る舞うと、そのままパニックにならないよう私に指示を出してくれる。
◆ ◇ ◆ ◇
「リシアとこうして踊れて本当に楽しかった。ありがとう。」
「いえ、こちらこそ…?」
気がつくと夕方、パーティー会場の前。
私はお姉さまに手を引かれ立っていた。
「大丈夫か?あまり体調が良くなさそうに見えるが。」
「そ、そんなことは!」
あえて言うなら顔が近い。健康に悪い。
どうしてこんなに顔がいいのか。
「この後の約束、どうしようか。体調が悪ければ送って帰るが…」
「約束…?」
「私と家でのんびり夕食を食べて年越しを過ごす約束しただろ?」
「そうでした…!」
確かにそうだ。今日大晦日だし。
もう何もかもがすっ飛んで居て日付の意識しかなかった。
「行きます!もちろん行きます!」
「ふふ、楽しみだ。だが体調が悪ければ言うのだぞ?」
イケメンが笑顔で笑う。もはやかっこよすぎて吐きそうだ。
「では、一緒に帰ろうか。お姫様、お手をどうぞ?」
馬車に乗り込もうとする私に手を差し出すお姉さまの姿より先の記憶はあまりない。




