元日 その6
レベッカ視点です。
エドワードの従者たちによって拘束を解かれ、私は愛剣を握る。
数日握って居なかっただけにも関わらず、もう長く触っていなかったように感じる。
こいつを振るうのも今日が最後だろうか。そう思うと妙にいとおしくも感じる。
「さぁ、行け。」
従者たちが私を競技場のフィールドに向かうように指示する。
もう少し余韻に浸らせてくれても良いじゃないか。
そう思いながらも私はフィールドに歩み始める。
フィールドにはもう先人が居るようだ。
あまり見えずともわかる。リシアだ。
リシア、今君はどんな顔をしているのだろうな。
そんなことを思いながら、リシアに向けて声をかける。
「さて、始めようか。用意は良いな?」
「お待ちくださいお姉さま!必ず私が今治しますから、だから…!」
「くどい。それに私が勝てば治療薬を貰える。そういう約束がされている。そうだろう?」
私はリシアを突き放すようにそう告げる。
リシアに嫌われるために先ほどから自分の命を優先する冷たい女を演じているが、上手く行っているかがわからない。
リシアに冷たくするなど、考えもしたことがないからな。
私は更にリシアに剣を向ける。
「いつかこんな日が来ると思っていた…さぁ来い、リシア!」
どうしてだろうか。
リシアに剣を向けた瞬間、私は以前からこうなるような予感を持っていたことに気づく。
私がリシアに剣を向けるような事態など、あるはずもないのに。
そのあるはずもない事態の渦中に居ることに気づいた自分は心の中で苦笑する。
「どうした!来ないのなら私から行くぞ!」
戦う気を見せないリシアに剣を突き出す。
けしてリシアに当たらぬように、でも、私を倒さなければ自分がやられると、そう思わせるように。
「お姉さま!私は戦いたくありません!お姉さま!」
リシアのその悲痛な叫びを聞こえないように振る舞う。
聞いているだけで心が痛み、今にも剣を投げ出して抱きしめてやりたくなる。
でも、もう私は長くないから。だから忘れて、私と決別を。
だが、リシアは私に剣を向けることはなく、ただ身を守るだけだ。
私のプレゼントしたリシアの剣が、リシアの体を守ってくれている。
私が居なくなっても、守り続けて欲しい。
「解っておられるのでしょう!そんなことをすればお姉さまは!」
「…さぁ、何のことだろうな?」
リシアが私の体を気遣う。私は笑みで返す。
上手く笑えただろうか。
リシアと会ってから、私は笑うことが増えたような気がする。
下手くそだとよく親に言われた笑顔も上手くなった気がしていた。
でも、今の私は笑えているだろうか。
「リシア、私は、お前を…ぐっ!」
「お姉さま!」
倒す。そう言おうとした瞬間に、口から大量の血が溢れる。
痛み止めでごまかした体も、動いたことで限界を迎えたようだ。
立っているのも辛く、その場に膝をつく。
「お姉さま!今医者を呼びます!誰か!」
「…いい、いい、…だ。わた…の、からだ…こと、はわたし…、いちば、ん、わか…て、いる。」
いい、いいんだ。私の体のことは、私が一番解っている。
そう伝えようにも、上手く声が出ない。
でも、遅かれ早かれ、こうなることは解っていたから。もういいんだ。
体を起こしているのも辛くなり、その場に倒れ込む。
「馬鹿!いつもの強いお姉さまはどこへ行ったの!?」
「も…、疲れ…んだ。すま…い、リシア…」
辛い痛みと戦い続けながら、こうしてリシアと再び会えた。
それで私には充分だ。
すまない、私はもう疲れてしまったみたいだ。
リシアが私を抱いて必死に私を癒そうとしているのがわかる。
本当は、ここで突き放さなきゃいけないのかもしれない。
お前の腕の中で死にたくない、嫌いだったと、そう言うべきなのかもしれない。
でも、リシアの暖かさに私はただ目をつぶった。
私は、ズルいな。