疑惑
ケーキセットを食べた後、急いで学園に戻る。
始まるのはそう、紛失イベントだ。
課題が終わり、攻略キャラとの甘々な打ち上げイベントを経た後、翌日には急転直下課題が紛失してしまう。
もちろん、リシアの不注意でなくしたのではなく、敵役キャラの嫌がらせだ。
私は今回誰にも頼らず課題を終わらせたから、誰のイベントにも入っていないと高をくくって居たが…
「私の記憶が正しければ、学園を出て店に向かう前確かにリシアのロッカーに課題をしまっていたはずだ。」
「ええ、ですがないのです…。」
「つまり誰かに盗られた可能性が高い、ということか…。誰がそんなことを…。リシアの課題を盗んだものは誰だ。今すぐ出てくるがいい。」
お姉さまがいつもより数段険しい顔で周囲を見渡す。
それまで浮ついていた空気が一気に引き締まるようだ。
だが、誰も名乗り出ようとはしない。
「今ならまだ大事にしないよ。でも、このまましらばっくれるのであれば僕もそれなりの所にお話するしかなくなるなぁ。逃げられるとは思わない方がいい。」
「私が…やりました。」
出てきたのは、ああやはり。
「シンシア!?どうしてお前が…。」
ローエンリンデ公爵家派閥ハリス伯爵家、シンシア・ハリス伯爵令嬢その人だ。
(というかシンシアって名前呼びということは、やはりお姉さまとハリス伯爵令嬢は仲が良かったのね)
「シンシア、まずは課題をリシアに返してやってくれ。あれは彼女の努力の成果の籠もった大切なものだ。」
「…もう学園の近くの川へ流しました。」
「なっ…」
「君は確か、ハリス伯爵令嬢だったね?」
「ええそうです、エドワード皇子殿下。」
「ああ皇子殿下は必要ない。ところで、ハリス伯爵家はローエンリンデ公爵家の傘下にあったはずだけど?」
「…そうですね。」
「つまり、君はレベッカの指示でやったということかい?」
そんなことはない…はず…
「違う!私はそんなことは!!」
「レベッカ、君は黙っていて。そうだろう、ハリス伯爵令嬢。」
「いえ、私の独断です。」
「そりゃまぁ、そういうだろうね。主を売る訳にはいかないから。」
「いえ…」
「でも考えて欲しい。僕たちは今、レベッカの主導で学園を離れて出かけていた。つまり、君がリシアの課題を盗み出す隙は、君の主が作った。違うかい?」
「…」
確かに、結果的に店の予約を取ったのはエドワードだ。でも、相談したのはお姉さまで。
「そもそもどうしてレベッカはリシアの課題が終わるタイミングを予想していた?それはそのタイミングで課題がなくなるのが一番ダメージが大きいからじゃないのか?」
「…違う…ただ私は…リシアのために…」
「元々、僕とレベッカは実は不仲だと言われてたじゃないか。その不仲をリシアがさらに加速させている。そう言われてるのは君も知っているだろう?」
「知っているが…それは私たちを知らないものが言うことだ…」
え、なんで?私がお姉さまと仲が良いから?
エドワードからお姉さまを引き離しているように見えた?
「君は、これ以上僕たちの関係が悪いと言われるのが耐えられなかった。だからリシアが一つ下の学年に変更になって僕たちから離れられる様に、課題を盗んだ。違うかい?」
あの課題提出出来ないと一つ下の学年に戻るの!?そんなに大切なものだって、知らなかった…
「私はそんなことは…」
「そうです!私が元平民のリシアのことが気に入らなくてやったこと。レベッカ様は関係ありません!」
「と、言っているがね。リシア、君はどう思う?」
確かに原作でも、お姉さまの指示でハリス伯爵令嬢がやったような雰囲気があった。
お姉さまはキャラのブレもあって、らしくはないとは思っていたがそれを疑ったことはないかもしれない。
まさかお姉さまが…