君の夢の亡骸が舞い落ちる中、僕は進む
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三月下旬の夜。
街で遊んだ僕と君は二人で帰路を歩いていた。
歩く桜の並木道、今年は暖かくて開花が早く、夜風で花が散っていくのを君はきれいと呟きながら見上げた。君の長い黒髪も夜風に揺れている。
僕は今だけは桜を見たくなくて、俯いた。
無駄な抵抗だ。
もうすぐ、僕と君は離れ離れになる。
「私たちって、恋人……みたいにいつも一緒にいたね」
君は俯いて歩く僕の隣で、変わらずに桜を見上げて歩きながら言った。
「うん、そうだね」
「なんか変な感じだね。今日が、一緒にいられる最後の日になるかもしれないなんて」
「……大げさだな。大学にだって休みがあるんだから、僕はちょくちょく帰ってこれるさ」
「でも、いつも一緒にいられるわけでは、もうないでしょう?」
桜の花びらが俯く僕の靴の上に落ちた。消えかけている僕らの間の想いを映すかのように、とても薄いピンク色だった。真っ白にはなりきれない、薄いピンク。
「私ね、夢見てたんだ。この街で、雄太とずっと一緒に暮らしていくって夢」
「……沙織」
「私、覚えているよ。多分、いつまでも。雄太と一緒にこの街で過ごした日々を。でも、もうそれにすがりついちゃダメなんだね」
「向こうに行かないと、実現できない夢があるんだ」
「夢、か。私の夢は、その雄太の夢で死んじゃった」
強い風が吹いた。
桜の花びらが一気に舞い落ちてきた。まるで、君との夢をつかまなかった僕を責めるかのように。
君の死んだ夢の亡骸のように。
僕はすぅっと息を吸い込んで夜空を見上げた。
空一面に桜の花びらが舞っていた。
それは二人を埋もれさせるように、この夜の時間から動けなくさせるように。
だから。
そんな夜空を見上げたまま、僕は一歩、大きく踏み出した。
気がつけば、君の家の前まで来ていた。
「ねぇ、雄太」
君はようやく僕の顔を見た。
君は泣きながら笑っていた。
「私は、もう大丈夫。こうして、泣けたから」
「そっか……」
僕はその涙を拭うことはせずに、ただ頷いた。
「雄太が心配だよ。雄太、そんなに強くないから」
「僕の最後の強がり、だと思ってよ」
僕はそう言って、ズボンのポケットに突っ込んでいた右手を上げた。
「じゃあ、沙織」
「うん」
「「元気で」」
声が重なって、二人少しだけ笑ってから、お互いに背を向けた。
その瞬間、あたりに舞っている桜の花びらの色が、真っ白になる。そんな錯覚を覚えた。
君の夢を殺してしまった僕に、許されるのは。
僕は桜の花びらを見上げながら自分の家まで歩いた。
そして家で準備をしてから、僕は駅へと行って夜行バスに乗り込む。
夜行バスの窓から見える景色が滲んだ。今になって泣けてきたことを、僕は僕らしいと思った。
ただ、遠くへ。
それが、君の夢を殺した僕に許される唯一の生き方だった。
遠くへ、遠くへ。
美術室で絵を描くことに夢中になっている僕を見るのが好きだと言っていた君の笑顔が脳裏をよぎった。
一枚一枚君との思い出のように桜の花びらが舞い落ちていく中をバスが行く。
その大きくて揺らぎのない前進に、僕は自分の夢を重ねていた。
ああ、遠くへ行こう。
振り返ったら、今の自分が小さくて見えなくなるくらい遠くへ。
ねぇ、僕は謝らなかったし、謝らないよ。
多分、いつまでも。
僕は進み続けるのだろう。
多分、いつまでも。
君の夢の亡骸が舞い落ちる中を。
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