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第二話 白い中古車

登場する人物や地名及び団体、事件等は全て架空です。

また筆者や提供者の体験を記載する場合には、詳細を伏せるようしています。ご容赦ください。

中古車の営業マンである初老の男性は仕事上がりに立ち飲み屋で一杯ひっかけ、上機嫌で日が暮れた公園を歩いていた。


ふと前を見ると街灯に照らされた公園のベンチに座っている人影が見える。


人影の正体は詰襟の学生服を着た男子学生で、手帳に何か書き込んでいる様子だ。

近づいて来た男性に気づいたのか男子学生が面を上げた。



男子学生は黒髪にショートボブ風の髪型に加えて中性的な顔立ちのせいで少女のようもに見える。


「こんばんは」


男子学生、もとい佐藤さんは愛想よく挨拶する。


「ああ、こんばんは。学生がこんな場所で何やってんだ?」


「仕入れた『怪異』を手帳に整理しているんですよ」


佐藤さんは手帳の背表紙を見える様に掲げた。



「ふ〜ん。なら一つ怪談をやってみてくれないか、面白かったらお小遣いをあげてもいい」


男性の言葉に佐藤さんは少し思案するとゆっくりとした口調で怪異を語り始めた。


「これは、ある主婦が体験した『怪異』なんですが・・・。」



ーーー



【稲村 雪菜】は二十七歳になる専業主婦だ。

夫とは一年前に結婚したが、特段ケンカもなく結婚生活は順風満帆といえた。


雪菜には実子はないが夫の連れ子で五歳になる【悠太】がいたので寂しくはなかった。初めは雪菜に距離を置いていたが、今では本当の母親の如く慕ってくれている。


夫の前妻は四年前に悠太を連れて買い物中に、事故に遭って亡くなった。という話しだが悠太だけは奇跡的に無傷だったらしい。




ある土曜日の昼下がりに雪菜は買物にでかける準備を始めた。

夫は今日一日、休日出勤だとか言って不在なので悠太と二人での買物だ。

雪菜は悠太を連れてエレベーターに乗るとマンション前の駐車場に向かった。


駐車場には中古の白い普通車が停まっているが、その普通車は営業車として人気の車種で雪菜は特に可愛いとか特に思うところは無かったが、何となく惹かれるモノが有り、雪菜が主導して購入した。

ただ購入の際に市場価格より()()()()()()のが気になった。


悠太を助手席後方のチャイルドシートに座らせる、幸い悠太は他の子供と違ってチャイルドシートに大人しく座って大好きな汽車のオモチャで遊んでいる。

近所の友人によると、普通はチャイルドシートにぐずる子が多く大人しくしないそうだ。


雪菜は運転席に乗り込んでシートベルトを装着すると車のキーを回した。


キュルル、ブオォン


キィン


エンジンがかかる音と共に、何か金属が落ちた様な音がするが雪菜は気にも止めずサイドミラーを展開させた。


最初は金属音が雪菜も気にはなり、一度は買った中古屋に車を持ち込んで原因を探してもらうも異常は無かった。

気にはなっていたが何処にも異常は無い以上、「中古車はそんなもんだ」と思うようにしていた。


三十分程、車を走らせると目的のデパートに着いた。


エンジンを停止するとまた『キィン』と音がする、停止する時に鳴らない筈の音に雪菜は首を傾げる。


不思議に思う雪菜だが、デパート着いてテンションの上がった悠太に急かされてデパートの屋上に向かうと、そこでは定例のヒーローショーが開催されていた。


二人はベンチに座ると観戦を始めた。しかし、ヒーローショー観戦に夢中になっている悠太と対照的に雪菜の表情は曇っていた。


(買って一年経ってないけど修理とか嫌だな、年式も新しいけど中古車だからしょうがないか)


現在の家計状況に車の修理は痛い出費だ、だが遠い未来の話しではない事はどうやら確実なのであれこれ想像してみる。


しばらく考えていると、大きな拍手と歓声で現実に引き戻されて周りを見た。


どうやらヒーローショーが終わった様なので機嫌を見るため、横に座っている悠太の顔を覗きこむ。

悠太は満面の笑みで拍手していたが、雪菜の視線に気づいた悠太がこちらを向いた。


「悠太、面白かったね」


「うん」


咄嗟の雪菜の問いに、満面の笑みで答える。



二人はエスカレーターに乗って店内に降りると夕方に近くなったせいか、売り場は混雑し始めていた。


雪菜は食品売り場で夕飯の買い物をしているとカートに三つの小箱が放り込まれる。

三つの小箱は先程のヒーローの食玩だ。


三つの小箱を放り込んだ()()に雪菜は困り顔で言った。


「どれか一つだけね」


小さな犯人は慎重に二つを選ぶと、棚に返しに向かった。


小さなアクシデントはあったものの目的の品物を買えた雪菜は悠太を引いて出口に向かう、すると悠太を引く手が重くなった。


「ママ、抱っこ」


悠太はどうやら屋上でのヒーローショーで興奮した反動で疲れた様だ。


「ほら悠太、車までもうちょっとだから頑張って」


「・・・うん」


悠太を途中、何度も励ましながらやっとの思いで車まで連れて行きチャイルドシートのベルトを締めた。


雪菜は運転席に座ると助手席の足元に買い物袋を置きシートベルトを締めた、バックミラーでチャイルドシートを見ると悠太は静かに寝息を立てていた。


キーを回してエンジンをかけると、いつもの音が聞こえて来た。


キュルル、ブオォン


キィン


だが、今回はいつもと違う変化が起きた。


ゴト、ゴトゴト


普段と違う音が聞こえて来るのを耳を澄まして、音の出所を探した。

どうやら助手席側から音が聞こえてくるのは判ったが場所が分からない、助手席の座面に肘を掛けて注意深く聞くとグローブボックスから聞こえて来るようだ。


おもむろにグローブボックスを開けて中を覗きこむと血塗れの女の顔が飛び出して来た。


「悠太ー!悠太〜」


そう雪菜の目前で血塗れの女は叫ぶと、グローブボックスから這い出ようと必死の形相で身悶える。

そのあまりの光景と恐怖で、雪菜の意識は遠くなっていった。





ドンドン


ガラスを叩く音で雪菜は目を覚ます。

目の前グローブボックスからは女の顔は消えていて、車のマニュアルやらが入っている。


助手席の窓を見ると店の従業員が心配そうな表情で覗きこんでいた。


窓を下ろすと従業員が話しかけてきた。


雪菜が何度も「大丈夫と」返しても納得しない従業員に、仕方なく夫に電話して迎えに来てもらった。


タクシーに乗って来た夫に運転してもらうと、雪菜は()()()()に乗った。


帰りの車内で夫に騒動の顛末を訊かれたので雪菜は包み隠さず答えた。

難しい表情をした夫は二人を送り届けると、その足で車を修理にだした。



一週間経った朝方に玄関のチャイムが鳴った、雪菜が出ると作業服を着た車屋と二人のスーツ姿の男性が立っていた。


スーツ姿の二人組は警察手帳を見せると夫を呼ぶ様に言うので夫を呼ぶと、雪菜はとりあえず三人を居間に通した。

それ程広くない居間に五人が揃うと警察官の一人が口を開いた。


「先日、車を修理に出したそうですが実は変わったモノが出まして」


警察官が居間のテーブルに透明な袋に入った血や泥で汚れた()()を置いてみせる。夫は警察官に指輪をよく見るように促され、指輪を手に取って見るなり表情が変わった。


「・・これ前の。前の妻の指輪です」


夫の言葉を聞いた警察官二人は互いに頷くと警察官の一人が話し始めた。


「驚かないで聞いて下さい、実はあの車は貴方の前妻さんを轢き逃げした車です。修理業者の方が車を分解したら事故を起こした形跡がありまして、それで相談を受けた我々が来たという訳です」



続いてもう一人の警察官が語った内容によると。

車屋から『分解した車から指輪が出て来た』と見せられた指輪を見た警察官が、前妻の事故に関係あるとピンときたそうだ。


因みに車の中にあった指輪は、車屋でもどうやって入ったのか分からない場所に入っていたそうだ。


そういえば明日は前妻の命日だったことを、雪菜はふと思い出した。仏壇を何気なく見た雪菜は遺影の写真である筈の前妻と確かに目が合った気がした。



ーーー



「以上が主婦が体験した『怪異』です」


佐藤さんの怪談を聴いていた初老の男がみるみる青ざめてていく。


ふと佐藤さんが公園の入り口を見る。


釣られて見た初老の男は、街灯に照らさた制服姿の警察官が歩いて来るのを見つけた。


「かgj、dtあpa&」


訳の分からない言葉を発すると初老の男は慌てて逃げ始めた。


呆気に取られた警察官が慌てて追いかける。


佐藤さんは騒動を気にする素振りもせずに、また話し始めた。


「件の中古車が息子さんの元にたどり着いたのは、母親故の愛情か後妻に対する嫉妬、はたまた無念の念なのか、あれこれ考察すると味わい深い話しですよね」


佐藤さんはそう締めると、公園のベンチを後にした。



3話目もあと少し、頑張ります。

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