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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

闇落ち悪役令嬢に転生したけれど、闇落ちは出来そうにない

作者: 汐
掲載日:2020/04/02

薄暗い部屋、窓もなければじめっとしていて灯りは部屋の隅にある蝋燭だけ。

「いやこれは誰でも病むよね」

掠れた声がぽつりと零れた。


私はこの国の王妹の娘、公爵令嬢である。

ルビィ・フォレスター、5歳。

とある理由で地下室(ここ)へ閉じ込められ、精神をやられて闇落ちし、10年後光属性の魔法の力に目覚めた双子のお姉様に浄化されて修道院送りだったか処刑だったかになる。

つまるところの悪役令嬢だ。



前世でアニメ化もされた乙女ゲームの。

そして今まさにルビィは闇落ちするぞ!ってところだったわけなんだけど。



どうもその拍子に前世の記憶とやらを思い出したようだ。

前世はもちろん日本人、普通の社会人。

それ以上のことは思い出せないけれど、少なくとも精神はしっかり大人だ。



まず。

どうしてルビィ(わたし)がこんな地下に閉じ込められているかというと、全部お母様の差し金だ。

髪も肌も白く、更には紫と金のオッドアイ。

この世界でもかなり異質な見た目をしている私を、お母様は酷く疎んだ。


元々お姫様であったお母様にとって、私は受け入れられない存在なんだろう。

この国の至宝とかいわれてちやほやされた我侭姫のまま大人になったお人だ。

お父様との結婚も、見た目が麗しかったただその一点で決めたとゲームでは言っていた気がする。


自分そっくりなお姉様のことは大好きで仕方がないらしく、常に傍に置いておいでだ。

そのシルヴァお姉様は眩い金の御髪(おぐし)にサファイヤの瞳。

双子なので同じ5歳。

しばらく姿は見ていないけれど本当にお美しかったと記憶している。

ヒロインだしね!



私だって顔立ちはお母様にそっくりなのだから、美人なのに。

食事も最低限で、誰の世話も受けずにここに監禁されてもう3年になる。

2歳で監禁されて3年だ。前世なら間違いなくネグレクトだけどまあこの世界ではそんな概念はない。

ルビィだって大嫌いなお母様への恨みを募らせてしまうというのも仕方がないというもの。



お父様は元々侯爵家の次男だったのだけど、お母様が降嫁される際に公爵位を賜った。

王族の所有していた土地を一部公爵領として。

しかしこの国の宰相をしているから常に城に詰めているほど多忙。

領地と家のことはお母様と従業員たちにまかせっきりなのだ。


私が監禁されるようになったのもお父様が帰ってこないからだ。

ここではお母様のやりたい放題できるもの。

お父様は記憶の限りでは私にもお姉様にも平等に愛を注いでくださっていたと思う。


ただ、仕方がない部分もある。

前任の宰相が事故で急逝されたので、まだ宰相補佐だったお父様が急遽就任された。

そのどたばたで、家のことがおろそかになってそのまま、だ。

ちなみにゲームでは闇落ちした私を救うお姉様の涙でお父様は家を顧みるようになる。

それは13年後、18歳になってからのことだ。



遅い。遅すぎる。

そんなになるまで気づかないほどの多忙っていうのもブラックすぎると思うけど。



既にこの部屋に閉じ込められて詰んでるし、ヒロインの当て馬役を演じてあげてもいいのだけど。

しっかり図太い私ではもう闇落ちできそうにない。



なんてこった。



この物語はゆるゆる恋愛逆ハーレムファンタジーだから、ヒロインであるお姉様は舞台である学園へ通うとありとあらゆる殿方にモテまくる。

この国の王子(お母様のお兄様の息子だからつまりいとこ)からお父様のお兄様の息子である侯爵令息(こちらもいとこ)、騎士団長の息子や辺境伯の息子(これは教師だ)、そして隣国の王子まで。

とにかくありとあらゆるイケメンから言い寄られる。



そんな中同じ学園に通うルビィに、母への復讐として嫌がらせや命の危機に瀕するものまで様々な攻撃を受ける。

お母様も10数年閉じ込めていた娘を学園に通わせるのは嫌だっただろうけれど、こればかりは国の決まりで死なない限り行かせなければならない。

お母様としては死んで欲しかったのかなあ。


そして終にヒロインは大変稀少である光属性の魔法に目覚め…?何かの儀式で得るんだったかな?

とにかく闇に囚われたルビィを浄化してハッピーエンド。

そこで終わり。

王子ルートだと私は処刑されて(浄化されるのにね)、他のルートだと修道院送り(こっちはまだまし)になる。

逆ハーレムものだけどメインのヒーローが一応いるためルート分岐が存在する。



もちろんゲームだから面白かったわけで。

こんなの現実にされたらたまったものではないよね。



さて、この世界には魔法がある。

人々は必ず火、水、風、土の4属性のうちどれかを持って生まれてくる。

普通は1属性で、魔術師なんかは4属性全部だったり。

それでもとっても希少な存在だ。


それ以外に光と闇属性があり、この2つは後天的に発現する。

つまり私はここで闇属性の魔法に目覚めるはずだった。

お姉様はシナリオ上で光属性の魔法に目覚めて私を浄化する、というシナリオだったはずだ。



ちなみに闇属性の魔法は悪しきものとして目覚めた時点で犯罪者だ。

ひどい話だよね。



ルビィはここで闇属性に目覚め、つまり闇落ちしたあと復讐への想いを重ね続ける。

この部屋を出られるのは学園に通う15歳になってからだから、10年分の恨みつらみだ。

大嫌いなお母様の大好きなお姉様のことを虐げることでお母様への復讐とするのだ。

別にルビィはシルヴァのことが嫌いなわけではないので、八つ当たりのような形で恨まれたシルヴァも可哀想ではある。

闇属性に目覚めたことはひた隠し、学園でこっそりと復讐を始める、というストーリー。


ちなみに光属性は逆に祀られ、目覚めた時点で聖女とか聖人?なんだったかな。

呼び名があったはずなんだけど。

その地位は王族と同レベルだったかな。

色々うろ覚えの部分がある気がする。



以上、簡単な情報整理終了。

次にこれからのことを考えよう。





この窓のない地下室で、私にできることなんてそんなにない。

2日に1度の食事が運ばれてくる時以外は開かない扉しか出入り口はないのだから。

外から鍵がかけられているし、私は十分な栄養が与えられていないのでガリガリ。


儚げを通り越して骨。

服は一応質素なワンピースが食事と共に運ばれてくるので、清潔ではある。

この部屋だって公爵家の地下室だから別に不衛生なわけではない。


ベッドしかないけど。

あと地下室だからじめっとしてるし灯りの魔法具がないから蝋燭しか光源ないけど。



そうだ、その2日に1度の食事の日だったはずなのに、それが来なかった。

それでルビィは絶望したんだった。



『死ねといういうのね、お母様。

でもわたし、ただでは死んであげない』

なんて5歳児に言わすセリフじゃない。

そのあと10年も、執念を燃やし続けることで命を繋いでいたのだからすごいよね。


この世界の人間なのだから、私にだって魔力があるはずだ。

駆使すればここから出られるはず。


普通は5歳の誕生日に神殿でなんの属性があるか、どれくらいの魔力があるか調べる。

私の誕生日は2週間も前だったはずなので、普通に忘れられている。

いや多分絶対お母様はシルヴァお姉様のことで手一杯だったのだろう。

あの人にとって娘はシルヴァお姉様ただ一人だ。



盛大にお祝いもしたんだろうなあ。いいなあ。

お祝いがっていうよりご飯が。豪華だったんだろうなあ。

うう、ひもじい。



さて。

魔法の使い方なんて知らないけれど、確かゲームでは「水よ」って言えば出て…

「きた」

手のひらに水が溜まったのでそれを飲み込む。

久しぶりの水分!


かなり簡単に水属性を持っていることが判明した。話が早くて助かる。

次は「風よ」と言えば手のひらに小さな竜巻が出来、「土よ」と言えば手のひらから土が生まれた。

「火よ」と言えばもちろん小さな火の玉が出て来た。



さすが公爵令嬢。4属性全部持ってるなんてなかなか稀少だ。

ヒロインだって水属性だけだったはずだ。

えらいぞルビィ。

優秀だぞルビィ。



手段があるとわかったところで、この部屋にいてはいくら私でも闇落ち…の前に餓死してしまいそうなので、逃げ出そうと決意した。

そのあとのことはその時に考えよう。

生き延びたとして闇落ちしてお姉様のハーレムの踏み台にされるのもちょっと。



まずは、扉を燃やしてみることにする。

この地下室の扉は上の部屋の扉と違って簡易な木造製。

さっきよりも少し大きな火を扉に近づけると、木造の扉が焦げ始めた。

壁はさすがに木造じゃないから燃えないけど、扉くらいなら燃えるだろう。


ぱちぱちと音を立てて扉が半分くらい燃えたくらいで水をぶっかけて鎮火させた。

「あぶな、床も燃えてた」

床の絨毯が燃えてた。



こんなところで大火事になると真っ先に死ぬのは私だ、迂闊だった。

気を付けようね私。



とりあえず私が潜れるくらいの穴はあいたので、3年過ごした部屋を堂々と出、1階へ続く階段を登った。

空腹なはずなのに、アドレナリンでも出てるのか動きが軽やかなのがありがたい。


確かこの部屋、本来ならば有事の隠し部屋なので外へも出られるはずなのだ。

けれど目の前のこの扉がどこに出るのかまではわからない。

一か八か、開こうとしたけれど鍵がかかっていた。


「む…」

また燃やす?

でもこの扉の外に人が居た場合目立っちゃう。

扉に耳を当ててみたけれど、向こうから声は聞こえない。



3秒くらい悩んだ。

思い切って燃やすことにした。

悩んだって仕方がないよね!



幸いにして今は真夜中で、人通りはなかった。

出た部屋はランドリールームで、ここからなら庭へ続いている。

嬉しくなった私は、外へ飛び出した。



久々に吸う外の空気に眩暈がしそうなくらい嬉しい。

黴臭くない空気最高!!

目の前には広々とした庭が広がっている。


バカでかいこの公爵家からの脱出には、この庭を抜けて裏から出ようと決めた。

使用人用の通用口があったはずである。



少しほっとしたからか、漸くお腹がすいてきた。

もちろん3日食べてないんだもの、当たり前だ。

その前の食事だって決していい食事ではなかったし。

むしろ歩けていることが奇跡みたいなものだ。


ぐーきゅるきゅるきゅる…と鳴るお腹を水で誤魔化し続けてようやく通用口が見えて来た。

だが当たり前だけど門を護る兵士がいる。



どうしよう。



「も、もやす…?」

いや流石に人燃やしたら大変だよね、ダメだ落ち着け。

空腹で思考回路がぼんやりしてきた。



「誰だ?」

やば、声が聞こえてしまったか。

こちらへ向かってくる門兵から隠れるように小さく物陰に身を隠す。



普通に見つかった。くそ。

優秀な門兵ですね流石公爵家!!



「…ルビィ、お嬢様…?」

ぎょっとした顔で見ている。

早々にバレたな。やべ。連れ戻されちゃうかな、嫌だな。



「お嬢様はご病気でお部屋から出られないと…ど、どういうことだ」

もう一人の門兵と私を囲んであわあわしている。



私もあわあわしたい。

私って病気で部屋から出られないってことになってたのか。



「こんなにお痩せで…ご病気の影響ですか?」

立てないと勘違いしたのかそっと抱き上げてくれたけれど、すぐに違うと気付いたらしく、ぐっと眉に力をいれたのがわかった。

このワンピースが公爵令嬢が着るには寝間着だとしても質素だからだろう。

それとも病気だとしてもあまりに軽すぎて?


いや薄汚れてるからかな。

臭くないかな、ちょっとさすがにレディとしてそこは心配したい。

お風呂なんてしばらく入ってないもの。

水の入った桶だけは食事と一緒に渡されてたから一応拭いてはいたけど5歳だしね。

出来る範囲は知れているよね。

手が短いから背中とかちゃんと届いてなかったと思う。



「どうか、私のことは見なかったことに、してもらえませんか?」

弱弱しく掠れた声で頼んでみたけれど、渋られた。

お母様に見つかったら地下室に舞い戻るだけだしなあ。



それは嫌だしいざとなったら燃してでも逃げよう。



「そういうわけには参りません…が、しかし屋敷に戻すのもできねえな、どうする?」

「人呼んでくる、旦那様に連絡させよう。お嬢様は一先ずお前が匿って差し上げろ」

なんと、門兵がまともです!!

すごい!!燃やさなくてよかった!!

後先考えずに出て来てよかった!!




安心したのか、それとも力尽きたのか、私の意識はどうやらそこで途切れたらしい。




***




翌朝、私を匿ってくれた門兵さんの部屋で目を覚ました。

質素なお部屋だけど、窓があって陽が射しこむだけであの地下室よりいい。

スイートルームと言っても過言ではない。


「お嬢様、こんなものですみませんが召し上がってください」

差し出されたのはホットミルクにはちみつを垂らしたものと、果物だ。

カビてないだけでフルコースと言っても過言ではない。


今のルビィの体にはそれくらいが負担なく食べられるギリギリだろう。

ナイス気遣い!


少しずつ口に運ぶと、体が温まる感じがした。

「起きてるか?」

やがて戸を叩く音がし、昨日のもう一人の門兵が入ってきた。


「ルビィお嬢様、間もなく旦那様がこちらへいらっしゃいます」

お父様すっごい多忙なのによく来れたなあ。

王都から公爵領までって結構遠かったと思うんだけど。


お父様は風属性の魔法がお得意だけど、それを全力で使わないと来れないはずだ。

首を傾げていると、髪を乱したままのお父様が部屋へ飛び込んできて、私をぎゅっと抱き締めた。


「すまない、ルビィ、こんなに痩せて…!!済まない!!!」

ぎゅうぎゅうと抱き締められている。


お父様、あなたの娘は現在虚弱なので折れます。

「お、お父様、くるしい…」

息も絶え絶えで訴えると、ぎゅうぎゅうだったのがきゅう、くらいに落ち着いた。

死ぬところだったので気を付けて欲しい。



「ルビィ、このまま私と共に王都へ向かうよ。お前たち、よく気づき報告してくれた」

そう言うとお父様は乗ってきた馬車に私を連れて乗り込み、風の魔法で空を駆け、あっという間に王都へ到着した。





***





目まぐるしく変わる状況に5歳の虚弱な体は耐えきれずいつの間にか眠っていたようで、次に目覚めたのは知らない部屋だった。

どこだここ。

「お目覚めですね、お嬢様」

傍にいたのはお仕着せを着ているので侍女だろう。

「ここはフォレスター家の王都でのお屋敷です。この部屋は今日からお嬢様のお部屋ですよ。そして本日より私がお嬢様のお世話をいたします」

優し気な目で微笑まれたので少しほっとした。


領地の屋敷で私と交流があったのは、お母様の息のかかった人ばかりだったから。

嫌悪の目でしか見られたことがなかったが、ここでは違うらしい。

それだけでなんだか救われた気持ちになった。

ルビィの荒みきっていた心も、私の中に少しくらい残っていたのだろう。



「まずは元気になりましょうね」

その顔が悲し気なのは、やっぱり子供がこんなにガリガリだと痛ましく思えるからだろうか。

それにしては結構元気なので、そこまで心配することはないと思う。


「お嬢様は今、魔力を変換して命を保っていらっしゃる状態です」

「まりょく、を?」

「命の危機に瀕した時、魔力が多い方はそのように保身し命を繋ぐことがあるそうです」

結構元気なのは魔力を使っているかららしい。

その自覚はないけれど。

あ、そうやって10年生き延びてたのかな?


「ですからお元気に見えても、お嬢様自身がそう思われていても、体はもうぼろぼろなのです。そんな状態で魔法を無理に使われましたから、余計。」

なるほど、限界を超えて体を酷使したのだから休めということか、理解した。

こくりと頷き、私は全力で休むことにしたのだった。




***




それからあっという間に3年が過ぎた。

優しい侍女や、その他献身的な従業員たちのお陰で私は漸く死にかけから虚弱くらいにランクアップした。

それでもまだ8歳児には見えないだろう。

栄養も運動も足りていないらしい。


相変わらずお父様は忙しいのでこの屋敷にすらほとんど戻ってこない。

週に一度だけ、夕食を共にする程度だ。

過労死するんじゃないかと流石にちょっと不安なのだけれど、この世界には魔法で癒すという手段があるらしく、なんとかなっているらしい。

ドーピング。


お母様ともお姉様とも一度も顔を合わすことなくいる。

お姉様にはお会いしてもいいはずなんだけど。


屋敷から一歩も出すなという命令が下っている上に、誰ともあわせるなということらしい。

お父様、護り方がへたくそ。

不器用なんだよなあ。

私が本当の5歳児ならよくない育ち方してたと思うなあ。




「ルビィ、今日はお前に紹介したい男がいる。」

珍しく仕事から早く帰ってきたと思ったら、何やら背の高い男性を連れて来た。

この家の従業員以外では初めて会う他人だ。



「ランス・スカイラインと申します」

「ルビィ・フォレスターです。…ええと、お父様?」

「今日付けでお前の婚約者となった」

もうちょっと説明しよう!?お父様!!

そういうとこがお母様とうまくいかない原因ですよ!!

いやお父様も外見だけで選ばれて不本意かもしれないけど!


この方20歳くらいには見えますけど!?

私まだ8歳!!


でも、とても素敵な方だ。

背は高く、体はしっかりとしていて、栗色の短髪に淡い緑の瞳。

めちゃくちゃイケメンである。

むしろこんな小娘でいいんです??



「スカイライン公爵家を継ぐ予定で、今は私の補佐官に就いている。文官としても優れているが、この国で一番強い男である騎士団長と肩を並べられるほど強い。苦労を掛けたルビィのことは、この国で一番いい男に護って欲しいのだ。


…私ではお前の母親からは護ってやれない」


悔しそうに言うのも無理はない。

お母様のほうが実家が強い。

何せ王家。嫁いだ今でもお母様の手足となる駒は多い。


「スカイライン公爵家は隣国の王家に連なる家系でもある。お前を護れるのはこの方しかいない。勝手に決めて済まないが…いいだろうか?」

いいだろうかって決めてから言うことですかお父様。



「私よりもスカイライン様のご迷惑になりませんか?」

次期公爵様で、その上このイケメン。

さぞやおモテになるだろうに、実の母親にすら気味悪がられる10歳近く(多分)年下の子供が婚約者でいいの?



「このように年の離れた男では不安でしょうが、どうか私に護らせてくれませんか?」

スカイライン様が直々に私に跪いて手を握ってくれたので、

「スカイライン様がよろしいならば。よろしくお願いいたします」

とお答えするしかなかったと思う。


スカイライン様は現在19歳らしく、こうして私に年上イケメンの婚約者ができてしまった。

15歳で入学する学園を卒業する18歳で結婚するらしい。

まだ入学までですら7年もあるのだけど…と戸惑っていると、

「入学まで是非我がスカイライン家に来てもらえないだろうか?」

と提案を受けた。


「すまない。本来なら私が適切な家庭教師を派遣すべきなのだが、裏で止められてしまった」

お母様の妨害らしい。すごいなああの人の行動力。

お父様は宰相だし、人脈も御力もお母様とは違うルートでお持ちだけれど、女の世界となると手が出せないらしい。



「そこで母が教育役を買って出たのだよ。娘が欲しかったといっているから気にせずにおいで」





***





もうすでに準備は整っていたらしく、翌朝私はスカイライン様と共にスカイライン公爵家にやってきた。

「あの、スカイライン様…」

「俺のことはランスと呼べ。この家にいるのは全員スカイラインだ」

と、何故か不機嫌そうに、しかし私のことはしっかり抱き上げたまま言われた。



昨日までの穏やかな雰囲気はどこへ!?

え、こっちが本性?

それとも小娘の婚約者嫌だった!?



ここでも虐められるのかな、と少し憂鬱になっていると、ホールで待っていたのはランス様そっくりのご当主様と、成人した子供がいるようには見えない大変お美しい奥様だった。



まじかよおいくつ?



「本当に神秘的だわ。私はリリア、本当の母のように思ってね、ルビィちゃん」

「ルビィ嬢、ようこそスカイライン家へ」

優しい微笑みで、そっと頭を撫でられて困惑しかない。



よくわからないけれど、お母様が嫌う私の見た目を、リリア様は少なくとも神秘的だと言ってくれるらしい。

公爵様も優しい目で見てくれているから怖くない。


緊張していたのか、それとも不安だったのか。

強張っていた体から少し力が抜けた。


「ランス、部屋へ案内してやりなさい」

「ああ。行くぞ」

どう考えても嬉しくなさそうに頷くと、再び私を抱え上げて部屋へ案内してくれた。


なんだか心地よく感じてしまうのが不思議。


「その扉の先は俺の部屋だ。いつでも入っていい」

「は、はい。ランス様、ありがとうございます」

初対面のときと打って変わって仏頂面のランス様に私は戸惑う。



本当は嫌なのに、例えばお父様と公爵様の間で勝手に決まってしまったとかそういうことかもしれない。

だとしたら非常に申し訳ないことだ。

せめてあまり関わらないようにしよう。



私はこの日、芽生えかけていた()()に蓋をしてしまったのだった。




***





翌日からリリア様は本当に私のことを娘のように扱ってくださった。

ドレスを仕立てたり、令嬢としての教育を施してくださったり。

週に一度は私のお父様を交えて5人で食事をし、なんだか信じられないほどに穏やかな毎日だった。



そうして15歳を迎え、学園へ通う前日。



「ルビィちゃん、入学の前にお話があるの」

おっとりとお茶をしながらリリア様は少しだけ改まった。


「あのね、貴女には知らされていなかったけれど、属性は4属性全て、そして魔力量は最大値とほぼ同じくらいあるそうよ」

魔法は5歳の時つかったきり、一度も使っていない。


普通の5歳児は魔法を使えないし、そもそも属性と魔力量を調べたあとは学園に入学するまで魔法の勉強はしないものだ。

学園には主に魔法を学びにいくわけだし。


だから、魔法のことはすっかり忘れていた。

「いつのまに…?」

そういうのやった記憶ないんだけど。



「5歳の時、ルビィちゃんが眠っている間にルーク様がこっそり調べていたそうよ」

あ、扉燃やしたもんね!

お父様も教えてくれてもよかったのに。

と首を傾げれば、生命力に変換していた分が多すぎて魔力が一時的に枯渇していたらしい。

魔力が復活するのに3年かかり、さらに元の量に戻るまで7年、つまり最近漸くもとに戻った。

それまでは私の命も実は危なかったらしく、黙っていたとのことだった。


「貴女を不安にさせたくなかったのね。本当にルーク様って気遣いがお下手ねえ」

くすくすと笑っているけれど、本当にそう思います。

「お父様はとても不器用でいらっしゃるので」

仕事はできるのに、ね。




こうして翌朝私は学園へ、なぜかスカイライン家の馬車で送り届けられるわけだけど。

更に何故か向かいにはランス様がいらっしゃる。


7年も一緒だったのに全く打ち解けられてはいないと思う。

というのもランス様も多忙で、週に一度の食事の時しか結局一緒ではなかったし、その時もお父様とばかり話していたから。

お会いしてもかなりの確率で仏頂面でいらっしゃるし。



「…お前も15になったのだな」

ぽつ、と漏らす言葉に首を傾げた。

15歳になったのは2カ月ほど前ですけれど。



「遅くなったが、これを贈る」

そういうと仏頂面のまま私の手を取り、ランス様の瞳とよく似た色の宝石が付いたイヤリングを付けてくださった。

「虫よけくらいにはなるだろう」

それだけ言うと、するりと私の耳を撫でた。


「ら、ランス様!?」

びっくりして体を引こうとしたのだけど、びくともしない。

「俺は7年待った。もう、待たないからな」

そのままイヤリングに口づけられ、大人の色気をたっぷり含んだ笑みを向けられる。


どういうこと!?

私に興味ないとばっかり思ってたんだけど!?

いつもの仏頂面じゃない!!



「この7年、お前に手を出すと殺すと宰相…お前の父上から釘を刺されていたから興味がない振りをしていた」

衝撃告白!

知らなかったし全く気付かなかったなあ。

私からも極力関わらないようにしてたし。



やがて馬車が緩やかに止まり、ランス様がエスコートしてくださる。

「今日はルーク様の代わりにエスコートの栄誉をぶんどった。さあ、行くぞ」

「ま、待ってください、もう少し説明を…!」

「後でしてやるから今は黙ってろ」

人差し指でつん、と唇を突かれ、無事に私は撃沈した。



なにこの色気、むりむり急に刺激が強すぎる!!



やがて連れられた入学式。

そこで見かけたシルヴァお姉様に、私は思わず目を奪われた。

「お姉様…」

十数年ぶりでも見間違えるはずのないきらきらした金髪に、宝石より美しい青の瞳。

顔立ちは私とほぼ同じなのだから、間違えるはずがない。

お姉様だ。



「ああ、あれがお前の姉か。」

つまらなさそうにつぶやいたランス様は、あんなにお美しいのにお姉様には見向きもせず、私を席までエスコートしてくださった。



「迎えに行くまで教室から出るな」

と去り際耳元で囁くと、ランス様は式典の保護者席へ向かってしまった。

ぶわっと顔が赤くなってしまった私を置いて。




式典は無事終わり、これからクラス分けが発表され、各クラスでのオリエンテーションが行われる。

発表された私のクラスはAクラス。

ここにはお姉様や第一王子、お父様のお兄様の息子や…つまりゲームでお姉様にメロメロになる方々が勢ぞろいしている。



「ルビィ?ルビィね!!」

席に着くなり駆け寄ってきたのはお姉様。10年以上お姿は拝見していなかったけれど、相変わらずのきらきらヒロイン。

「お久しぶりです、シルヴァお姉様」

「よかった、元気なのね!!」

声が大きい、淑女っぽくないよお姉様。


でも心配してくれていたのか、目がうるうるしている。

かわいい。


「すまないがそこは私の席だ」

と迷惑そうにしているのは第一王子のレオンハルト様。

「申し訳ございません」

私が頭を下げると、姉があわてて「ごめんなさい!」と道を開けた。


いやその方王子殿下なんだけどシルヴァお姉様不敬じゃない?

同い年でいとこ同士だしでもしかしたら仲がいいのかな?

それにしては初対面のようだけど。



「私の隣は君か、ルビィ嬢。君のことは宰相からよく聞いているよ」

「やあレオンハルト、この子が例の?」

「ああ、そうだ。」

次々とお姉様の取り巻き(予定)が私というか殿下の周りに集まってくる。



何事。



「これは美しいな。"星の女神"に相応しい」

「ああ、まさに」

「…"星の女神"?」

耳慣れない言葉に首を傾げる。

どうもこの人たちは私のことを気味悪がらないらしい。

というか気味悪がったのは今までお母様以外いないけど。


「いずれわかる」

ぱちりと顔の整ったレオンハルト殿下がウインクすると、教師が入ってきて(この人も攻略対象だ)オリエンテーションが始まった。

なぜかシルヴァお姉様は私のことを睨んでいた。



…あれ、睨んでるよね?

さっきはうるうるって見られたのに。




***





オリエンテーションが終わり、教師(この人は辺境伯の息子)が立ち去ったのと同時にランス様が入ってきた。


すごい、部外者なのに堂々としてる!

「ルビィ、おいで」

外行の笑顔は破壊力が抜群で、クラスの令嬢たちがことごとくメロメロにされている。

さすがランス様。

私はもうこれが偽物の笑顔だと知っているので、気にすることなくランス様の傍へ立つ。


「おや、レオンハルト殿下。ルビィはもう帰りますよ」

なぜかいつの間にか近くにいた第一王子のレオンハルト殿下にランス様は穏やかに微笑みかけている。

知り合いなんだろうね。


「…あと3年ある」

「私ももう加減はしませんから」

なにやらやり取りをすると、ランス様は私を抱き上げて馬車まで連れて行ってくださったのだった。



「あ、あの、私はもう子供ではないので…!!」

降ろして!!

「わかっている。子供じゃないからこうしてるんだ」

馬車でも何故か膝の上である。

昨日までとは全く違う態度に、目を白黒させてしまう。



本当に何事!!





***




その晩、7年ぶりに家へ帰った私はお父様にとある話をされた。

この国では"星の女神"と呼ばれる役職がある。

祭事や神事の際には役割が与えられ、国中から愛される存在らしい。


それは相応しい令嬢がいれば与えられるという役職だそうで、預言者と呼ばれる人が私たち2人が生まれた日を示したそうだ。

「それは、シルヴァお姉様?」

と聞けば、お父様は辛そうに首を横に振った。

どうして、あんなにお美しいのに。


「"星の女神"は光属性を発現させなければいけない」

聖女か何かだと思っていたのは"星の女神"のことだったらしい。

であれば今のところどちらでもないのでは?


「予言の通りならば、お前とシルヴァのどちらかが"星の女神"だ。あの日生まれたのはこの国ではお前たち2人だけだからだ。」

ふむふむ。

私が当て馬にならなかったから、シルヴァお姉様がその"星の女神"になれなかったのなら、私は今からでも当て馬になった方がいいのかな?



"星の女神"が居た方がみんな嬉しいんだよね。

私には光の魔法を発現させられないと思うし、なりたいわけでもないし。

「お父様、私今からでも闇属性の魔法を発現させるなりしてお姉様のお役に立つべきなのでしょうか?」

と言えば、今までで見たことのないほど怖いお顔になった。



だってここまで話されればかつてのお母様の意図が理解できた。

つまりお母様は、シルヴァお姉様を確実に"星の女神"に仕立て上げるために私をわざと闇落ちさせようとしたのだ。

まあ死んだらそれはそれ、だったのだと思うけれど。

それならその役目を今からでも果たそうか、と軽い気持ちで言った。



「滅多なことをいうな!お前がそのようなことをする必要は今も昔もない。これからもだ!」

ぐっと私の肩を掴んで辛そうに叫ぶお父様。



「ですが、その方が皆さま喜ばれるのでは?」

きらきらしたお姉様にこそ相応しいと思うし、お母様だって喜ぶ。

お母様が喜べば嬉しい人はたくさんいると思う。

お母様のことを慕っている人は未だにとてもたくさんいるのだから。



「頼むからもうそんなことは考えないと約束してくれ」

辛そうなお父様に頷いておく。

ほかにも方法があるかもしれないしね。"星の女神"とやらを譲るだけだ。



「…この話は当事者であるお前とシルヴァには学園の入学日に伝えると決められていた」

だから私は知らなかったのか。

でもお姉様は聞いていたかもしれないな。

お母様言っちゃいそう。


「そして"星の女神"候補であるお前とシルヴァは今婚約者候補で溢れている」

「…?私はランス様の婚約者ではなかったのですか?」

「ランス殿が()()()婚約者候補なんだ。だが相手はお前が選んでいい」

「はい?」

「明日からお前たちへの求愛行為が解禁される。…私は、ランス殿以外力不足だと思ってお前には紹介しなかった。」




なるほど、つまり明日から私とお姉様には求婚者が殺到するとそういうわけですね。

迷惑!!

よし、やっぱり全部お姉様に押し付けよう。



「もし全員嫌ならば、そう言って構わないからな。私のかわいいルビィ」

優しく私の頭をなでてくれるお父様のお言葉に甘えることにしよう。



そうと決めた私はお父様と別れ、ベッドへもぐりこんだ。

婚約者なんていらない…と思う。

ただ、リリア様には本当によくしていただいたから、もしリリア様が望むなら私はランス様を選ぼう。




***




翌日、城へ出仕するランス様が迎えに来た。

学園に行くには早すぎるけれど、お話があるらしい。


「流石に初めは義務感からだったが、今は違う。俺はお前が好きだ。俺を選べ」

もう仏頂面ではないランス様は、蕩けるように微笑むと私の目をじっと見つめた。

「その稀有な色彩も、何事にも真面目に取り組む様も、母上と笑いあう笑顔も全て好ましいと思っている」

「あ、う、え…えええ…」

何事も真面目にとは言ってくれるけど、普通に他人のお母様にお世話になってるんだからさぼったりはできないよね、常識的に!!

私が特別頑張り屋ってわけじゃないと思うんだけどなあ。



いっぱいいっぱいで言葉を紡ぐことすらできなくなった私を一層愛おしそうに見ると、簡単に説明をしてくれるらしい。



"星の女神"候補は15歳まで社交に出してはならない。

15歳…学園の入学と同時に"星の女神"候補への求婚が認められる。

"星の女神"が正式に決定するのは18歳の誕生日、それまで積んできた人生によって光属性の魔法を発現させるか否かが決まる。



「俺はお前が"星の女神"でなくてもいいと思っている。」

婚約者を選ぶのは"星の女神"だけだが、もし選ばれなくてもランス様は私と婚約してくださるそうだ。

いや別に婚約者が欲しいわけではないんだけど…



「俺はお前の味方だ。それだけは覚えておけ」



その言葉にはこくりと頷き、私は学園へ入った。

教室にはお姉様が一人だけ。

「お姉様、随分お早いのですね。おはようございます」

ランス様の時間に合わせたから一番乗りだと思っていたのに。




にこっと花が綻ぶように笑うお姉様はとても美しい。

「ルビィ。貴女要らない子なのよお?どうして生きてるのかしら」

しかし私が生きていることが御不満らしい。辛辣。


「"星の女神"はわたし、そうお母様は仰っているわ。だからルビィ、貴女は消えて」

お姉様はずっとずっとお母様と一緒で、よくないほうに育ってしまったのだろうか。


だとしたらお父様が悪い…いや、お母様からシルヴァお姉様を取り上げるのは無理かな…

でも私を助けてくれたなら、お姉様も助けてあげてほしかった。


「お姉様、私も"星の女神"はお姉様がいいと思います。消えるのは…難しそうなのですけれど」

「あら、ルビィもそう思うのね。じゃあ簡単よ、お姉様に任せなさい」

笑みを深めると、もっともっとお美しい。

シルヴァお姉様は本当に綺麗だ。


同じ顔なのだから私も綺麗なのかもしれないけれど、表情の作り方とでもいうのか、浮かべる笑顔がきれいというか。


「ええと、ではお任せします…?」

「それでいいのよ。なんだ、ルビィはイイコなのね!」

ずっと笑顔のお姉様が怖くて怒らせないように気を付けた結果こうなった。


かわいいのに怖い。

私お姉様に消されるのでは。

本当に"星の女神"とやらに興味はないし、お姉様が頑張ってくれればいいんだけど。

そもそも光の魔法を発現させるってどうやるんだろ。



私の知らない方法があるのかも。

儀式とか?



私が考え事をしている間、お姉さまはにこにこと笑いながら、どれだけ私が邪魔で、どれだけ疎ましいかを人が来るまでずっとお話ししてくれた。

狂気よな。



お姉様曰く、私のせいでお父様はますます領地へ帰らなくなったし、お母様はそれを気に病んで伏してしまった。

私がお父様をお母様とお姉様から奪い、そして更に"星の女神"まで奪うの?

とかなんとかそういうことらしい。

なんかしっかり恨まれてるな、私。




いやお父様が悪いんじゃない?

自分の嫁と娘のケアくらいちゃんとしてよ。





***





「ルビィ、僕はギルバート。一緒にご飯たべない?」

初対面で呼び捨てしてきやがったこの男は隣国の第二王子だ。

この国の第二王子と交換留学中。

ランス様のご親戚だと思われる。ランス様の偽笑顔とどことなく似た笑顔を浮かべているので。



「ええと、私などと食事されても楽しくないかと思いますよ。"星の女神"にはお姉様がなるでしょうし」

とやんわり断ってみたけどだめだった。

なんでだよ。


「ギル、抜け駆けするな」

そこに割り込んできたのはこの国の第一王子。



「おや、昼食は私といかがです?"星の女神"について詳しく教えて差し上げますよ」

そして辺境伯の教師。お前が張り合うのはおかしい。

「俺と、どうだろうか!」

「いえ、ぜひ私と」

騎士団長の息子、お父様のお兄様の息子殿。



ふむ、と私は考える。

これは面倒なことになった。

よくわからないけれど、彼らは私に関心があるらしい。

となれば、だ。



「シルヴァお姉様!」

こちらを射殺す勢いで見ているお姉様に軽い笑顔で手を振る。

少し席が離れているので、会話の内容までは聞こえなかっただろう。


「ルビィ、どうかしたの?」

ととと、と可愛らしく駆け寄ってくださる。

そう、それだよお姉様かわいいよ!!

この男たちをメロメロにしてやって!!

「この方々、お姉様とお食事したいそうなのですが、お恥ずかしいらしく私に声をお掛けになったそうです」


「まあ、そうだったのね!!では皆様参りましょう。」

ぐいっと王子2人と手を組むと、その王子たちが咄嗟に騎士団長の息子殿といとこ殿をそれぞれ掴み、そしていとこ殿が先生を掴み。

全員仲良くお姉様につれられてどこかへ向かった。



「よし、片付いた」

私は家からもってきたお弁当がありますので。






***





連日こんな感じでお姉様に押し付けていたのだけれど、奴らもあの手この手でアプローチの方法を変えてくる。

いやお姉様でいいじゃん!

なんで私に構うかな。


お姉様も流石に感付いている。

2か月しかもたなかった。


ちくしょうめ。空気を読めよ。


お姉様が怖いから友人も作らずに孤立していたのに。

お姉様はクラスの中心的な感じで友人もたくさんいるし、そっちのほうが絶対いいと思うんだけど。



誰もいない空き教室で昼食をとっていたら、攻略対象たちに見つかってしまった。

どこにいても見つけてくるストーカーめ。

先生はいないな。


「連日ご苦労なことです。ですが貴方方も人気者のシルヴァお姉様と仲良くしたほうが良いのでは?」

「はあ。ルビィは本気で君の姉が人気者だと思っているの?」

ちょっと呆れたように言うのは、ギルバート殿下。


「お綺麗で明るくてお優しいお姉様ですもの、そう思っておりますが」

「あれ、知らないんだ?」

きょとんと首を傾げられるので私もつられて首を傾ける。

知らないって、何を。


「ルビィの母上は私の父の妹だ。それは知っているよな、流石に」

それには頷く。レオンハルト殿下は私のことを馬鹿にしているのだろうか。

「あの方はその力を存分に揮い、このクラスの人間にも圧力をかけている」

ははあ、それでお姉様とあんなに親しくしている…?



そんなことしなくてもお姉様はあのポジションだったと思うんだけどなあ。



「はあ、それは存じ上げませんでした」

まあどうでもいいしね。



私は平和に勉強ができればそれでいい。

魔法の勉強は思っていたよりずっとずっと楽しいから、今の私の生きがいでもある。

将来は王宮魔術師とかになりたい。



「シルヴァはそれをなんとも思わないんだよ、ルビィを虐げることも。」

眉を下げて困ったように笑うのは、お父様のお兄様の息子、ユリウス様。

「ルビィとは会えなかったけど、シルヴァとは何度も会ってるんだよ」

聞けばお母様の洗脳から少しでも護って差し上げるためだったらしい。


お父様も頑張ってたんだなあ。

心の中で役立たずとか詰ってごめんなさいね。



「それもあまり効果はなくて。私の話を聞かないんだよね、シルヴァは。自分が愛されて当然だと思っているし」


「俺はルビィ嬢を一目見たときから好きだ。必ず幸せにするから俺の手を取ってくれ」

空気を読めよ騎士団長の息子のエレン様!?



「私は"星の女神"にはならないと思いますので、ご実家のためにもお姉様をお選びになった方がよろしいかと存じます」

話の間に荷物を纏めていたので、私は逃げ出そうと窓の方へじりじりと移動していた。



あとは窓を開けて飛び出せば逃げられる。

風属性の魔法で無傷だ、問題ない。




「ルビィ、僕はシルヴァ嬢がどうとかじゃなく、君がいいんだよ。」

ギルバート殿下がラベンダー色の瞳を穏やかに緩めて。


「私も、ルビィがいい。"星の女神"が欲しいわけではない」

レオンハルト殿下ははちみつ色の瞳で真剣に。


「私もルビィを護るために力をつけて来たから安心して?」

ユリウス様はお父様と同じ桜色の瞳をきらりと輝かせて。


「何度でも言おう。俺はルビィ嬢のことが好きだ!」

エレン様の澄んだ空色の瞳は嘘のひとかけらも含まれていない。




真剣にお伝えいただいているのはわかるのだけど、困る。

「私は皆様のことを知ったのは2か月前なのですが…」

消去法で選ばれているのなら、私は今からでも嫌われるように振舞う。



窓に手をかけたところで、ドアからもう一人。

「候補は全員スカイライン家で君のことをこっそり見ているんだよ」

うわ増えた、辺境伯の息子であるガイル先生。

「抜け駆けは感心しないなあ」

って言いながら教室に結界張りやがった!!



窓を開けてもこれでは結界に阻まれて出られない。

流石に魔法を学んで日が浅い私では教員であるガイル先生の結界は壊せない。



「同じようにフォレスター家でシルヴァ嬢のことも見ている」

「その上で私たちはルビィ嬢に決めたのだ」

シルヴァお姉様、家でどんな振舞いをされてきたんですか。

気になるけど知りたくない。




とにかく私ばかりに構う理由はわかった。

彼らはストーカーよろしく私とお姉様のことを勝手に観察して、その結果私のほうがマシってなったんだな。

「ですが、それでもやはり"星の女神"になるお姉様をお選びになるべきでは?」

特に王族お二人は。

"星の女神"はとても地位の高い存在だから、王家としては欲しいと思うんだけど。



「ルビィはシルヴァが"星の女神"になると思っているようだが、ルビィ自身は興味がないのか?」

怪訝そうなレオンハルト殿下の言葉に深めに頷く。

「はい、ありませんね。お姉様はなりたいようですし、お任せしたいと思っています」

だから私のことは諦めてくれ。そしてもう構わないで欲しい。


「ええ、そうなの?どうする、レオ。言っちゃう?」

「そうだな、預言者殿も私たちの判断に委ねると仰った」

レオンハルト殿下とギルバート殿下が頷きあう。


嫌な予感がするなあと思ったら。

「予言者が"星の女神"はルビィだと宣言なさった」

事前にわかるものではないと思うんだけど、やっぱり嫌なことだった。



「それこそルビィが命を落とさない限り、と聞いているよ」

「え、じゃあ私が死ねばシルヴァお姉様が"星の女神"になれるのですか?」

「…まあそういうことになるな」

じゃあ私お姉様にとって邪魔じゃないか。

お姉様もご存知なのかな。


「シルヴァ嬢には伝わっていない。このことは予言者から婚約者候補の我々のみに告げられた。ルビィとシルヴァに告げるのは我々に委ねられた」

そして覆ることのないほぼ決定事項だ、と言われてしまった。


予言者とはこの世界でただ一人、未来を視る能力を持つ賢者のことだ。

それも万能ではなく断片が視える程度らしいが、それでもすごい能力だ。

彼の言うことは正しく、必要な時に正しく伝えるというのが彼の仕事らしい。

世界中を巡り予言をもたらすらしいが、"星の女神"誕生までこの国にいるそうだ。

国賓として城で生活しているらしい。

知らなかった。


で、あれば。

「お姉様は知っていらっしゃるのでしょうね」

ぽつ、と呟いた。

そうでなければ私のことを明確に消そうとなどしない。

お母様がどうにかして知ったのだろう。

城にいるならばお母様の庭のようなものだろうし。



お姉様も、私がこの攻略対象たちに近寄られているのが嫌、という感じではないのだ。

というか彼らを選ぶ権利も"星の女神"になれば得られるしそちらを優先させることができるくらいには冷静だ。

流石成績優秀でいらっしゃる。

こないだのテストでは堂々の一位だったもの。



私はお姉様が怖いので真ん中くらいの成績になるように調整してある。



「ですから、どうか私を想ってくださるのであれば、私には構わないでくださいませ」

そう告げれば、彼らは渋々だけれど頷いてくれた。

よし、私の勝ちだ。

あとはお姉様の…なんだろ、日ごろの行い?にかかっていると思う。




***




あれからというもの私の周辺は至って静かである。

表立ってはアプローチしてこなくなったおかげで、存分に気配を消して生活できている。

あっという間の3年だった。


私はしっかりと王宮魔術師になれる程度の魔力と成績を(内緒で)収めているし、卒業したら就職できるはずだ。

推薦状もガイル先生じゃない先生に書いていただいているし。



そして今日は"星の女神"が選出される前日である。



学園が終わり、帰ろうとしているとお姉様がとびっきりの笑顔で近づいてくる。

「ルビィ、ねえ。今日くらいはわたしと一緒に帰りましょう。そして明日、一緒に神殿へ行きましょう」

その言葉に私は頷いた。

「わかりました、お姉様にお任せします」

いや怖くてね!?断っても連れてくからな的な副音声が聞こえた。


準備されていたのはお母様の生家…つまり王家の紋章のついた馬車だ。

すごい、初めて乗るけどお姉様はいつもこれに乗ってるんだよね。

乗ってみてわかったけどスカイライン家のやつもこれくらいのランクのやつだった。



「貴女も久しぶりにお母様にお会いするでしょう?とても楽しみにしていらっしゃるのよ」

そんなわけないだろうけどまあいい。



これからどんな目に遭うのだろうか。

シルヴァお姉様に魔術封じの腕輪を付けられて、私は抵抗の術を失った。

これ、普通の人なら持ち出せないような国宝なんだけど。



やがて王家が所有する王都の家の一つに到達した。

お母様の私物だから、ぎりぎりフォレスター家のものではある。

お母様とお姉様は今ここに住んでいる。

お父様のいるフォレスター家に住んでいない理由はまあお察しだよね。



「久しぶりね、ルビィ」

お姉様と瓜二つのその美貌は衰えず、相変わらず美しい。

いくつだっけな、お母様。

「お久しぶりです」

丁寧に膝を折ると、嫌悪を隠しもしない目で見覚えのある執事に何かを指示した。


あっという間にその執事に連れられて私は地下にある部屋に閉じ込められたのだった。

別に抵抗とかもする気はない…というかできない。



あとお母様は嫌なら無理に会うことなかったのに。



「ルビィお嬢様は今晩ここでお過ごしください」

と執事に教えてもらった。

「そうですか」

頷くだけだ。




ここで殺されるのかなあ。



どうやるのかはわからないけれど、それでお姉様が"星の女神"になれて、みんなハッピーならそれでいい。

そこまで今世に執着がない。




…いや、リリア様にたくさん良くしていただいたお礼を一言位いいたかったかな。

お父様にもお前の対応が悪いからだぞと詰りたかったし、ランス様にもお礼くらい。



そう、お礼くらいは言ってもよかったかな。



だって好きだと言われて嬉しかったのだ。

毎日のようにそう言ってくださってはいたけれど、いつもいつも照れと動揺で真顔になってしまって嬉しい素振りすら見せられなかった。



それを、今更ながらに後悔した。

初めて会ったときにしてしまった蓋が、弾け飛んだ。



「馬鹿だな、私。」

死ぬかもしれない、とならないと気が付かないのだから。




***




やがてさほど広くない部屋に、何人もの男が入ってくる。

魔術師や騎士のようだ。


「お嬢様、シルヴァ様の糧となってくださいませ」

執事のその言葉に背筋が冷えた。

あれ、もしかして私、闇落ちしろって言われてる?

折角13年前に回避したのに!?


そうするくらいならさくっと殺してくれたほうがいいんですけど!?



「お嬢様は儀式の詳細をご存じ無いのですね。」

明日行う儀式は、光の魔法を発現させるため、とあることを行う。

闇の魔法が籠った宝玉を飲み込ませ、それを自力で光の魔法を発現させて浄化しなければならないとかいう正気ではないものらしい。



闇の魔法が籠った宝玉とかいうのはまあ闇落ちした人からとってるんだろうけど…

それって光の魔法を発現できなければどうなるの?



先に教えておいてくれません?

いや私だって調べたけど出てこなかったし一部の人しか知らないことなんだろうけど。



で、それを今やるってことか。

「神殿で執り行わなければ光属性の魔法はほぼ生まれないことが分かっています」

神様パワーで増幅しないと発現しない、というわけですねなるほど。

「ええと、私どうなるんでしょう…?」

「シルヴァお嬢様が明日浄化してくださいますよ。そのあとは知りませんが」

闇落ちは犯罪者だもんね!!

いや無理矢理やっといてそれはひどくない??



結局シナリオ通り、なんだろうか。

確かに激しく抵抗したわけではなかったけれど、さすがにこうなるとは思わなかった。



話し終えた執事の合図で無理矢理口に宝玉とやらを突っ込まれた。

飲み込むのは嫌だったのだけれど、騎士の一人に喉奥まで指で押し込まれた。


「うッ…げほッ」

思わず咽込んだけど出てきてはくれなかった。

「魔術封じを外しなさい」

瞬間、体内で宝玉がぱちん、と弾けたのがわかった。



徐々に闇の魔力に体が、魔力の回路が汚染されているのがわかってしまう。

流石にこんな方法で犯罪者にされてはたまらない。

私は意識を集中させて回路に入り込む闇の魔力を動かす。


が。


「余計なことをしようと思うな」

と、騎士の一人にぐい、と髪を掴まれて集中が途切れる。

こいつらそういう役割かよ下種!!



私が集中しないように、そして余計な魔法を使わないように彼らは見張っているらしい。

流石に心が折れそう。



…もう、いいかなあ。

きっとお父様とかがいい感じにとりなしてくれて、修道院送りくらいで済むんじゃない?

宮廷魔術師にはなれないかもしれないけれど、それも穏やかでいい生活かもしれない。



お母様とお姉様に疎まれてばっかりいるのも疲れちゃったし。



そう、目を閉じてしまったとき。



「ルビィ!!もう少し待ってくれ!!」

耳になじむこの声は、聴きなれた声だ。

聞きなれてたのだ、いつの間にか。


「ランス、さま」

見なくってもわかる。


ランス様、来てくれた。


「チッ」

素でちゃってますよ。思わずふふ、と笑ってしまう。

「まだ間に合うな!!ここは任せるぞ、騎士団長」

ふわりと体が浮いたので、きっと今私はランス様の腕の中だ。



薄目で確認すると、騎士団が部屋にいた人たちを縛っていた。

よく入ってこれたなあ。ここってお母様の持ち物なのに。



「陛下がようやく決断なさった。…いや今まで決定的な証拠がなかったからな。レオンハルト殿下やギルバート殿下、ユリウスやエレン、ガイル殿の協力もあったが…間に合わなくてすまない」

ぎゅっと私の体を抱きしめる体温が心地よい。



今ならば、今の私なら。

何とかなりそうだ。


不思議なことに、ランス様の温かい腕の中にいると、何でもできそうな気持ちが湧いてきたのだ。


「大丈夫ですよ、ランス様。来てくださってありがとうございます」

私の体の中でさっきから暴れようとしているもう一つの魔力、これがきっと光の魔法なんだろう。


なんだか想像していたように穏やかで優しいものじゃなくて。

猛々しくって攻撃的なんだけど。

その魔力を闇の魔力にぶつけるように操作すれば、少しずつ体内が浄化されていくのがわかる。



「神殿まで耐えろ…ん?」

「もう大丈夫ですよ、ランス様」

ちょっときまりが悪くて緩くえへへと笑うと、ぐっと眉を寄せたランス様と目が合う。



ぎゅうっと強く抱きしめられると、「遅くなってすまなかった、ルビィ」と何度も何度も言われた。



私はこの時やっと、とても遅ればせながら。

この人にこんなに愛されていたんだなあと気づいたのだった。






***





翌日、私はランス様に連れられて儀式の行われる神殿にやってきた。

そこで魔力を計測し、光の魔法の発現が無事認められた。

「ここに、ルビィ・フォレスターを"星の女神"に任命する」

集まった人々からの盛大な拍手を受けた。


次に私がすることは、婚約者の指名だ。

「ランス様、よろしいでしょうか?」

「もちろんだ、俺の女神」

腕を広げるランス様にはしたなくも私は飛び込み、めでたく私たちの婚約は正式なものとなった。





――――こうして私は結局やりたくなかったけれど"星の女神"をやることになった。

思ったよりも魔法を使うお仕事だったので、悪くないかな、って思い始めている。



後で聞いた話だけれど。

お母様は"星の女神"を長年虐げ続けた罪と、国宝である魔術封じを勝手に持ち出した罪で死ぬまで幽閉。

シルヴァお姉様は闇落ちした罪とお母様に手を貸した罪で修道院送りとなった。



私が儀式をする前に、何も知らされていなかったお姉様も同じ儀式を行ったらしい。

結果は失敗で、私がお姉様の浄化を行ったのだった。


でも、あれは私だったかもしれない。


勝手に闇落ちさせて修道院送りなんておかしい、と訴えかけた結果、反省すれば出られるというのだ。

「反省って、おかしいです」

レオンハルト殿下に詰め寄ったら、「ルビィはシルヴァが何をしていたか知らぬから」

と微妙な反応をされてしまった。



お姉様もお母様の計画の内容を知って加担していたとか、私に嫌がらせをしていたとか、そういうことらしいのだけど。

放置していたお父様も悪いと駄々を捏ね、お父様にもお姉様の矯正をさせることで私は納得した。





これでたぶん、めでたし…?なんだよね。




「ここにいたのか、俺の女神」

甘く囁き、私の手をとるのはもちろんランス様だ。

「今日も美しい」

頬にキスを落とすランス様に顔が熱くなる。



すっかり外ゆきの態度はやめてしまわれて、私へのお気持ちを一切隠してくださらない。



「ランス様、」

「なんだ?」

「その…うう、なんでもありません」



私が蓋をしてしまっていた、貴方への気持ちを伝えれば。

けどやっぱり恥ずかしいのでもう少しだけ、待ってほしい。

その顔はなんだか気づいてそうだけど、それでも。




いややっぱりランス様の態度がべたべたあまあまなせいで言えないんだとおもうな私!






お読みいただきありがとうございました!

追記:誤字報告感謝します!!読みづらくなっており申し訳ありませんでした

追記2:引き続き誤字報告ありがとうございます。またたくさん感想をいただき、他の方が読むとこう思われるのだなあとこちらも楽しい気持ちになっております。ありがとうございます!

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[気になる点] かわいそうな生い立ちなんだけど、何故簡単に命(生きる事)を諦めるのか? 大人しく母親のいる屋敷へ付いていくシーンは理解が出来なかった。 [一言] 面白いけどいまいちルビィの行動や思考に…
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