第六話 秘密会談
*一部、修正しました。
一体全体、どうしてこんな事になってしまったんだろう。
目の前に置かれた珈琲を、ジッと見つめながら考える。
半ば無理矢理に裏路地へと連れて来られた私。この少年陛下と、路地から更に奥まった場所にある喫茶店に来ていた。店員らしき男に店の隅の一角にある、テーブル席へと案内される。
「熱いので、気を付けて下さいね」
私は、不自然な位に緊張していた。
なぜなら、喫茶店の店員であろうその人物に見覚えがあったからだ。
「フェンゼ、私の珈琲は?」
「陛下は今お子様なので、ミルクです」
フェンゼと呼ばれた店員。
フェンゼ・バルフェンス
魔王陛下の従者の一人。人当たりが良い風に見えるが、本心が見えないので割と危険人物にされていた青年。
そんな人物が何故こんな所に?
というか、陛下は少年の姿なのに…何故、彼は前世の姿そのままなのだろうか…?
私はそんな事を延々グルグルと考えていた。
「陛下、そろそろ瑞樹さんに説明して差し上げないと、脳みそが沸騰しそうですよ?」
「へ?」
「あぁ…すまん」
どうやら考え過ぎて、茹で蛸のように顔が真っ赤になっていたらしい。さっきまで、私は中身は大人だから、ミルクは嫌だとか主張していた、少年…もとい陛下が真剣な面持ちになり、私の方に向き直る。
「君には突然の出来事で、配慮が欠けていた。先に謝っておく。すまぬ」
「え?あぁ…いや、はい」
突然の謝罪に動揺してしまう。が、それも一瞬の事だった。
その後の陛下が話す内容に驚愕して、私はそれどころじゃなかったからだ。開いた口が塞がらないというのはこの状況の事だと、身にしみて理解した。
「……界渡り、ですか?」
「そうだ。私達は界渡りをして、今ここに存在する。魂も、姿形そのままで」
「あの…でしたら、陛下は何故少年の姿に?」
「…………」
間があった。どうやら聞いて欲しくなかったのだろうと私は察した。陛下の顔が強ばっている。
「あっ、あの私…っ」
直ぐさま謝罪しようとした私の言葉を遮って、陛下は決心した様子で話し始める。
「いや…言いたくない訳では無い。ただ…恥ずかしい話、私にもよく解らないのだ」
「ふぁっ?」
何故か、頬を少し赤く染めながら話す陛下の予想外な答えに変な声がでた。
…そういえば、この人、変なところで恥ずかしがり屋な癖があったような…
前世の記憶を思い出しながら、私は再度聞く。
「えっと、解らないというのは?」
「言葉通りだが。界渡りをして、気がつけばこの姿だった。魔力がほぼ空になっていたせいなのか、今のところ不明だ」
「それで、瑞樹さんを捜していたんですよ」
「………私?」
話に横入りしたフェンゼの言葉に驚く私を横目に、一瞬ムッとした陛下が答える。
「魔女であった君が、私の魔力を奪っていった可能性を考えていたのだ。しかし今の君には、魔力のひと欠片さえも感じられない。振り出しに戻ってしまったようだ」
要するに、魔力の有無を確認する為に私に接触してきた…と。それで、あんな逃走劇が繰り広げられたのかと思うと、なんか…拍子抜けというかなんというか………走り損?
もっと、凄い理由かと思っていた私は、身体から力が抜けた気がした。
「じゃあ、私はもう用済みという事ですね?それでは帰ります!さようなら!」
「いや!まて!待て待て待て!!用済みとかそういう事じゃなくて…っ!…本当に君は昔から…」
「あのー、痴話喧嘩なら、外でやってくれますー?」
しかし…魔王陛下から魔力を奪う、なんて事が出来る人物がいるのか…と私は内心、思案していた。余程、魔法に精通していないと到底出来る技じゃない。そこまで考えて、私はとある人物を思い出していた。
「……まさか…ね?」
魔法に精通し、とてつもない魔力の持ち主であり、私に魔法を教えてくれた……我が師。
魔法使い、サラバルフェンス…の事を。