第四話 忘却感傷
*一部、修正しました。
「つーかーまーえーた!」
結論から言うと、私は逃げ切れ無かった。
「…っ!いい加減にして!あなたなんか知らないって!」
「うぅ…っ…どうしてそうゆうこと言うのぅ…っ」
怒鳴る私に、少年ーラースは目を丸くし、瞳に涙を溜める。
……ヤバイ……この状況は非常にヤバイ…
「…お姉ちゃんのバカあぁああぁっっ!!」
大声で泣き出すラースに、呆気にとられしまった私は為す術もなく、固まってしまっていた。
周りにいた人達が何があったかとザワザワと騒ぎ出す。
……どうしよう……この状況………
ラースに捕まった場所が悪かった。学校から、歩いて十分程の繁華街。流行りのスイーツ店や人気の雑貨店が並ぶ人気エリアだ
しかも今は放課後。同じ学校の人間がいても、おかしくはない。
「…お姉ちゃん、許してくれる?」
「う…うん」
何をだろうか…。話を合わせておいた方が良さそうだと判断した私は了承する。早くこの場から離れたくて、顔が引きつる。ラースは瞳を輝かせながら私に抱きついた。
「ありがとうっ!お姉ちゃんっっ!!」
ラースは抱きついたのも束の間、間髪入れず私の手を掴み背を向け歩き出す。
「じゃ!行こうか!」
「…え、ちょっ…どこに行…っ?」
私の言葉を遮り、歩き出す。
「あ……少し飛ぶよ?」
「は?!」
ラースが私の手を深く握り直した瞬間、身体全体を浮遊感が包み込み、気がつけば裏路地に立っていた。
「ここ…は?」
「さっきの場所から、少し裏に入った所かそんな所だ」
そんな筈はないと内心私は思っていたが、声には出さなかった。さっきの少年っぽさが一切感じられない声に、ラースはこちらが素なのだろうと私は吞気に考えていた。
「…あの場所は、少し目立つからな。」
……誰のせいだ。誰の。
「あの辺はアイツの管轄内だからな。危険だ」
「…アイツ?」
裏路地をずんずんと奥に進みながら、物騒な言葉を淡々と話すラースに問う。
足を止めたラースはこちらを振り向き、苦々しい顔をしながら名前を口にする。
「………リークウッド」
身体の血流が沸騰するような感じだった。
私はどこかで気づいていた。
これは……警告。
これ以上知ってしまうと、後戻りは出来なくなる。身体全体が心臓になってしまったかのように感じた。ふと、顔を上げると、足を止めたままのラースと目が合う。
「……ラビ。これ以上は後に戻れない。それでも、君が望むのなら私は………」
勝手に突然目の前に現れて追いかけまわし、こんな所に連れて来ておいて、この言い草だ。一発、いや…数発殴らないと気が済まない。…が、彼は最後の最後に選ばせてくれる。
その姿は懐かしい記憶の中のあの人、そのままだった。
私が逃げたのは、自分の傷に向き合わないといけないのが解っていたから。前世の全ては思い出せない。見ない振りをしていたかったけれど、貴方をまた困った顔にさせるのは、私自身でも許せなかった。
「…卑怯だわ。貴方は本当に。」
溜息を吐きながら独り呟く。
逃げ道は一つしか残されていない。のにも関わらず、逃げることは許されない。
私は、この時、覚悟を決めた。決めたつもりだった。私がこの時の覚悟を後悔するのは、まだ先の話。