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第三話 逃走迷走



*一部、修正しました。



   暗い…とても暗い。一体どれほどの時間が経ったのだろう。手首にある鉄の重みに顔が歪む。

 私は、どこで道を違えてしまったのか……今更、そんな事を考えても仕方が無い事…自分自身が一番よく理解している。

 貴方が現れて嬉しかった。貴方は思わず笑ってしまった私を見て、一瞬、瞳が揺らいでいたけれど。

 

  やっと、終わりにする事ができる。そう思ったから。

 


   だから、私は貴方の手を取った。





「………おまえ、何してんの?」

 

頭上から声が降ってくる。校医の日下部先生。


「………ちょっと話しかけないで。壱兄」

「学校内では、先生と呼べ。」



 

  日下部壱弥 (くさかべ いちや) 

 学校の保健医であり、我が兄である。黒髪に銀縁眼鏡。父親譲りの長身で、一部の女子に人気があるらしい。私に言わせれば、裏表が激しい愚兄なのだが。



「ちょ…っ!静かにしてってば!見つかっちゃうじゃん!!」

 

 ガサガサと保健室前の植え込みに隠れていた私。


「…おまえ、何やらかしたんだよ。とりあえず、そこから出てこい」


 恐ろしく黒い笑みを浮かべる壱弥。経験上、この顔の兄に逆らうと後々、面倒臭い事になるので、瑞樹は素直に植え込みから出る事にした。



「んで、何やったんだよ?」

「………何もやってないって」

「………」

「………」


  話が一向に進まないと察した壱弥は、溜息を吐く。保健室に、半ば強制的に連れてこられた私は沈黙を貫く。


「…まぁ、いいや。話したくないんなら、聞かねぇよ。俺に害が無ければの話だ・け・ど!」


 一言余計なのは壱兄の悪いところだ。だけど、今はそれが嬉しかった。…というか、どう説明したら良いか、自分自身にも解らない。

 実は、前世の記憶があって、前世の自分を知っている人物が現れました!……なんて、誰が信じられるものか!兄の事だ。夢でも見たんじゃねぇの?的な、答えが返ってくるに違いない。




「い…っ!何すんの!」


 答えに悩んでいた私の額に、デコピンする壱弥。


「考えんな。考え過ぎて、答えが纏まんねぇ!って、顔に書いてあんぞ、おまえ。また知恵熱が出ても知らねぇぞ」


 痛む額を手で押さえながら、私は愚痴った。


「うぅ…ぐっ、馬鹿兄」

「はいはい、馬でも鹿でもいいから、問題だけは起こすなよ?咲兄や親父に迷惑が……あ、思い出した」

「ん?なに?」


 話の途中で、突然何か思い出したような壱兄。


「あぁ、さっき連絡きて、今日も研究所に泊まりで、晩飯の弁当持って来いって。…おまえスマホ見てねぇのかよ」

「またぁ?これで何日目?」 

 


 私には兄が二人いる。壱兄と父親と同じ研究所に勤める咲兄。壱兄とは十歳、咲兄とは十二歳、歳が離れている。壱兄とは性格が真逆で、小さい頃は何かと咲兄の後ろに隠れて遊んでいた。

 最近は仕事が忙しいのか、父親と揃って研究所から帰って来ない。毎日、この口煩い壱兄と二人で御飯を食べている。最悪だ。

 最近では外食に飽きたのか、父親と咲兄から弁当を所望されるようになった。しかも研究所に配達込みで。



「あぁあっ!面倒臭い…っ!壱兄が行ってよ」

「俺は仕事中だ。…おまえ、それ親父に言うなよ?傷つきやすいんだから」

「わかってるって……はあぁぁ」


 私は大きな溜息をはいた。研究所は自宅とは反対方向にある。非常に面倒。だが仕方無い。咲兄に会えるなら…と良しとするか。 …と、自分を無理矢理納得させた私は、保健室を出る。




「じゃ、先帰るから。壱兄はいつも通り?」

「職員会議があるから、少し遅くなる。けど、食うから残しといて。肉な!肉!」

「今日は魚です!」


 えー肉ー!という兄の声を聞きながら、私は弁当に入れる具材を考えながら、帰路につく。


 

 考え事をしていたせいで、私は全く気づかなかった。……背後にいた少年に。




「みーつけた!」 



この後、私が全力疾走したのは言うまでも無い。





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