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第一話 現実逃避

 


*一部、修正しました。


「私も貴方とともに…っ」


 記憶の最後は困ったような貴方の顔。私は忘れることはない。

 

私の言葉は闇に消えた。




「日下部ー。プリントー」

 

 意識が現実に引き戻される。またやってしまった…。

 前世の私の記憶。前世の私は『魔女』と呼ばれていた。

 

「日下部ー?」

「……なに」

「無視すんなよー。プリントだって!」


 現実逃避していた私の顔に、プリントを投げつけてくる。

 茶色の髪に人懐っこい顔をした、生まれた時からの腐れ縁。

 隣の家に住む、いわゆる幼馴染みというやつだ。

 

「現実逃避してんなよー?」


 …ぐっ……図星だった。

 変なところで勘が良いのが癪にさわる。

 友人の噂によると隠れファンクラブらしきもの、があるらしい。世も末だ。



「新。部活は?」

「話聞いてなかったな?テスト期間中は休みだ。」


 新が溜息まじりに答える。

 


 私、日下部瑞樹は現実逃避をしていた。

 明日から学期末のテスト期間が始まる。私はどちらかといえばあまり勉強が得意ではない、と自負している。前回が散々だっただけに、今回は落とす訳にいかない。


「どうする?勉強みてやろっか?」

 

 新が得意そうな顔をしてくる。 バスケ部のキャプテンをしていて部活で忙しいくせに、毎回必ず平均点以上、私の遙か上の点数をとる。嫌味なやつだ。


「…いらない。なんか視線が痛いし」


 さっきから視線が刺さってくる。おそらく、新のファンクラブの連中だろう。



 いつの間にか授業が終わり、下校の時間になっていた。どれだけ現実逃避していたのだろう。帰る準備をしようとして鞄を手に取る。


「橘君。ちょっとよろしくて?」

「先帰るわ」

「あっ、おい!ちょっとまて…って!」

「橘君!待って下さいまし!」


 帰る準備が出来た私を引き留めようとした新。その前に立ち塞がるかのようにファンクラブの子達が詰め寄る。私は新を生贄にして、脱兎の如く走り去った。新の断末魔が聞こえるような気がする。毎日繰り広げられる光景に、同級生は気にする様子もない。

 


 いつも通りだ。そう、いつも通りが良い。

 変化なんてもう望んではいない。

 


 私は前世で『魔女』と呼ばれていた。前世の記憶は生まれた時にはあった。すぐに理解は出来なかったけれど、もう戻れないのだと、察する事は出来た。生まれ変わった私の周りには新しい家族や新が居て、毎日騒がしくて、それどころじゃなかった気もするが…。



「……ん?」


 正門の所で人が集まっている。何やら騒がしい。

 そこには数人の生徒達と一人の少年がいた。


「君、小学生だよね?お姉さんかお兄さんに会いにきたの?」

「………」

「んー、話してくれないとわかんないなー」

「………」


 生徒の一人が声をかけていた。が、少年の反応はない。


「どうしよっかなー」


 何を聞いても無反応な少年に困り果てていた生徒達が、さわざわと騒いでいた。黒髪の少年はどこか人事のように、周りを眺めている。


「……あ」


 我関せずと、傍を通りすぎようとした一瞬、少年と眼が合った。黒目でどこか懐かしい感じがした。


「あーっ!いたーっっ!!」


「…は?!」


 少年が私を指差して大声をあげる。一気にざわざわしていた生徒達の視線が私に集中する。

 

 …うぅっ…視線が…痛い……



気がつくと、私は少年の腕をつかんで走り出していた。


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