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9章85話 再会

 そして、数日が経ち、南方連合の各国から援軍が来た。

 「おおぉぉぉぉぉぉ!!」

 「援軍が来たぞ!!」

 前線で戦ってきた兵士は援軍が来たことに喜び、大歓声を上げる。

 先日のマリアの鼓舞に加え、援軍が来たことにより、徐々に士気が戻ってきた。

しかし、パーンドゥ朝とアクランダ朝からは相変わらず援軍が来ていなかった。まあ、事情があるため、仕方ない。だが、とりあえずは援軍が来たことにより、兵数だけでいえば人狼と五分五分になった。

 さらに、数日後、人狼と南方連合軍二回目の戦いが開戦した。

 シントゥ川を境に、隊列した人狼と南方連合軍がお互いに睨み合っている。

 今回戦う戦地は、ヒマーラヤのような遮蔽物が無いため、人狼側にとって以前より戦いやすい地形だった。だが、それは同時に、南方側にとっては戦いにくいことを意味する。しかし、今回は山が無いこそすれ、シントゥ川という足止めするには十分な地理的アドバンテージがあった。

 川は渡る際に、進軍するスピードが遅くなるために、その間に敵に攻撃をされることは少なくない。

 つまりは、その川をどう有効活用し、勝利へと導くかが南方にとって問題だった。

 人狼側も南方連合側も、川を挟んで左右に広く展開する。


挿絵(By みてみん)


 人狼側は、左右の部隊に数を集中させ、真ん中を手薄にしている。王道な陣形の配置だ。

 一方で、南方側は、人狼に突破されないよう、均等に広く配置している。人狼の体力を消耗させ、持久戦に持ち越す気だろう。

 「「全軍、突撃!」」

 その合図が両側で行われると、たちまち両軍は雄叫び声をあげながら走っていく。そして、相手の姿がぼんやりと見えてきたところで、遠距離武器で牽制していく。南方側は矢や投げ槍を放ち、人狼を牽制していく。

 人狼はというと…、

 「ぎゃあああああああ!熱いいいいいいい!」

 兵士の叫び声と同時に、南方兵の目前に炎の壁が燃え広がる。人狼の真ん中の部隊にいた数体のイフリートによる炎だった。

 そう、強敵なのは人狼だけではない。イフリートなど他の魔物も従えているため、これがアラッバス朝を苦しめた要因の一つでもあった。

 イフリートは炎を手から生成し、南方側に投げていく。南方連合軍、特に中央の歩兵部隊がこのイフリートの業火にどんどん焼かれていった。

 グロー一行は、義勇兵ということで優遇され、後ろの列に配属してもらっていたが、それでも彼らの恐怖を駆り立てるにはかなり有効だった。十数列前までイフリートの炎に燃やされたのだ。

 グローたちだけではない。南方兵も目の前の光景に、足がガクガクと震えてくる。

 それでも、最前列にいた南方兵は燃やされんとするために、川に自ら飛び込み、自身の体を湿らす。こうすることによって、イフリートの炎で燃やされることを回避していた。

 しかし、これも人狼側の狙いだったのだろう。川に飛び込んだ兵士を、まるで罠に掛かった魚のように、人狼たちはしめしめと嘲る。そして、川でもたついている南方兵を、人狼が掃討していった。

 「くそっ!この卑怯者めが!!」

 南方兵はその人狼のやり口に嫌気がさし、文句を言うが、すぐに断末魔の叫びにかき消される。

 人狼が南方兵を殴り殺していく。そして、

 「戦いに卑怯もくそもあるか。ただ単にお前らの頭が弱かっただけだ。」

と一体の人狼が吐き捨てるように呟く。

 確かに、人狼側の方が上手だったようだ。

 次第に、シントゥ川は南方兵の血で赤く染まっていた。

 その悲惨な戦況を見て、南方兵の指揮官が、

 「おい、あれを持ってこい!」

と兵士たちに命令する。

 「ハッ!」

 兵士たちは、「あれ」で伝わったのか、何かを持ってくるために拠点側へと戻る。

 しばらく、イフリートによる炎からの、川で人狼による掃討が繰り返され、いつの間にか、連合軍の中央部隊が手薄になっていた。

 人狼は「今だ」と言わんばかりに、左右に展開していた部隊の一部を真ん中にぐっと寄せる。そして、左右の端にいた部隊をぐっと外回りに展開させ、南方連合軍を包囲するように仕掛けてきた。

 まさに絶体絶命。そんな状況を見て、指揮官は焦り始める。先ほど、何かを命令していた指揮官も、まだか、まだかと後ろをチラチラ見ていた。

 そして、人狼がじわじわと川を越え始め、距離を縮めてきた。その時、南方兵が何かを引っ張って前線に近づいてきた。

 「あ!」

 指揮官は待っていたというように、その一言だけが口から漏れる。そして、こっちに早く来いというように、手のひらをヒラヒラと内側に揺らせる。

 南方兵はせかせかと走り、急いで「あれ」を引っ張って持っていく。徐々に近づいてくると、その「あれ」の正体がわかる。カタパルトだ。

 南方連合兵は車輪を引いて回しながら、カタパルト(トレビュシェット)を持ってきていた。ただ、カタパルトは木材でできているため、ギリギリ、イフリートの炎が届かない場所に持っていく。

 このトレビュシェットとは、片方には重い岩などを入れた箱が、もう片方にはスリングがあり、このスリングに投げたい石などを設置し、てこの原理を用いて遠くに投げ込む投石機だ。

 このトレビュシェットのスリングに、南方兵は蓋がされている壺を設置する。そして、重しである箱が吊るされている紐を切り、下にすばやく落下していく。逆に、スリングに設置された壺は、てこの原理で上に高く上がっていく。壺は放物線を描き、イフリートや人狼たちの方へと向かっていく。

 人狼たちはその不気味な壺を怪しみ、イフリートに炎で破壊するように命令する。

 「イフリート、壊せ!」

 人狼の一人の指揮官が壺を指さしながらそう命令すると、イフリートは手のひらから炎を生み出し、壺の方へと放射する。

 だが、壺は投げ込まれた振動で、蓋が開きかける。そして、その蓋から零れかけ、中身の正体が垣間見える。油だ。

 人狼の指揮官はそれが目に入り、

 「ちょ、ちょっとま…。」

と言いかけるが、時は既に遅かった。

 イフリートの炎が壺の中に入っていた油に着火し、炎は一気に燃え上がる。人狼たちは巨大化したイフリートの炎に包まれてしまう。

 「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!」

 「熱いぃぃぃぃ!!助けてくれええ!」

 人狼たちは自信に纏わりついた炎を消そうと転げまわったりするが、体毛が人間より多い分、炎が中々消えてくれなかった。

 だが、熱さに耐えきれなくなった人狼は、水を求めて無我夢中で走り回る。

 「水!水!水!」

 そうして走っていると、前方にあるシントゥ川が目に入る。

 「み、水――!!」

 人狼の脳内に、その川に飛び込めと本能が告げる。人狼は本能の赴くままに、目の前にあるシントゥ川に飛び込む。

 「い、生き返った…。」

 体毛に纏わりついていた炎は消えた。水は少し冷たいが、火傷を負っていた皮膚には冷えた水がちょうど気持ちいいくらいだった。

しかし、川に飛び込むことで、人狼に纏わりついていた炎は消え去ったが、新たな脅威が押し寄せる。

 川に飛び込んだ人狼を狙って、南方兵は槍を突き付ける。無防備になっていた人狼は、槍をもろに喰らい、次々に串刺しにされていく。

 一体の人狼に槍が突き刺され、傷口と口から血が流れる。

 「こ、この卑怯者め…。」

 その人狼が南方兵に吐き捨てるように言うと、

 「戦いに卑怯もくそもあるか、と言ったのはどこの誰だったかな。ただ単にお前らの頭が弱かっただけだ。」

と南方兵は人狼の言葉をそのまんま返す。

 先ほどとは逆転の現象が起きていた。

 人狼は勿論強かったが、南方連合軍もそれに負けず劣らずだった。

 「魔物相手に負けてられるか!」

 南方兵が怪我を負いながらも、持っている剣を人狼に突き刺す。そして、絶対に故郷を守るという固い決意とともに殺意を目に宿し、握っている剣の柄をぎゅっと強く握りしめる。剣先はその南方兵の固い意志に応じて、人狼の肉体にズブズブと深く入っていく。

 「が…あ…。」

 さすがの人狼も剣で突き刺され、頭ががっくりと項垂れ、目からは光が消える。

 先日、マリアによって鼓舞された勢いで、南方兵は刺し違えても人狼を殺そうと躍起になっている。

そうして、人狼と南方兵は攻防を繰り返していたが、先の戦いの後遺症が徐々に響いてきた。人狼は人間に比べて1.5倍近く力があるため、同じ兵数では南方側に分が悪い。だからこそ、南方連合は兵を多めに用意していたのだが、先の戦いで兵を多く失ってしまった。その影響がじわじわと表出しはじめる。

人狼は体術に長けているため、南方兵の攻撃を素早く避け、槍や拳などで急所を的確に突いていく。

「死ね!」

南方兵が人狼に向かって横なぎに攻撃を仕掛けるが、人狼は頭を屈め、南方兵の懐に入り込む。そして、肘を南方兵の腹に突き立てつつ体当たりをしてきた。

もろに喰らった兵士は地面でうずくまり、そのまま人狼に剣や拳などで頭をかち割られてしまった。

こうして、せっかく南方兵が人狼を一体、また一体と少しずつ倒しているにも関わらず、人狼はそれを打ち消すくらい次々に南方兵をなぎ倒していく。

 先の戦いほどの圧倒的な絶望が無いにしろ、徐々に、徐々に南方兵を不安へと追い寄せる。次第に、南方兵は口にこそ出さないが、脳内に「再び負けるんじゃないか」という疑いの言葉が出てきては、こびり付いて離れない。

 先日鼓舞されて上がった士気は、一気に熱が冷めたようにどんどん下がっていく。

 だが、南方側の中で、まだ諦めていない人物が(ただ)一人だけいた。それはグローだった。

 周りが怖気づいてしまう中、グローは先陣を切って戦っていく。

 人狼が地面を蹴って、グローに素早く接近する。接近している最中で、人狼は右手で握りこぶしを作り、体を軽くねじらせ、右腕を若干後ろ向きへと動かす。

 その動きで、グローは人狼が攻撃するのだと察する。

 人狼はグローとの距離が縮まると、彼の顔面に目掛けて拳を突き刺す。だが、グローは初動を見切っていたため、頭を早めに屈め、攻撃を避ける。

 人狼の拳は空振りし、ブンと空気を切るような音が発せられる。凄まじい力だ。もし、グローがこの拳をもろに喰らっていれば、顔面は原型を留めていなかっただろう。

 グローは人狼の拳を避け、懐に入り込み、喉を剣で斬りつける。彼の攻撃で、人狼の喉は斬れ、血しぶきが飛ぶ。

 そうして、彼は次々と人狼を倒していった。

 ―俺が仲間を守る。悔しいが、あの謎の声に気づかされた。たとえどんな窮地でも、俺は最後まで戦ってやる。

 彼は自分に言い聞かせるように、心の中でそう覚悟を決める。

 その彼の背中を見て、マリアやイトゲル、カーズィムたちも覚悟を決めて、先陣を切っていく。その彼らの背中を見て、南方兵は、

 「…俺たちも負けてらんねえな。」

と自身を奮い立たせる。

 そうして、南方連合は必死に人狼を食い止めようとする。だが、奇しくも人狼に徐々に押されて行ってしまう。

 ―くそ、あと少し、あともう少し戦力があれば、勝てるかもしれないのに…。

 グローはあと少しの足りない戦力に歯がゆく思う。

 だが、その彼の思いが天に届いたのか、奇跡が起きる。

 南方連合軍の後ろから、何かが近づいていた。

 最初、見かけた兵士は、

 「また人狼の伏兵部隊か…。とうとう終わったな。」

と絶望し、諦めかけてしまう。だが、

 「いや、見ろ!」

という別の兵士の言葉で、彼らはその後ろの存在をもう一度見直す。

 すると、後ろの集団は、ブラフマン教の神などが描かれている旗をかざしていた。アクランダ朝とパーンドゥ朝の旗だった。

 それに気づくや否や、前線で戦っていた南方連合兵は、

 「アクランダ朝とパーンドゥ朝の援軍だー!!」

と大声で叫び、喜ぶ。

 アクランダ軍とパーンドゥ軍の連合部隊が、援軍として来ていた。その中には、ヴォルティモもいた。

 彼ら連合援軍部隊が、今前線で戦っている南方連合部隊に混じる。

 「おう、すまんかった。待たせたな。」

 ヴォルティモはグローたちの許に駆け込み、詫びを入れるように軽くお辞儀をする。

 「おせえよ。」

 グローは本音としては、会えてよかったというところだが、言うのはこっぱずかしくて、憎まれ口を叩いてしまう。しかし、言葉では悪態をついていても、目は涙で潤っており、ヴォルティモには本音では違うのだとすぐにバレてしまった。

 「ま、ちょっとごたついていてな。」

 ヴォルティモがそう言うと、グローたちはクーデターの件などを思い出す。

 「あ、そうだよ!カンバラサ王子のクーデターとか大丈夫なのかよ?」

 イトゲルがそう尋ねると、

 「ああ、パーンドゥ朝とマジャ帝国が同盟を結んだのはいいんだが、人狼が南方に侵入しているのを耳にしてな。南方に戻ってきたんだ。そしたら、今度はアクランダ朝でカンバラサ王子によるクーデターを起こしたっていうのを聞いて、マラバルマン王子が兵を起こして、ゴーヴィンダ王子と共に鎮圧に成功したんだ。そうして、やっと全軍で来たってわけよ。」

とヴォルティモが物凄く重要な情報を一遍に説明してきた。

 「ちょっと待て待て。えーと、一気に言われて情報が追い付かない。」

とグローたちが困惑する。

 「まあ、それは後ででもいいよ。とりあえずは、今の敵だ。」

とヴォルティモが言うと、彼らは、

 「それもそうだな。」

と全員一致で納得する。

 南方連合軍は援軍が来たことによって、士気も戦力も上がった。こうして、南方連合の反撃が始まる。

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