8章82話 クーデター
ドヴァーラハーラ朝から先日、同盟を申請しに行った使者が帰ってきた。使者はゴーヴィンダ王子の許へと向かう。
王子の視界に使者の姿が映ると、
「おー、ご苦労だった。ドヴァーラハーラ朝の反応はどうであった?」
と王子は使者を労う。
「反応は良好でした。あちらも同盟に参加したいとのことです。」
そのことを聞くと、ゴーヴィンダ王子はホッと胸を撫でおろす。
「おー、そうか。今日はゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。」
帰ってきた使者は長旅の疲れを癒すために、自分の家に戻る。
このまま順調に大同盟が結成されるかと思われたが、それを阻止するものがいた。
陛下が王宮内の自室にいると、いきなり扉がバンと力強く開き、カンバラサ王子と彼が率いる兵士がぞろぞろと部屋に入ってきた。
「何事ですか、殿下、いきなり部屋に入るなど。陛下の御前で無礼ですぞ。」
部屋にいた陛下の近衛兵隊長が彼らに一喝する。だが、彼らは気にも留めず、ぞろぞろと陛下に近づく。武器を手に携えて。
カンバラサ王子は、父である陛下が抵抗しないように、複数の兵士に槍の矛先を向けさせ、陛下を取り囲む。
「父上、王位継承権を私に譲ってください。さすれば、命は見逃しましょう。」
カンバラサ王子によるクーデターだ。
彼は口調こそ丁寧語だが、今にも殺す勢いで脅しをかける。
だが、
「カンバラサ、王である私に矛を向けるとは、どういうことかわかっているのか。」
と陛下は取り乱さず、冷静に警告する。
「ええ、重々に承知しております。ですから、父上の命は保証いたします。」
「…私の命は?」
陛下は、「は」という言葉に引っかかる。
「父上もわかっているはずです。ゴーヴィンダのことです。ゴーヴィンダの愚策はこの国を衰退させる。さらに、それを支持する貴族も一定数いる。私はそれが我慢ならないのです。」
「だからといって、今の時期に、こんなことを行うべきではないだろう。反逆罪に当たるぞ。」
陛下は注意勧告するが、
「まあ、事が済むまでそこにいてください。」
と王子は聞く耳を持たない。
「おい、待て!勝手は…。」
王子は陛下の言葉を最後まで聞かず、部屋を出て行ってしまう。
カンバラサ王子が陛下を捕らえるという事件が、ゴーヴィンダ王子の耳にも入る。
「何!?兄上がクーデターを起こしただと!」
ゴーヴィンダ王子は事件の報告を聞き、あまりの驚きで、声が大きくなってしまう。
「はい。そして、王位継承するために、ゴーヴィンダ王子を排除しようとしているらしいです。」
近衛兵がそう報告すると、王子は呆れ顔になる。
「馬鹿なことを…。平定するのに、兵を用意しろ。」
王子がそう命令するが、兵士は困ったような顔をする。
「それが…。カンバラサ王子が半数の兵を捕縛しており、今は兵をかき集めるのは厳しいだろうと思われます。一度ここを出て、立て直すのがよろしいかと。」
兵士がそう進言するが、王子は陛下と王宮が心配で、後ろ髪を引かれる思いに駆られる。だが、今はここを離れることが最善であるため、兵士の進言に従う。
「…くっ、そうだな。それが賢明なようだ。では、カルナータカ領に向かう準備をしろ。」
カルナータカ領はゴーヴィンダ王子を支持する領主がいるため、そこで一旦匿ってもらい、戦う準備をすることにした。
「ハッ!では、こちらからお逃げください。」
兵士は、カンバラサ王子の兵がいない道を予め確認していたようだ。その道を指し示す。
だが、王子がちょっと待て、というように手のひらを前に出す。
「あ、その前に、旅に付き従ってくれた彼らも逃がしてやってくれ。」
王子がそう言うと、
「大丈夫です。彼らにも伝えるように、他の兵に頼んでいます。」
と兵士が答える。
そのことを聞き、王子は安心して王宮を出ることができた。
一方、グローたちにも、別の兵が今回の事件を報告しにきていた。
兵士があまりにも慌てて近づいてくるため、グローは、
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
と心配で尋ねる。
すると、兵士が、
「カンバラサ王子がクーデターを起こしたから、王宮内は危険だ。今すぐここを離れよう。」
と彼らに伝える。
「え!クーデター!?」
グローたちはいきなりの出来事で、呆然としてしまう。
「ああ。とりあえず、ここを離れよう。話はそれからだ。」
だが、悠長に話をしている暇は無いので、兵士は逃げるよう急かす。
「は、はい。」
グローたちは兵士に案内され、王宮を出ようとする
だが、兵士が案内しようとした道には、カンバラサの兵が二人ほどいた。
「クソッ、参ったな。この通路にもカンバラサ王子の兵がいるとなると、どこを通ればいいのやら。」
兵士は困ったように頭をポリポリと掻く。どういうルートで逃げようか考えていると、
「…任せて。」
とカーズィムは言い、姿を周りの色に同化させ、姿を消す。
兵士はそのカーズィムの変色を見て、
「彼はエルバ人だったのか。」
と口を開けて驚いている。
「ええ。彼が“任せて”と言っていたので、一旦彼に任せてみましょう。」
グローがそう言い、彼らはカーズィムを信じ、数分物陰に隠れていると、
「…終わった。」
という言葉とともにカーズィムがグローたちの許に帰ってきた。
兵士が再度、カンバラサの兵がいた道を見ると、二人の兵士は気絶し、地面に倒れている。
さすがジン種族だ。隠密に長けている。
「助かった。今のうちに逃げよう。」
兵士がそう言い、彼らを王宮の外へと導く。
「こっちだ。」
彼らはカンバラサの兵の目を掻い潜り、無事王宮の外へと出る。
とりあえず、安全を確保できたとこで、グローたちは兵士に今回の事の顛末を尋ねた。
「クーデターってどういうことですか?」
「ゴーヴィンダ王子は無事なんですか?」
などとグローたちは一斉に兵士に尋ねるため、兵士が、
「ちょっと一回待ってくれ。一人ずつ質問してくれ。」
と質問攻めを止める。
「すみません。ちょっと取り乱してしまいました。」
彼らが謝ると、
「いいさ。俺らもいきなりのことで焦っている。」
と兵士は落ち着いて、流してくれた。
そして、改めてグローが、
「クーデターってどういうことですか?」
と尋ねる。
「詳しくは俺も知らないんだが、カンバラサ王子が陛下に王位継承権を譲渡するよう迫ったらしい。多分、ゴーヴィンダ王子を敵視しすぎたゆえに、身の危険を感じたのだろう。」
と兵士が彼の質問に答える。
「陛下やゴーヴィンダ王子は無事なんですか?」
とマリアが尋ねると、
「それもわからない。ゴーヴィンダ王子に関しては、他の兵が王子を逃がしているから、多分大丈夫だと思うんだが。」
兵士も王子の安全が確定でないので、心配なようだ。王子を案ずるように、外から王宮をジッと見つめている。
「まあ、ゴーヴィンダ王子のことだ。きっと上手く切り抜けているだろう。」
兵士は無理にでも楽観的に考えるようにする。
「しかし、王子は逃げられたとして、今後どうするのですか?」
マリアがそう尋ねると、
「少し南にカルナータカ領があり、そこはゴーヴィンダ王子を支持する領主がいるから、そこを頼ると思う。そして、ゴーヴィンダ王子支持派の貴族で軍を結成するだろうな。だから、俺らもそこへ向かおう。」
と兵士が答える。
「そうなんですね。了解しました。」
グローたちは兵士の言葉にコクリと頷き、彼らは首都より若干南のカルナータカ領に向かうことにした。街を出て、木々を掻き分けながら、カルナータカ領に着く。そして、カルナータカ領のバダミという街に着くと、中央に貴族の邸宅らしき建物が見えてきた。
兵士はその建物を指さし、
「あれがカルナータカ領主の邸宅だ。くれぐれも失礼の無いようにしてくれ。」
と念を押される。
「勿論です。」
グローたちはそう言うと、領主の邸宅にお邪魔する。
「すみません、ラーシュトラクータ朝の者ですが。」
兵士が邸宅にいる衛兵たちに伝えると、衛兵は、
「もしかして、ゴーヴィンダ王子の兵士ですか?」
と尋ねてきた。
「ええ、そうです。」
「中でゴーヴィンダ王子がお待ちしております。どうぞ中へ。」
と兵士が言い、グローたちを案内すると、中には言葉通り、ゴーヴィンダ王子が待っていた。
「おお、君たちも無事だったか。良かった。」
ゴーヴィンダ王子はグローたちの顔を見るなり、ホッと安堵する。
「ゴーヴィンダ王子も御無事で何よりです。」
お互いに無事が確認出来て、安心していると、
「再会できて何よりですが、王子、戦争への準備をしなければなりませんので、こちらへ。」
と何やらカルナータカ領主らしき人物が、王子を急かす。
「ああ、すまない。時間は無いものでな。指示はそこの兵士から聞いてくれ。」
ゴーヴィンダ王子は向こうの部屋へ行き、どうやらカンバラサ王子との戦争の準備をするようだ。
ほんの少しの再会で寂しい気もするが、忙しいので仕方ない。
グローたちは自分たちのやるべきことを全うするため、
「自分たちは何をすればいいですか?自分たちもカンバラサ王子との戦争に向けて、訓練した方がいいですか?」
と兵士に尋ねる。
「いや、君たちは…。人狼の討伐を手伝ってほしいと伝言を頼まれている。」
グローたちはそのことを聞くと、戸惑ってしまう。
「え、でも、今はカンバラサ王子との戦争の方が先決なのでは?」
マリアがそう尋ねると、
「いや、それがそうとも限らない。人狼の集団がもう南方内に侵入しかけているんだ。今、ガール朝が抗戦している。」
と衝撃の事実が兵士の口から出る。
「え!そんな…。人狼の集団もそこまで迫ってきているとは…。」
カンバラサ王子のクーデターに、人狼の襲来、考えるだけで頭が痛くなってくる。
「そうなんだ。だから、カンバラサ王子との戦争はゴーヴィンダ王子派の有力貴族と共に戦うとして、人狼の討伐を君たちと複数の兵士に任せたい。」
兵士はグローたちの肩にポンと手を置き、彼らに人狼の討伐を任せる。
「了解しました。」
今は悩んでも仕方ない。グローたちは威勢よく依頼を受け、人狼の討伐に向けて準備をした。
すみません、引っ越しやら何やらで3月はバタバタしてました。大分遅れてしまい、申し訳ありません。




