表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/137

8章80話 マジャ帝国

 ヴォルティモたちはペリンバンの街で少し休憩をすることにした。

 王子は安全のため、身バレ防止でフード付きのローブを深く被る。兵士とヴォルティモは王子の側を離れないようにしながら、ペリンバンに降り立つ。

 彼らは首都ウィルワティクタまでの海路を聞き、食糧などを調達する必要があった。

 港に降り立つと、街の賑やかさに圧倒される。

 マジャ帝国の国民はとても活気があり、皆楽しそうに働いている。その道行くマジャ人に兵士は道を尋ねる。

 「すみません、首都までの道ってどう行けばいいですか?」

 「えーと、首都に行くとなると…。こういう道でいけば安全に行けるよ。」

 マジャ人は丁寧に首都までの海路を教えてくれた。

 マジャ人は外国人や異民族だからといって警戒せず、気前よく道案内などをしてくれる。多分、他の国に比べて、異民族や外国人と触れ合う機会が多いから、抵抗感が薄いのだろう。

 「あんたら、南方の方から来たのか?」

 マジャ人は兵士たちの風貌をジロジロ見て、そう尋ねてきた。

 「ああ、そうだが。」

 兵士は、なぜ聞いたのか不思議に思い、怪訝そうな顔をする。

 「だったら、せっかくだし、うちの街の屋台で食べていきなよ。おいしいよ。」

 そのマジャ人は街の屋台を指さしながら、そう言う。

 どうやら、兵士たちが心配するようなことではなさそうだ。純粋に屋台などを勧めたかったのだろう。

 「あ、ああ。わかった。」

 彼らはマジャ人がおすすめしたように、屋台に向かい、屋台で魚の串焼きなどを買う。

 ヴォルティモはマジャ語を話せないため、指を四本立て、串焼きが四本欲しいと伝える。

 屋台の店主はコクリと頷き、魚の串焼きをヴォルティモに渡す。

 ヴォルティモはそれらを兵士と王子に手渡そうとすると、兵士が待てと言わんばかりに、手のひらをヴォルティモに向ける。そして、自身で食べ物の安全性を確かめるように、串焼きを先に食べる。数分経っても、体に異変を感じないことを確認し、王子に串焼きを渡す。

 「どうぞ。」

 「ああ。」

 王子は兵士から手渡され、串焼きを口にする。

 確かに、王子という身分やこれから会談を控えていることを考えると、食中毒などには気を付けなければならない。兵士として当然の配慮だろう。

 だが、屋台の店主はバツが悪そうに彼らを見ていた。

 彼らはある程度腹ごしらえをすると、再び船に乗り、首都ウィルワティクタへと進む。

 そして、船でまたしばらく数日進むと、次の港に着いた。ここは、半島の先端に位置するパハンという港町だそうだ。

 彼らは船を降り、またもや活気のある街に出会う。

 多種の民族や種族に溢れ、街は人で溢れかえっている。物も多種多様で、この間の街のように様々な商品が売られている。国民が身につけている装飾品からも、この国の豊かさが窺える。

 街の住居は全部木材でできており、高床式になっている。このマジャ帝国は年中熱く、雨も多いという。度々水が入ったバケツを空からひっくり返したようなにわか雨(スコール)も降るという。そのため、洪水被害も多く、住居が全部高床式になっている。

 この辺りの地域は気候的に植物が育ちやすく、密林に囲まれている。港付近は開拓されているため、まだ開けているが、少し外れれば人気のない密林に入る。これだけ密林が多ければ、住居が木材でできているのも納得だろう。

 だが、この生い茂った密林のせいで、陸の道は舗装されていないため、再び船で海の道を辿るしかない。

 彼らは食糧などを調達すると、足早に再び船に乗り、次の街へと向かった。

 船で波に揺られながら、海を進んでいく。ここから先はマジャ皇帝の直轄領になる。

 このマジャ帝国を統治するのは、勿論マジャ皇帝であるが、マジャ帝国は地方によって複数の王朝があり、それぞれの王が治めている。

 元々リザードマンは、現在の華夏帝国南部に住んでおり、海洋貿易で生計を立てていた。だが、華夏帝国が南部まで支配地域を拡大すると、リザードマンは吸収され、華夏帝国の民となった。今でいうマジャ帝国の地域に住んでいた人たちは、姓を持っていなかった。だが、華夏帝国による同化政策で、リザードマンは陳という姓を付けられ、文字などの文化も強制させられた。

 だが、後にリザードマンが反乱を起こし、華夏帝国から独立する際に、元々南に住んでいた複数の港市国家及び豪族が協力したため、複数の豪族の連合政権の色が強い。大きく分けて、シュリーヴィジャヤ朝、スコーダヤ朝、カンブジア朝、ピュガーマ朝などの有力王朝がある。先ほどの港町はシュリーヴィジャヤ朝の支配地域だ。

 では、高い自治性を持っているのにも関わらず、なぜ反乱を起こしたり、独立をしないのかという疑問が出てくるだろう。理由は、上の華夏帝国という強大な国を恐れて、マジャ帝国に属しているのだという。他にも、この東南の地域は王や皇帝などの支配者が有能であれば、その国に従属することは普通のようだ。なので、マジャ皇帝には協力的ではあるが、政治には度々干渉してくるという。皇帝にとっては厄介な存在かもしれない。東方では、舟中敵国という味方も敵になるという意味の言葉があるが、まさに的確な言葉といえよう。本当に恐れるのは、敵よりも味方とも言えるかもしれない。

 海をしばらく進んでいくと、先ほどとは別の半島が見えてきた。その半島の先端には大きな港町があり、高い塔のある建物も見えてきた。その建物は、南方の建築様式に似た塔の天辺が蕾のような形をしている。

 ―あそこが首都のウィルワティクタか。

 船は港に停まり、そこから王宮まで移動する。だが、この街は、街全体にも運河が敷かれており、とても移動がしやすく設計されていた。


挿絵(By みてみん)



 ヴォルティモや王子たちはスイスイと王宮まで舟で移動していった。運河を渡りながら、横の街並みを眺める。市場は勿論のこと、この街は工房も多く見られる。ヴォルティモが工房をジッと見つめていると、舟を櫂で漕ぎ進めている船頭が彼に話しかける。

 「工房が多いだろう。ここら辺は金が多く採れるから、金細工職人や工房が多いんだ。まあ、俺みたいな平民からすれば、関係ない話だがな。」

 船頭は明るくガハハと笑いながら、そう語ってきた。

 「アハハ…。」

 ヴォルティモは船頭の他愛もない話に愛想笑いをする。

 それからも船頭は、マジャ帝国の名産品の情報から自分の奥さんや娘が可愛いなどどうでもいい身内話をしてきた。しばらく長い話が続き、話の途中で、舟が目的地の宮殿近くに辿り着く。彼らは舟を降り、そそくさと宮殿へ向かう。

 宮殿前の門に着くと、兵士たちがパーンドゥ朝からの使節だと証明するため、王家の紋章が記された書状を門番たちに見せる。その書状を見るなり、彼らを宮殿内に入ることを許可してくれた。彼らは使用人に案内されながら、会談の間へと案内される。

 そこには、金の縦長な筒のような王冠を被っているリザードマンが、長いテーブルを挟んで椅子に座っている。首や手首には金の装飾品が飾られており、文字通り輝かしい。マジャ皇帝のクルタナガラ陛下だ。

 皇帝の隣にはワニのリザードマンが武器を手に携え、佇んでいる。そのワニのリザードマンの腕や脚は太く、背丈も高く、筋骨隆々としている。

 だが、皇帝はその将軍に比べて、腕がほっそりとしており、正直に言うと強そうに見えない。だが、その目から覗かせる鋭い眼光と不思議と畏怖を覚えさせるオーラがある。

 マラバルマン王子は、陛下の正面の椅子に座り、ヴォルティモや兵士は王子の後ろに立つ。

 王子はコホンと咳払いをし、本題を話し始める。

 「実は、貴国と同盟を結びたいのですが。」

 王子がそう申請すると、

 「ほう。なぜですかな。」

と陛下はその真意を尋ねる。

 「実は、南方全体で連合を組みたく、それには内外からの干渉を退けるために、貴国の経済力や軍事力が必要なのです。さらに、人狼の集団も南方に近づいてきているので、その討伐も協力していただきたいのです。」

 陛下は手を顎に付け、真剣に話に耳を傾ける。

 「なるほど。話は分かった。我が国としては、その申請を受けてもいいと思っている。昔、我が国が華夏帝国から独立するとき、昔の南方の国が協力してくれた恩があるから、その時の恩返しをしたいという気持ちはある。」

 この国は街並みなどから分かる通り、かなり南方の影響を色濃く受けている。先ほどの豪族の名前も南方の言葉から取っており、宗教もブラフマン教と土着の宗教が入り混じった宗教を信仰している。これは、高度な文明の南方を尊敬しているのもあるだろうが、上の華夏帝国に反抗してというのも強いだろう。

 だが、陛下は少しの沈黙の後、口重そうに話し続ける。

 「…だが、我が国は分かる通り、華夏帝国と対立しており、例年小競り合いをしている。だから、徒に兵士を死なすわけにはいかんのだ。」

 陛下は試すように使者を見下ろす。

 マジャ帝国と華夏帝国は定期的に戦争をしていた。その様子から「竜騰虎闘」という互角の力を持つ二者が戦うという意味の言葉が生まれたぐらいだった。マリアはそのことを交渉に使ってみることにした。

 「…ならば、貴国が華夏帝国と戦う際、我らの国から兵をお貸ししましょう。相互に安全を保障する同盟を結ぶのです。」

 その答えを望んでいたようで、陛下は小さく頷く。だが、承諾の返事はまだ聞けない。どうやら、これだけではまだ足りないようだ。そうなると、資源や特権の割譲を条件に出すことになるだろう。だが、このマジャ帝国では、鉱物資源や水産資源、木材などの資源にはかなり恵まれている。そうなると、マジャ帝国にとって惹きつけられる資源は限られてくる。それは、…

 「それと、我が国が統一した際に、貴国だけに胡椒や綿を安く譲るよう約束します。」

 王子がさらに追加の条件を出す。

 そう。綿と胡椒だ。華夏帝国は絹を寡占状態で生産し、輸出しているが、絹は品質が良いだけに単価が高い。また、マジャ帝国でも麻を育てているが、保湿性に富む綿もある程度は需要がある。

 さらに、この東南の地域でも香辛料は取れるが、胡椒とはまた違うものであるため、胡椒も需要がある。特にここは湿気も多く、食糧が腐りやすいため、胡椒のように食糧の保存に利くものは、とても需要が高い。

 クルタナガラ陛下は、まあ及第点かなというような表情をし、頷く。

 「それはありがたい。胡椒も綿も我が国でも使うからな。では、この同盟を締結しよう。」

 陛下はそう言い、傍にいる使用人に契約書を持ってこいと命令する。使用人は契約書を持ってきて、陛下がそれを手に取る。その契約書に陛下と使者がサインをし、握手を交わす。これで、パーンドゥ朝=マジャ帝国間の同盟が締結された。

 同盟が締結された後、祝いの酒が交わされた。食卓には多くの料理と酒が並べられている。酒は米やヤシの実で作られた甘め酒があり、料理も香辛料や香菜が利いたスープや肉料理などがある。料理やお酒は美味しいが、少しクセがあり、食べ慣れてないため、若干の抵抗感がある。だが、せっかく出されたものなので、無理にでも口に運んだ。

 皆で食事を交わしていると、クルタナガラ陛下の傍に部下が近寄る。

 「何!?」

 陛下が突然大きな声を上げ、驚いた表情をしている。陛下はこちらに顔を向け、深刻な表情で語り掛けてきた。

 「マラバルマン王子、早く南方の地に帰った方が良いかもしれない。今、人狼の集団が南方の地に侵入しかけているらしい。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ